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十七の巻

 次の週末の土曜日、繚華ちゃん・萊ちゃんと合流してお山の迷宮に車を走らせながら上った話題は東京に引き続いて、宮城の迷宮も沈静化した話題だった。

「あの噂、本当やったんやね」

「私、そのニュース見た時なんかほっとしてもうたよ」

「分かる! あたし、もし駄目だったらそのシーカー、顔写真付きで詐欺師かなんか扱いされて袋叩きにされる思うてたもん」

「せやね」

「ほんとになぁ」

 先週お祖父ちゃんと話していた事を言うと二人も同意した。


 でも、本当にそれが可能になったとして残りの迷宮も沈静化させるのだろうか?

 特に迷宮特需が有る訳でも無いし、国が規制するとは思わないが。

 大人のずるい世界の事は正直分からない。

 だからこそ、読めないからこそ不安になる。

 国内の迷宮氾濫や、諸外国の氾濫による不況の余波を受けて当時の政権が維持出来なくなったのが理由で、政権交代が起こった。

 結果、良く分からない迷走をする政党が与党になった事も不安材料ではあったし。

 日本型リベラルの与党の議員には執拗にシーカーを叩く人間も多いとネットでは言われているし。

 足を引っ張られないか不安が日々募っていく。


 そう話をしている内にお山の迷宮の駐車場に到着する。

 迷宮に出来るだけ近い所に車を止めて、もう真冬の寒さの車外に出ると身震いをする。

 トランクを開けて急いで当世大鎧を身に着けて迷宮に向かうと見慣れない人影が視界に入る。

 見慣れないけど動画やSNSではよく見かける「鎧男」が迷宮に相棒を一人連れて入っていく所だった。


「なあ、あれって鎧男やったよね?」

「ウチにもそう見えたけど……」

「なんで東京ん人がここに居るんやろ?」

 確かに東京の迷宮が沈静化したならどこかの迷宮の間引きに参加する事も有るとは思うけど、わざわざ京都に来たのかが不思議だった。

「宮城の迷宮も沈静化したから、かもなぁ」

「ああ、そうやね」

 あたしの言葉に萊ちゃんが同意するが、繚華ちゃんが何か考える素振りをしている。

「どないしたん? なんか気になるん?」

「ウチの予想言うか思い付きなんやけどなぁ? 鎧男が沈静化させたシーカーやないか? 言う気がするんよ」

 そう繚華ちゃんがにわかに信じられない事を言った。

「え、そうなん?」

「予想やって。でもわざわざ京都まで足を延ばす必要性も無いんとちゃう?」

「まあ、そうやろうけど……」

 繚華ちゃんの言いたい事は何となく分かるけど、そんな凄い事した人がいきなり現れるのか? と疑問に思ってしまう。

「なら、ちょっと見学させてもらわへん?」

 萊ちゃんも気になっていたのか、付いて行こうと主張する。

 確かに、あたしも興味はある。

 他所のシーカーがどんな感じなのか、見てみたいと思った。

「せやね、見に行ってみよか」

 そう言うと三人で急いで鎧男を追いかけた。


 結果として、あたし達の追跡は一時間掛かった。

 ケミカルライトを追って歩き通し、途中一度も幽体とは遭遇していない事から明らかに先行したシーカーが駆除した直後なのが分かる。

 なのに追いつかない。

 あたし達三人で幽体を駆除するのに掛かる時間がだいたい十五分から二十分。

 移動だけのあたし達が一時間追いつけないと言う事は最初の出遅れの数分の距離がほぼ詰められていなかった事になる。

 そう考えると異常とも思えるペースだった。

 勿論、幽体と何度遭遇したかで時間も変わってくるにしても、だ。

「なあ、これって……」

「せやね……」

「繚華ちゃんの言う通りやったかもしれへんね……」

 ここまで来ると驚きを通り越して戦慄(せんりつ)を覚える。

 五分の差を埋めるのに一時間掛かるって、どこのフルマラソンだろう?

