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十二の巻

 翌朝、朝食を摂ってからツナギに着替えて薙刀を片手に家を出る。

 ワンボックスの室内天井に薙刀を固定して萊ちゃんと繚華ちゃんを迎えに行く。

「おはよう、赫里ちゃん。今日も暑いなぁ」

 助手席に萊ちゃんが座り繚華ちゃんの家を回ってから大江迷宮に向かう。

 大江のお山の山道を出来るだけ揺らさない様に静かに車を走らせていく。

 山道でヘアピンカーブも多い為、車酔いを起こさない様に出来るだけ優しく運転する。

「赫里ちゃん、運転慣れてきたんやない?」

「せやろか? まだ自信無いんやけどなぁ」

 走るワンボックスカーは少し時間を掛けて迷宮の脇の駐車場に乗り入れる。

 駐車場の角に車を停めてハッチバックを開けて三人揃って当世大鎧を身に着けていく。

 通常、(すね)までしか無い所を脹脛(ふくらはぎ)まで延長アレンジされた脛当てと、籠手と二の腕の内側に装甲を取り付ける。

 胴鎧を装着してから面頬を付けて、大袖と言う特徴的な肩から肘を守るパーツを繋ぐ。

 最後に兜を被って完成する。

「やっぱし派手やなあ」

 そう苦笑するけど姿勢の良い繚華ちゃんや腰に刀を差した萊ちゃんは華美で、凛々しくて目を惹いた。

「繚華ちゃんも萊ちゃんも格好ええし綺麗やなぁ」

 二人の姿に思わず感嘆の声が出た。

「赫里ちゃんも格好ええし綺麗やで」

「色違いなんやから、赫里ちゃんだって同じやんか」

 鎧姿で綺麗と言い合うのも変な気もするけど、悪い気はしなかった。

 面頬で隠れた頬は緩んでいるのが自分で分かる。


「さて、暑いし行こか」

 繚華ちゃんに促されて薙刀を手に迷宮に入った。

 靴底が小石を踏む音が静かに響く。

 いつでも戦闘に入れる様に、気持ち腰を落として進んで行く。

 あたしが右、繚華ちゃんが左、萊ちゃんが真ん中で横一列で進んで行くと十分程で右手に小部屋が見えてくる。

 小部屋に入って狼が居ないかを確認する。

 スルーして前後から挟まれるのが怖いから。

 口を窄めて息を長く吐き出して腹筋に力を籠める。

 あたし、萊ちゃん、繚華ちゃんの順で小部屋に入ると唸り声と一緒に狼が駆ける音がした。

 一瞬後ろを見るが縦一列に成っている為に即応出来そうに無い。

  リーチの長い薙刀のあたしが掻き回さなきゃ。


 前方から走り込んで来る狼は四頭。あたしも走り込んで間合いを計り薙刀を横に一閃させる。薙刀の穂先が一頭の頭部に食い込み通過する。あたしが走り出した事で二人も構えるスペースが出来たはず。二頭をそのまま通過させて最後の一頭に躍り掛かる。鋭く息を吐きながら薙刀で突きを連続で放ち、狼を怯ませて隙が出来た所を薙いだ。狼の頸椎を絶ったのを確認して小部屋を急いで見回す。他に狼が居ない事を確認してから振り返ると二人も戦闘を終えていた。


 大きく息を吐いて呼吸を整える。

 昨日一日で学んだ事が有る。

 それは受け身に回ってはいけない、という事だ。

 俊敏で小回りが利く狼はむしろ怯ませる勢いで、こちらから圧す方が戦闘を優位に進められる。

「赫里ちゃん、突っ込むん時は合図してな?」

「まあ、赫里ちゃんが走り出した瞬間に意図は読めたけどなぁ」

「合図出す暇無かってんもん、しゃあないやん?」

 萊ちゃん、繚華ちゃんに言葉を返しながら通路側に視線を向けておく。

 次の狼が飛び込んで来ないとは言い切れないし。

 そこから軽く打ち合わせて、間合いの広いあたしが先行して、第二陣の繚華ちゃんが左に、萊ちゃんが右側から来る狼に対処する事に決める。

 通路に戻り迷宮を進んで行くと十分しない内に次の群れに遭遇する。

 あたし達に先に気が付いたらしい狼の群れは四頭一斉に向かってきた。

「四頭! 行くで!」

 声を張って先陣を切る。


 走り込んで来る先頭の一頭を素通りする様に横に避けながらその進行方向に薙刀を通過させるとあっさりと刃は狼の頭部を切り落とした。一度止まった足を進めて二頭目目掛けて薙刀を上段から振り下ろす。当たる直前に横に跳ねて躱される。手首を返して跳ねた方向に薙ぐがこれも躱された。予想よりも手強い身のこなしに奥歯を噛み締めて狼を睨む。二、三度短く呼吸をして一歩踏み込むと慌てた様に狼は後ろに飛び退く。一歩下がる素振りをしながらも体重は移動せずに引く動作だけを見せると飛び掛かってくる。その動きに合わせて視認し難い腕だけの突きを放ち、狼の咥内に刃を突き入れる。後頭部まで貫通した所で狼がクタッと地面に伏せる。


