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十一の巻

 数百m進むと四頭の狼が吠えながら飛び掛かってくる。

 あたしと繚華ちゃんは薙刀で突きを放って狼を牽制するが横を抜かれて二頭が萊ちゃんに向かってしまう。

「ごめん! 抜かれた!」

「大丈夫! 時間稼ぎするから!」


 ここからは一秒も無駄に出来ない。焦りを感じながら薙刀の穂先を狼に向け続ける。左右に跳ねる様に牽制をしてくる狼に薙刀を横向きにして突きを放つ。切っ先に驚いて横に飛び退いた所に上体を捻って横薙ぎに振るう。数年間迷宮で戦い続けてきた薙刀は抜群の切れ味を発揮して狼の頭部を切り飛ばす。即死したかは分からないがそのまま横倒しに倒れた狼を一瞬確認してから萊ちゃんに向かった萊ちゃんと二頭の狼を見やる。萊ちゃんは刀と足運びで牽制をし続けて時間稼ぎをしている。割って入るつもりで、あたしから近い方の狼を後ろから切っ先を振り下ろす。刀身が狼の背骨を両断し上下に別れる。一頭に意識を集中出来る様に成った萊ちゃんも狼の頭部を両断。後ろを振り返ると繚華ちゃんも戦闘を終えていた。


