十四の巻
「ねえ、赫里ちゃん、繚華ちゃん周り見て思たんやけどなぁ? 皆武器を二種類持ってるのんは予備で、やんなあ?」
「せやね、ウチ等も予備の武器持った方がええんやろなあ」
萊ちゃんが周囲を観察して気が付いた事に繚華ちゃんも同意する。
確かにあたしや繚華ちゃんは長柄の得物を使っている分、間合いを詰められた時に困る可能性はある。
「短刀か脇差か、携帯した方がええんやろうなぁ……」
蔵の中にそれらしい物も有った気もするが、どうだっただろう?
取り敢えず後援会長――お祖父ちゃんに蔵に三振りの脇差が無いか、予備武器が欲しい旨メールをしておく。
農家の蔵で死蔵された刀剣に名品がある筈も無く、二束三文の数打ちがせいぜいだと思う。
余っていて使わないならあたし達で使う方が世の中の為だ。
「後援会長にメールしといたさかい、なんか探してくれる思う」
そう言って堪え切れずに小さく笑う。
祖父を後援会長と呼ぶのが面白過ぎて苦笑する。
繚華ちゃんも萊ちゃんも苦笑していた。
「後援会なぁ……」
「反応に今でも困るんやけどなぁ……」
あたし達は苦笑したまま食事を続けた。
高校生で後援会があるという事実が、どうにも座りが悪い。
座りは悪いけど、防具や武器の手配は正直助かるし、あまり強く言えない部分でもある。
食事を終えて食後のお茶で一息つきながら三人で話し込んでいた。
動画サイトでお気に入りのチャンネルの情報交換をしながら胃袋が落ち着くのを待つ。
「ウチ、このキャンプ系の動画地味に好きなんよ」
「え、繚華ちゃんキャンプ好きなん?あたし初耳」
「私も聞いた事あらへんかったわ」
あたしと萊ちゃんが意外そうに、と言うか本気で意外だった。
あたし等の顔を見て苦笑しながら繚華ちゃんは首を振った。
「動画を見てウチもやってみたくなってん」
ぱっと見、和風美人の繚華ちゃんとキャンプはかなりのミスマッチで面白い。
頭の中で繚華ちゃんの登山服姿を思い浮かべて、その似合わなさに吹いてしまう。
「ちょい! そらどないな意味?」
「だって、繚華ちゃんの登山服姿どう考えても似合わへんねんもん」
繚華ちゃんの抗議に萊ちゃんが笑いを堪えながら答える。
全く持って同感だけど、その言い方だと繚華ちゃんが拗ねるのが分かっているのであたしも言葉を重ねる。
「繚華ちゃん、自分が和風美少女やって自覚有る? 流石に登山服やと浮くで?」
繚華ちゃんの顔の前で指を左右に揺らしながら断言すると頬を染めながら、頬を膨らませて横を向いた。
萊ちゃんと顔を見合わせて二人で笑うと繚華ちゃんの頬の膨らみが増して更に笑いを誘う。
あまり拗ねさせても悪いし、親友のスネテレも見れたしこの辺にしようと萊ちゃんとアイコンタクトを取った。
「さて、そろそろ午後の部、いこか」
二人を促して一度トイレに寄ってから再び迷宮に足を踏み入れる。
休憩を終えたシーカーが続々と通った為か、狼と全く遭遇する事無く一時間近く進んで行った。
集中力は途切れてはいないが、気分転換に時折雑談をしながら歩みを進めていく。
丸々一時間歩いた所でケミカルライトが無い分岐にようやくたどり着いた。
「こっから先は手つかずやね」
繚華ちゃんがあたし等に気を引き締める様に、と声を掛ける。
「油断せんといこか」
そう言うと自然と薙刀を握る手に力が入る。
ポケットから先程回収したケミカルライトを落として誰も入っていない通路に足を踏み入れる。
ここから先はいつ狼が飛び出してくるか分からない。
少しだけ腰を落として進んで行くと数分で狼の唸り声が聞こえてくる。
緑と白の視界に伏せてこちらを窺っている狼が四頭見える。
