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九の巻

「そうや、お上は何て言うてるん? ニュースではまだ詳しい事言うてへんけど」

 あたしの怒りが本物だと判断したのだろう、迷宮の状況を確認する事にしたらしい。

 TVのチャンネルを回すとちらほらと迷宮が立ち入り禁止に成った事、自衛隊が調査に入った事だけが報道される。

 ドローンを使った空撮も日が落ちかけた所では大した画も撮れ無かったのか、TV局のリポーターが大量の自衛隊車両をバックに喋っている。

「多分、今自衛隊さんが調査に入ってると思う。危険なら全面封鎖やろし、シーカーの間引き作業が続行されるんかは今分からんと思う」

「そっそうか、今は様子見やな」

「うん、だからまた迷宮が解放された時、牙で咬まれても大丈夫な防具の事も考えとかんとかなぁ、って」

「「う~ん……」」

 明らかにシーカー継続に反対なお父さんと、今まで間引きのそれなりの割合をあたし達に任せてきた手前反対を強く言えないお祖父ちゃんが唸る。

 それでも野犬が徘徊する迷宮に入って欲しい訳では無いだろうから歯切れが悪く成るのだと思う。

 それなら万全の態勢で挑めば良いと思うのはおかしいだろうか? と疑問に感じる。

 あたしの大切の為に頑張ろうと言う気持ちは、家族からしたら我が儘以外の何物でも無い。

 申し訳無いけど譲れない。


「まあ、祖父ちゃんも後援会で考えておく事にする」

「祖父ちゃん、良いのか?」

「しゃあないやろう、赫里の目ぇ見たら止められやせん」

 お父さんがお祖父ちゃんに待ったを掛け様とするが、お祖父ちゃんの言葉に同意する物が有ったのか押し黙った。

 少し視線を彷徨わせて父が話題を変える為に口を開く。

「そう言えば受験勉強は順調なんか?」

「そうやなあ、毎日キチンと勉強はしてんで。取り敢えずA判定も取れてるし」

 それにしても、話題転換にしても露骨過ぎるよ、我が父。

 受験する大学の話をしている所でお母さんとお祖母ちゃんが料理を持って居間に現れる。

「おかえり赫里、料理並べるん手伝うて」

「ただいま、お母さんお祖母ちゃん。分かった」

 台所からお晩菜等の皿をお盆に乗せて運んでくる。

「今夜は兎肉の炊いたんなんやね、美味しそう」

 もしかしたらもう当分食べる機会の無い料理に成るかも知れない。


 家族全員が食卓を囲んだ所でお母さんに聞いてみる。

「お母さん、兎肉ってまだあるん?」

「え? 今日はこれだけよ? 凍らしたんはまだ沢山有るけど」

「そっか、もしかしたらなんやけど、もう兎肉迷宮から持って帰れんくなるかもなんよ」

「え? なんで? 全部売るん?」

 不思議そうに首をかしげるお母さんに事情を説明する。

「赫里あんた……、続ける気なん?」

「立ち入り禁止に成るんやったら辞めるけどな、解放されるんなら続けたいんよ」

 先ほどお祖父ちゃんやお父さんに話したのと同じ事を繰り返すとお母さんは黙ってしばし考えこみ頷いた。

「赫里が続ける言うんなら止めへんけど、準備は怠ったらいけんよ?」

 お祖母ちゃんも同意見なのかお母さんの言葉に繰り返し頷いた。

「母さん、ええんか?」

「これまで家を支えてくれたんは赫里やし、迷宮に立ち向かい続けたんも赫里やしね。今更止められへんよ」

 母は強し、と言う事だろうか。

 むしろ男衆の方が心配性で優柔不断に思える。

 家系も有るのかもしれないけれど我が家では女衆が基本強くて、お祖母ちゃんを味方に付けられるかが勝負と言える。

 今回はそれに成功したみたいで良かったと安堵する。

 まだ迷宮が解放されるかが不明では有るけれど、と思いながらTVに視線を向けるも特にニュースに変化もない。

 そろそろ政府側から発表が有っても良いと思うのだけれど。


 賑やかな食事を終えて自室に戻り繚華ちゃんと萊ちゃんと連絡を取った。

 二人もどうやら家族の許可は取ったらしい。

 ただ、防具の関係でしばらくはシーカー活動は自粛せざるを得ないと言う結論に至った。

「防具はお祖父ちゃんが後援会で話し合うって言うてたから」

「赫里ちゃん、赫里ちゃんのお祖父ちゃんを悪う言うつもりはあらへんけど大丈夫なんかな?」

「ウチも少し不安なんやけど……」

 二人のコメントであたしも少し、いや結構不安に成ってきた。

「……あたし等でも調べとこか……、色々不安やしな」

 そう言うと三人で急いであれこれと防具を調べて回る。

「なんか良いの有った? あたしの方はバイクのプロテクターしか見つからへんのやけど」

「私も。プロテクターでも骨を守るもんで、隙間多いんばっかやね」

「野犬に噛まれたらあかん所が無防備なんばっかやねぇ」

 首とか内腿等の怪我したらあかん所が妙に手薄な防具ばかりで当てに成らない物ばかりが検索に引っかかる。

「考えなあかんのは牙が刺さらん事と肌を切り裂かれん事やんなぁ……」

「そら、野犬用の防具なんて出回ってるはずも無いしなぁ……」

「ホンマにどうしよか?」

 心許無い防具に拘っても意味は無いし、むしろ怪我の元。

 とは言っても防具無しと言う訳にもいかない。

 野犬に噛まれて不味い箇所は動脈が走ってる箇所とか顔とかお腹だろう。

 首と腋と内腿と顔とお腹と成る。

 顔はヘルメットを被る事でカバー出来るとして、それ以外はどうだろう?

 暫く三人共黙って考えているが何が正解か分からずに言葉を継げないでいた。

「他んシーカーはどう考えてるんやろね?」

「皆発表待ちやとは思うけどなぁ、私達と同じで」

「せやね、今は様子見しか出来ひんもんなぁ」


 結局は迷宮での間引きを自衛隊に丸々押し付けるか、シーカーも活用するかの二択しか無い。

 流石に人員的にも難しいだろうからシーカーも参加する事に成るとは思う。

 解禁されても今まで通りと言う訳にもいかない。

 身の安全が最優先、氾濫を抑える為の間引きが二番目の課題。

 どちらにせよ様子を見るしかない、と言う結論は変わらない。

 むしろ後援会にはあたしのお祖父ちゃんは参加しているけど繚華ちゃん・萊ちゃん所の家の人は入っていない。

 他所の子に無茶させられないと言う意味で万全の準備をしてからじゃないとストップを掛けられるのは目に見えているし、あたし達も万全でないと安心して迷宮に入れない。

 今は様子見として情報収集に努める。

「発表有るまでは週末は勉強の時間に成りそうやなぁ」

「そらそれで問題あらへんけどなぁ、ウチは」

「あたしは週末は教習所に通おかな思てる」

 受験勉強は土日も含めて夜ミッチリやっているし、土日の日中で免許の準備を今の内にしておくのも手かも知れない。

 シーカー活動でかなり貯金も出来たし、薙刀を持ってバスに乗るのもいい加減気まずいし免許を取ろうと思ってはいた。

「赫里ちゃん、うち等ん中で誕生日早いもんね、車買うん?」

「免許取れたらね? 薙刀も入る大きい車にするつもり」

 比較的短めの薙刀とは言えバスに大型の刃物を持ち込むのは気が引ける物が有ったし。

 その後は三人で車の画像を見て一頻(ひとしき)り騒いだ後は受験勉強をしてベッドに潜り込む。

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