 周囲を見回して狼が居ないかを確認する。

 ウチ漏らしが居ない事を確認してから肺に溜まった息を吐き出した。

「ごめん、萊ちゃん。横抜かれると思わんかった……」

「大丈夫やって、私が時間稼ぎしたらフォローに来てくれるの分かっとったし、ね?」

 意外と賢いのか、わざわざ二方向(ふたほうこう)から抜きに掛かって来るとは思わなかった。

 慌てずに牽制し続ければ時間稼ぎは出来るし、大鎧も着込んでいるから大丈夫だとは思うのだけれど、それでも不安には成る。

 この辺りは出来る事出来ない事を経験しないと納得し切る事も出来ないのだけれど。

「これからは抜かれるんは計算に入れて、複数の狼に来られたら囲まれたら時間稼ぎに徹して順々に処理してフォローに入る、言う形にしてこ」

 繚華ちゃんの挙げた方針に同意して頷く。

「せやね、私達三人でチームやもんね、フォローし合ってこ」

 萊ちゃんの纏めの言葉に頷き合ってあたし達は迷宮の奥に進んで行く。


 途中昼休憩の為に迷宮を出て午後も駆除活動に精を出す。

 通路や小部屋で時折遭遇する狼を駆除してリュックに毛皮を詰めていく。

「あかん、疲れてきたわ」

「せやね、ウチもしんど成ってきたわ」

「私も、()らいわ……」

 時間を確認すると十六時を少し回っていた。

 緊張していた事も有ってか時間も確認せずに活動を続けてたらしい。

 呼吸を整えながら迷宮を出る為に来た道を戻っていく。

 途中で幾つかの群れと遭遇し、それ等も駆除して迷宮を出る。

 視界が暗視装置の色から自然光の景色に切り替わった所で緊張が解けた。

「しんど……」

 脱力感から思わず言葉が漏れる。

「せやね……、ちょっと久しぶりやったし」

「やっぱし防具着込んでると体ぁ重たいなぁ」

 面頬で隠れているが微かに見える目元から読み取れる萊ちゃんの表情は疲労感を滲ませている。

 繚華ちゃんは流石に背筋を伸ばして凛としているが、あたしは疲れで猫背気味に成ってしまう。

「赫里ちゃん、ほんでもこの大鎧は軽い方やと思うで? 調べてみたけど普通やと二~三十㎏は有るのに、十㎏以下やん?」

 繚華ちゃんに窘められるが、薙刀の防具より確実に重たいのだし、疲れる物は疲れるのである。

 面頬の鼻当てを外して新鮮な空気を深く吸って体を起こす。

「二ヶ月も休んどったし、体鈍ってるなぁ」

「せやけど勘は取り戻せたし、気張ってこ?」

 萊ちゃんのぼやきに励ましの言葉を繚華ちゃんは渡した。

 その言葉を聞いてあたしももう一踏ん張りと気合を入れる。

堪忍(かんにん)な? じゃあ毛皮売りに行こか」

 そう言って背負ったリュックを揺らして見せる。

 毛皮を詰め過ぎてパンパンに成ったリュックを見て三人で笑った。

 自信が付いた、という事も有るけれど防具のお陰で安心して駆除作業が出来たのが有り難くて、嬉しい。

「せやね、明日も有るから済ませて帰ろ」

 繚華ちゃんに促されて買い取り所に行って毛皮を全て売り払う。


 毛皮の代金をIC免許証に入金を済ませてその金額に固まった。

「一人二万九千円って凄ない? ウチちょい想像して無かってんけど……」

「あたしだって。これ高校生が一日で稼いでええ金額なんやろうか?」

「これ、学費やら奨学金で悩まんで済むんちゃう?」

 三人揃って目を白黒させてしまう。

 兎の時のほぼ倍額稼いでいるのだから驚くのも当然だとは思う。

「赫里ちゃん、取り敢えず私達も車行こか……」

 三人の中で一番狼狽していたのがあたしだったのだろう、萊ちゃんに促されてあたしの車を停めている駐車場に促される。

 背中を突かれながら車に戻りトランクを開けて(よろい)(びつ)に大鎧を収めていく。

「あぁ、重たかった~。ほんに鎧を脱ぐと体軽う成るなぁ」

「ほんまもんの鎧やと三十㎏以上なんやっけ?」

 鎧を脱ぐのに手間取ってる間に落ち着きを取り戻したあたしは繚華ちゃんの言葉に重ねた。

 本物の大鎧に比べて、当世大鎧の脅威の八㎏と言う重量でも着慣れていない事も有って重く感じてしまう。

 その辺りも直ぐに慣れるとは思うけど。

「鎧を脱ぐと急に恥ずかしなるんがなぁ」

 萊ちゃんが黒革のツナギ姿を見下ろしてぼやく。

 動き易さ重視で余裕を持たせているとは言え、体形がはっきり分かるこの格好は中々恥ずかしい。

 真冬ならこの上にコートを羽織れば隠せるけれど、根本的に真夏着ていたい服では無い。

 迷宮内部は年中低い気温を維持しているから、気に成らないけど外に出るとかなり辛い。

 急いで車のエンジンを掛けて冷房を強くする。

 ドアを開けて車内の熱気を抜いてからシートに座り二人を送ってから帰宅した。

 車を車庫に止めて降り立つと膝が笑う。

 久しぶりの駆除活動と慣れない運転に疲労困憊で足が重い。

「ただいま~」

 薙刀を肩に担いで玄関をくぐる。

 ブーツを脱いで薙刀を部屋に置いて居間に向かう。

「おお赫里、おかえり。どうやった? 迷宮は」

 居間でTVを見ていたお祖父ちゃんがあたしに気が付いて声を掛けてくる。

「ただいま、疲れた……。鎧重いやん? 狼は怖いやん? 外は暑いやん? へとへとや」

 肩を落としながらぼやくとお祖父ちゃんも苦笑する。

「まあ、まず風呂入っといで」


 促されてお風呂を済ませ、部屋着に着替えて居間に戻ると食卓にはもう夕食の用意が出来ていた。

「お母さん、用意手伝わんで堪忍な?」

 最後のお皿を食卓に運んでいるお母さんに声を掛ける。

「大丈夫よ、怪我はしてへんのやんなあ? なら、いっぱい食べてゆっくり休んだらええ」

 相当疲れた顔をしているのか、家族から心配されてしまった。

 夕食を家族と囲んで当世大鎧の感想をお祖父ちゃんに話すと喜んだ。

「そら良かった、甲冑師もおもろい仕事やった言うとったしな、伝統の技と現代の技術を併せるんが」

「合戦の為の防具と迷宮の為の防具なら、勝手もちゃうやろうしね」

「赫里達有名に成ったら工房も儲かる言うとったさかいな」

 モデルケースとして目立ってほしいと言う事らしい。

 あまり目立ちたくないけど、シーカーの防具の種類が増えるのは良い事なのかも知れない。

 食事を終えてツナギの裏の汗を濡れ布巾で拭って部屋干しをしてから休む。

 部屋の明かりを消してベッドに横に成ると、疲れが血の巡りと一緒にさざ波の様に押し寄せてくる。

 枕を抱える様にして睡魔に身を委ねて眠りに落ちていく。

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