深く息をしてから中央に駆け込んですれ違いざまに薙刀を一閃させて一頭の狼の頭を割り、そのままの勢いで一番奥に居た狼に襲い掛かる。背後でも床を蹴る音が聞こえる事から二人も戦闘を開始したのが分かる。薙刀を横に倒して剣術で言う所の平突きを連続で繰り出す。突きに対して横や後ろに飛び退く狼の動きを観察し、飛び退く速さと距離を測る。突きだけに絞った攻撃を繰り返して、狼の認識を意図的に絞っていく。大きく踏み込んで突きを放つと狼が右に躱す。すかさず腰を捻り、刃を右方向に薙いで狼の前足を切り飛ばす。横倒しに倒れた狼がもがきながら身を起こした所でその首を落とした。
急いで周囲を確認して他に狼が潜んでいないかを確認してから二人の方向に目をやると、こちらももう片が付いていた。
二人とも残心の後に周囲を見回してから深く、肺の中に溜めた息を吐き出した。
「お疲れさん、そっちはどうやった? こっちは誘導に簡単に引っかかったわ」
「こっちも同じやね、ウチの誘いを疑いもしいひんかった」
「せやね、脳筋いうんかな? 面白い位罠にはまりよったなぁ」
つまり先程の妙に手強い狼とは個体差なのは確定だろう。
それも人の得物を知ってる様に思える個体も居る、というのは少し困る。
「人間を知ってる狼居るのがめんどいなぁ」
「ニホンオオカミ絶滅したのんっていつやったっけ?」
「え? 分からへん。令和平成昭和……、昭和かな?」
「ウチも知らへん」
繚華ちゃんも萊ちゃんもあたしも知らなかったので休憩がてら調べてみる。
「明治には絶滅してるんや……。つまり江戸時代やらその前の時代には居たって事やなあ。せやったら人間の武器も知ってるかぁ」
まあ、刀や薙刀で狩りをしていたとは思わないが、人間に狩られる側だという認識はある様に思える。
いや、そう認識している個体も居る、だろうか。
そんな個体が居ても居なくてもあたし達シーカーには関係は無いけど。
間引きをし続けて氾濫させない、それがあたし達シーカーの役割だ。
多少面倒では有るけど、誤差とは言わないけど、あたし達の都合なんて関係なく氾濫したら死人が出る。
それがあたし達の現実ではある。
「そろそろいこか?」
繚華ちゃんの言葉に応じて毛皮を回収してから、あたし達は迷宮の奥に進んで行く。
それから一時間ほど奥を探索して四つの群れと遭遇し、全てを駆除してから来た道を戻った。
帰り道でも二度ほど狼の群れと遭遇したが、特に手古摺る事も無く駆除出来た。
「まだ、外は暑いなぁ」
目元と口元に触れる空気と日の強さに思わず声が漏れる。
「真夏日やからなぁ」
「ウチ、夏の暑さには一生慣れれる気がしいひん」
萊ちゃんのぼやきに続いて繚華ちゃんがあたしも同感な弱音を吐く。
本当に、気温の低い迷宮から真夏の京都の山の中、この気温差だけで具合が悪くなりそう。
兜を脱いで買い取り所に移動する。
午前中の分は既に売ってあるけど、ここで面倒がるとまた部屋に毛皮が溜まって面倒な事に成る。
たった数十m離れた買い取り所に行くまでにじんわりと汗が滲んでくるのが分かる。
「う~、暑い……」
「ほんまに。ウチ暑さで気持ち悪なってきたわ……」
「髪張り付いてきしょい……」
この暑さにあたしは少し考えて繚華ちゃんに提案する。
「繚華ちゃん、あたしエアコン掛けて車回してくるさかい、あたしの分もお願い出来ひん?」
「せやね、日向に置いとった車ん中やもんね、ええよ」
リュックを預けて駐車場に止めた愛車に向かう。
山道を走るからと黒い車にしたのは失敗だった、と今更ながらに後悔しながら。