 そう思いつつ早歩きで進んでいくと微かに鈴の音が聞こえた気がした。


「なあ、今のって鈴の音やった?」

「鈴やと思う」

「なんで鈴?」

 揃って首を傾げながら先に進んでいくと暗視の視界の中で二人の人影が幽体を斬り付けて消滅させた所だった。

 一人が落ちた金の粒を拾ったのだと思うが、しゃがみ込んだ後はまた奥に進んでいってしまう。

「あの! ちょいとすんまへん!」

 迷いの無い動きで歩き去ろうとしている二人に慌てて声を掛けて呼び止める。

「はい、何か?」

「あ、あの、東京の方ですよね? お話聞かせていただきたいのと、見学させてくれはりますか?」

 自分でも思う、物怖じしないと言うか、図太いと言うか、そんな押しの強さを発揮させてその二人のシーカーに話しかけた。

「奉、どうする?」

 ヘルメットを被った、一般的なシーカー装備を身に着けた人が武者姿の人に声を掛けた。

「別に問題はな……あぁ、君達が綵のデザインした大鎧で活動している京都のシーカーか。なら歓迎するよ」

 黒い具足を着込んだ――噂の鎧男があたし達の当世大鎧を見て明るく声を発した。

 あたし達の大鎧のデザインをした本田綵さんとは親しい知り合いらしい。

「ありがとうございます。お二人共えらいペース速いですね」

 入口から追っかけて来たのに一時間も追い付けなかった事を説明するとヘルメットの人が笑った。

「それはこいつが奇人だからな」

「そういう事言うなら数珠丸写しを返せ」

「お前の刀が奇人の奇行じゃないなんて誰が思うよ」

 そんな大人の男のやり取りに少し、少しだけソワソワしつつ、二人の後ろについて戦い方を見学する事になった。


 数百m進んだ所で幽体がゆらりと姿を現した。


 鈴の音がしたと思った瞬間、鎧男は一気に間合いを詰めてその両手に握る二刀を振るった。右手の小太刀で横に薙ぎ、左手の小太刀で突き、腰を切って袈裟斬りで振り下ろす。


 一秒程の間に幽体は消滅した。

 その手際の良さに目を見開いてしまう。

 後ろ姿は本当に現代なのかと思うくらい浮世離れしていると言うか、なにかの物語の様だった。

「三手、で……」

「一瞬や……」

「考えて出来る動きちゃうよ……」

 速いのに無理が無い、そんな動きを見たあたし達はそれぞれが独り言を呟いた。

 言葉にするのが凄く難しい、幽体を斬る為だけに研ぎ澄まされた動きと言えば良いのだろうか?

 ()()()()()に生きている武人? がそこに居た。


 鎧男は金の粒を拾って何かのケースにしまい、あたし達の方を一度見てからまた奥に進んでいった。

「えっと、あの!」

「ん? ああ、自己紹介してなかったな、俺は羽生(きょう)(すけ)、こっちは祟目奉(たたりめまつり)、よろしく」

「よろしく」

 二人の年長者に挨拶をされて慌ててあたし達も挨拶を返した。

「あの、祟目さんの武器はなんでそないに効果高いんですか?」

 あたしの問いに祟目奉、鎧男は一度首を傾げてからこう答えた。

「幽体の弱点全部乗せ、だからかな?」

「それはどう言う?」

 ネットで読めるレポートの箇条書きに成った要素を全部詰め込んだ日本刀を使っている、と言う事だろうけど。

 見た感じ、変わっているのは鍔に鈴が付いている位だった。

「明るい所で見ないと分かり難いだろうから、昼は外に出よう」

 そう言うと鎧男は今度こそ迷宮の奥へと足を進めていった。

「ごめんね、あいつ間引きに関しては手が抜けないヤツなんだ。大目に見てやって欲しい」

 羽生さんはそう祟目さんをフォローしながらあたし達を促して奥に向かった。


 それからはお昼近くまで幽体を探して歩き続けて、お昼を少し過ぎた頃に地上に戻ってきた。

 視界が切り替わった所であたし達は兜を脱いだ。

 面頬を四人が外し、羽生さんもヘルメットを脱いだ。

 ヘルメットで見えなかった羽生さんの端正な顔が露わになって一瞬息を飲んだ。

 ちょっと予想していなかったハンサムな顔立ちに少し腰が引ける。

 祟目さんも優し気で整った顔立ちだけれど、羽生さんのは別格だった。

 この二人がさっきの軽口のやり取りをしていたと思うと頬が赤くなる気がする。

 ちらりと横を見ると二人も似た様な顔をしている。

「食堂に! 案内します!」

 萊ちゃんが慌てて二人に声を掛けると男性陣は大人の落ち着きを見せて微笑んだ。

 どうにもすわり心地の悪さを感じる。

 少しだけ、萊ちゃんがあたし等以上にソワソワしている様子が気に成ったし、少しだけ嫌な気持ちに成った。

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