 二人の様子を見ると繚華ちゃんは処理を終えていた。

 萊ちゃんは手古摺っているらしく、なかなか攻め切れない様に見える。

 何となく今回の群れは手強い様に感じて、萊ちゃんが対峙している狼を見詰める。

 攻めあぐねている所にわざと地面を踏み鳴らして狼を慌てさせると、萊ちゃんが間合いを詰めて一閃した。

 あたし達は周囲を警戒して、何もない事を確認してから一息吐いた。

「気のせい? この群れ手強なかった?」

 繚華ちゃんがあたしの思っていた事と同じ事を言葉にする。

「せやね、さっきとは全然違ったなぁ」

「なんか、間合いを読まれてたちゅうか、武器を見た事有る様な……」

 自衛隊の調査の一環で定点カメラによる監視映像の中に、狼の出現の瞬間が公表されていた。

 弱い光が瞬いた瞬間に狼の成体出現する映像だった。

 その事から迷宮内部の狼は繁殖に依らない生物と言えるか微妙な事が確定していた。

 そんな狼のモンスターが刀や薙刀の間合いを警戒するという事自体がおかしい。

 誰かが取り逃がした個体なのか、特に賢い個体だったのか判断に迷う。

「もうちょい慎重に成らなあかんね」

「まだウチ等にも分からない事ばかりやもんね」

「迷宮迷宮て皆言うてるけど、結局迷宮が何んなんかって分かってへんしね」

 繚華ちゃんの言う通り、まだあたし達は迷宮が発生した理由も、狼が出現する理屈も分からないまま。

 狼が出る様に成ってまだ二ヶ月、その前の段階では氾濫が起きるまで気にも留めなかったツケが今圧し掛かって来ているのが今のあたし達日本人の状況だから。


「どうしよか? も少しペース落として慣れるまで慎重にやってく?」

「せやね、大体一時間に三つの群れと遭遇してるけど二つに成る様にペース落として、訓練のつもりで時間掛けて戦いに慣れるべきやと思う」

 萊ちゃんの問いに繚華ちゃんが考えながら応える。

「せやね、無理して怪我するんも馬鹿らしいし、怪我して何ヶ月も間引きでけへんく成ったらトータルでマイナスやもんね」

 繚華ちゃんの意見に賛成しバランスを取って活動するべきだと主張した。

 大コケするよりも、ペースを下げた方が結果的にはプラスだと思うから。

 不安なのはどれだけ間引きすれば氾濫の発生を防げるかが誰にも分からない事。

 一人が怪我で駆除活動が出来なくなれば二人でやれば良い、とは成らないし、より危険な事も出来ない。

 怪我が酷くて復帰出来なければ三人で引退と成る事を考えると、安定性を重視すべきだった。

 ただ、狼の一頭一頭は慣れればそこまで難しい相手ではないと感じてもいる。

 ニホンオオカミが中型犬サイズで大陸狼やさらに大きいダイアウルフでは無いのがラッキーだったと思う。

 油断しない様に、集中力を維持出来れば問題は無いと感じている。

 ダイアウルフも絶滅種で、アメリカで猛威を振るっているとかニュースで見た記憶が有る。

 違和感が有る、その違和感を二人に投げ掛ける。

「あたしの記憶が間違ってたらごめんな? 迷宮は全世界、同し日同し時間に発生したやん? なのに、なんで出てくるもんに違いが有るんやろ?」

 正確には兎は万国共通だったけど、狼に関しては違う種が出現している国が有る。

「なんでなんやろ? 違うてるんは日本とアメリカやったっけ?」

「せやね、絶滅種が出るんはそうやったと思う」

 正確には違う所も有るだろうけど、絶滅した種が大量に生まれる? 理屈は摩訶不思議だと言いたくなる。

 結局、偉い大学の教授でも、専門家でもまだ何も分かっていない。

「なんや、ゲームみたいやね……」

 萊ちゃんがぽつりと零した言葉はあたし達の中の違和感を言い当てていると思う。

 理由は分からないが、迷宮と言う言葉も、生態系とはかけ離れた出現するモンスター、倒せば肉か毛皮のアイテムに変化する点もゲームや小説でよく目にした物だ。

 冗談みたいな現実、それが今あたし達の生きる地球で起きている事を表現していると思う。

 その訳の分からなさに思わず溜息が出る。

 重い空気と言うより、『もうお手上げ』と言う方が近い空気がその場に満ちている。

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