十三の巻
「そろそろ行こか? ここでウチ等が考えてても答えなんか出えへんよ。今は戦闘訓練有るのみ、ちゃう?」
繚華ちゃんが話を終えて動こうと提案してくる。
地面を見ると、狼の毛皮が転がっていた。
話に夢中に成っていた間に毛皮に変じていたらしい。
リュックに毛皮を筒状に丸めて詰めていく。
そのままゴチャッと詰めると量が入らないから、収納術的なやり方をしてる。
リュックを背負い直して小部屋を後にする。
警戒しながら通路に出るとそのまま順路に沿って奥に向かう。
十分程歩くと通路が二股に分かれている。
小さな光源が片方の道に転がされているのが視界に入った。
リュックのサイドポケットから小さいサイズのケミカルライトを取り出して、パキッと折って何も置かれていない方に落としてそちらに進む。
安価で光源が取れるケミカルライト--ショウ酸ジフェニル化学反応光源を用いて、先行しているかを判断出来る様にと迷宮庁から推奨され迷宮入り口で配布されている。
このルールで、先行したシーカーと同じルートで動いて間引き数が稼げない事態を回避出来る様に成ったのは大きい。
無駄足が減る反面、帰りにきちんと回収する面倒さも有るけど。
「もう出て来てもおかしないなぁ……」
小部屋から暫く移動した所で萊ちゃんが小さく呟く。
確かに、もういつ飛び掛かって来てもおかしくない、と思い気持ち腰を落としながら進んで行く。
鼻背デバイスのMAPアプリによるともう少しで右手に小部屋が有る。
変遷以降も特に迷宮内部の構造は変わっていなかった為、MAP情報に変更は無い。
もし変化が有ったらマッピング作業からやり直しだっただろう。
そう考えるとラッキーと言うか、まだ良かったのかも知れない。
視線を左右に走らせながら狼が潜んでいないかを確認していると小部屋の入り口に伏せて隠れている狼を視認する。
「おった、小部屋、入り口」
そう短く呟くとあたし達が臨戦態勢になったのに気が付いたのだろう、小部屋から勢いよく狼が飛び出してくる。
その勢いに一瞬焦った。
先手を打たれたけど、こちらも臨戦態勢で迎え撃てるならプラスマイナスゼロだと思い直す。
勢い付かせると厄介だから牽制して足を止める。薙刀を横薙ぎに振るって戦いやすい陣取りをする時間を稼ぐ。右後ろに萊ちゃんが、左後ろに繚華ちゃんが陣取ったのを視界の端で確認。牽制をし続けていると狼の群れは出揃ったのか、三頭が唸りながらあたし達を見ている。中段の構えから地面すれすれの脛打ちで先頭の狼の足元を払うと慌てて飛び退いた。残りの二頭はあたしの横を抜けて二人に襲い掛かる。一対一ならあたしも繚華ちゃんも萊ちゃんも後れを取る事は無い、そんな確信の元目の前の狼に集中する。狼は体を低く伏せてどの角度からでも襲い掛かれる様に力を蓄えている姿勢を取っている。奥歯を食いしばって、今まで見せた飛び退く距離まで考慮に入れた横薙ぎを放つ。左から右への横薙ぎで、後方に飛び退いた所に薙刀の軌道を変えて腰を捻り、肩を入れて、そのまま突きに移行する。如何に狼でも着地した瞬間に攻撃をされれば躱せない。刃は真っ直ぐ口を通り、喉を切り裂き、内臓を断つ。手首を返して内部を掻き回しながら引き抜く。
周囲を見回して他に狼が居ない事を確認してから二人の戦闘を見物する。
繚華ちゃんは突きを連続で繰り出し続けている。狼の回避がどれだけ続くかを確認している様に見える。じりじりと間合いを詰めながら薙刀の握りを短くして間合いを誤魔化している。萊ちゃんの方も正眼に構えながら肘を引き付けて間合いを偽っているのが分かる。二人とも一撃必殺の為の騙しを入れている。緊張感が高まっていく所で二人が同時に息を吐いた。その瞬間、隙を衝く様に二頭が飛び込み、二人が応じる様にして足を運び薙刀と日本刀が狼の喉を突き破る。
完璧な誘いを見た。試合でもここまで綺麗に決まる事は無いと思う。
刃を引き抜いて周囲を確認してから大きく息を吐いた。
「あぁ~、緊張したわぁ~」
「せやね~、でもさっきん奴より楽やった気がするんはあたしだけ?」
「ウチもそう思う、何が違うんかはよう分からんけど……」
色々と小細工をしたけどこちらの罠にキチンとハマってたし、フェイントには全部反応していた事を考えると個体差みたいな物が有るように思えた。
何が違うとか上手くは言えないけど、飛び込んで来るヤツと慎重さを持ったヤツの差が有った気がする。
「やっぱり迷宮は分からへんね。取り敢えず、休憩しよか?」
三人で背中合わせに、円陣を組む様に座り込んで周囲を警戒しながら休憩を取る。
ペットボトルのスポーツ飲料で水分補給をしながら、雑談しながら緊張感を緩めて体を休めた。
お昼に差し掛かって空腹感を覚えた所で一度迷宮を出る事に成った。
途中の分岐であたしが設置したケミカルライトを全て回収して迷宮を出ると強い日差しに目が眩む。
買い取り所に一度立ち寄って毛皮を売却して食堂に向かった。
夏場にお弁当を持ち込む勇気は無い。
食中毒は避けたいので夏場は買い取り所の食堂を利用しているけど、いちいち戻って来ないといけないのが面倒だった。
兜と面頬を外して冷房で冷えた空気が汗で湿った顔に心地良い。
食券をIC免許で購入してカウンターで受け取って三人で窓際の席に座る。
食堂を見回してみると百人は入れる席数に全部で十人程が食事をしている。
シーカーの絶対数がそこまで多くないからこの位のキャパで十分なのだろう。
「せやけどさ、大鎧着てカレー食べてる絵ずらって、やっぱ変やなあ」
スプーンでカレーライスを掬い上げて見詰めながら呟いたら繚華ちゃんと萊ちゃんがラーメンで咽た。
何度か咳込んでから二人が恨めしそうに睨んで来る。
「あ~、ごめんな?」
余計な一言だとは思うけど、正直な感想なのだから仕方が無い。
面倒だし、直ぐに迷宮に入り直すからと大鎧を外していないのだけど、当然の如く目立った。
目立つだけじゃなく、場違い感が凄まじい。
まあ、役所然とした買い取り所で全身をプロテクターで固めたシーカーも十二分に場違いに見えるのだけど。




