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十五の巻

今回は少し短めです。

 手早くエンジンを掛けてエアコンを全開にした。

 車内の熱気が開いたドアから流れ出ていく。

 トランクを開いて鎧櫃の蓋を外す。

 大鎧を着たまま運転は出来ないから仕方が無い、と割り切って大急ぎで全身から装甲を外して順々に納めていく。

 薙刀も車内の天井に設置したホルダーに固定する。

 車内の温度も下がった所で車を買い取り所の傍に移動させる。

「あちちっ、手ぇ火傷しそうや……」

 ハンドルを冷ましながらステアリング操作して入り口の脇に車を寄せる。


 少し待っていると二人が出てくるのが見えた。

 あたしも車を降りる。

「赫里ちゃん、お待たせ」

 トランクを開けて二人の鎧櫃を手前に引き出していると繚華ちゃんに声を掛けられた。

「赫里ちゃん、これ赫里ちゃんの分」

 繚華ちゃんが差し出した封筒に入った現金を受け取った。

 二人が鎧を脱いでいる間に運転席に移動して、封筒の中身を財布に移しておく。

 昨日よりペースを落としたからやっぱり目減りはしたけれど、何事も安全が最優先。

 そんな事を考えながら二人を車内で待つ。

 数分で二人も当世大鎧を鎧櫃に納めて車に乗り込んできた。


 バタンとドアが閉まり車外の暑さと車内の涼しさが遮断される。

「あぁ~外暑かった~車涼しい~」

 繚華ちゃんが余程辛かったのか、強烈にぼやきながらエアコンの風をツナギの襟口を広げて体を冷ましていく。

「せやね、迷宮から出ると暑いもんな。繚華ちゃん、それ乙女としてどうなん?」

 容姿とかけ離れた事をする繚華ちゃんに取り敢えずツッコんだ。

「丈夫なんはええんやけど、通気性は皆無やし、大目に見て」

 完全に女子高ノリであちこち寛げていく姿に呆れてしまう。

 一番やりそうにない娘なだけに言葉が続かない。

「そうや、萊ちゃんこないだも告白されとったけど、結局どうなったん?」

 萊ちゃんが告白されて、その顛末を聞いていなかった繚華ちゃんが後部座席の萊ちゃんに話を投げかける。

 断ったのだけは聞いていたけど、細かな事は聞いていなかったから萊ちゃんの答えを、真面目に運転をしながら聞き耳を立てる。


「どうなったって言われても、断ったで、ってしか言い様があらへんのやけど?」

「やっぱし断ったんや? 今度のはどないな男やったん?」

「どない、言われてもなぁ。よう説明出来ひんよ」

 あたしも聞いた話ではテニス部の二年生だと言う事だけだった。

 萊ちゃんにモーションを掛けるのだからイケメンなのだろう。

「なんや、軽そうやったから……」

 萊ちゃんの呟きが全てだった。

 この娘、両親の離婚から、軽い男・軽く見える男が大の苦手だった。

 多分萊ちゃんに告白する時に一方的に喋り倒したのだろう。

 イメージで決め付けるのは良くないけど、トラウマを刺激し続けられて長続きする訳も無い。

 そう言う意味でも縁が無かったのだと思う。

 そう思いながら少し、ほんの少しだけ安堵してしまった。

 上手くいくなとは思わないけど、上手くいかないで欲しいと微かに願ってしまう自分の醜さに自己嫌悪してしまう。


 そうこうしている内に萊ちゃんの家に到着した。

「お疲れさん、明日もおんなし時間に迎えに来るなぁ」

「おおきに、明日も頑張ろうね」

「萊ちゃん、また明日なぁ」

 そう挨拶を交わして繚華ちゃんの家に向かう。


「なあ、赫里ちゃん。どないすんの? このままなんもしいひんくてええの?」

 萊ちゃんを下ろして少しした所で繚華ちゃんがズバリ切り込んでくる。

 さっきの話の時に表情を読まれていたみたい。

「どないするって、どうしたらええかあたし分からへんし」

 正直、自分の気持ちが本物なのかも自信が無い。

 気になると好きが同じ意味とは限らない事くらいは知っている。

「まあ、焦って結論出すものちゃうけどなぁ」

「うん……」

 繚華ちゃんになんの返事も出来ないままあたしの運転する車は目的地に到着した。


「はい、到着」

 あたしがそう言うと、繚華ちゃんは助手席から下りて車の後方に回った。

 トランクを開けて固定した薙刀を回収する。

「ありがとうね? また明日。思い詰めるんはええことないよ?」

「うん、ありがとうな? また明日な」

 挨拶を交わしてからトランクを閉めて繚華ちゃんも家に入っていく。

 それを見送ってから家に向かって車を走らせる。

 陽も落ちて辺りは薄暗くなっている。

「あたしの気分とおんなじやなぁ……」

 そう呟いてヘッドライトを付けてゆっくりと車を走らせた。


「人を好きになるって……ややこしいなぁ、しんどいなぁ」

 思わず口を吐いた言葉に自分でも驚いたけど、これがあたしの本心なんだと思い知らされた。

次話から新章となります。

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