恨みは転生する。王国陸軍大学校、前編
恨みは転生する第二弾!
最近は忙しくて連載作品を投稿できてないけど、失踪はしてないからね!
ひとつ前。https://ncode.syosetu.com/n6284ek/
あれから三日経ち、王都から伝達員がウェドル砦にやって来た。
その伝達員の階級は少佐、このおんぼろな砦には似合わない階級なので、この状況を打破できる様な有能な指揮官か、邪魔な無能を処理するために移動させられた、無能な指揮官のどちらかだ。まあ、交替人員なので凡才な指揮官の可能性もあるが。
「マデルス中尉、陸軍省からの伝達だ、今日から三日後に陸軍省に召集だ、変わりに私がここの指揮官になる」
「はっ! 分かりました」
私に要件を伝えている少佐だが、その視線は私の顔ではなく体や下半身と言った部分を重点的に見ていた。つまりは下心がありありと言う事だ、まあ、常識は弁えているようで変なことはせずに要件を伝え終えた。
「あぁ、後、副官であるメルリィ少尉も召集が掛かっている」
そんなことを振り返りながら言われたが、その表情は少しだけ私達を心配しているような表情をして居て、先程の下心しかない視線が嘘の様に思えた。
「……君達はこの状況下において聖国軍を打ち破った。その性能を使えば王国は安泰だろう。しかし、そんなことを思いたくない奴等も居る、きっと王都に帰ったらそう言う奴等からは何か言われるだろう」
少し間を置き、少佐は話始めた。やはり少佐は私達の事を心配している様だった、しかし私はそう言う事になる覚悟は出来ている。そもそも殺されそうになったら、未だに第三者として居座っている皇国に逃げる。
しかし、今の腐りきっている軍部の中にこう言う人が居たのは驚きだ、素直に交換が抱ける様な人物は居ないと思っていた。今の軍部は私の含めて、独立戦争を生き延びた英雄達の二世が軍部に大量に居る。
そしてその人達の大半が自分の立場に権力の笠を被っている。そのせいで今の軍部は、英雄達の落ちこぼれ、と言う風に呼ばれている。
「少佐、失礼ながらアドバイスをさせていただくと、歩兵を甘く見るな、と言っておきましょう」
そしてそんなことを言うつもりは無かったのだが、口に出してしまった。しかし私の心の中は清みわたっていた。
「歩兵を? しかしそんなことは……」
流石に前世の記憶がある私が言っても分からないらしい。まあ、この世界では歩兵は何も使えない、と言う考え方が一般的な常識だ。それを私は真っ向から否定しに行ったので普通なら理解出来ないだろう。
「ふふ、それは自分で考えてみましょう」
少し意地悪かもしれないが、自分で理解して有効だと思った作戦でない限り結局は何時しか負ける。だから今はヒントだけでいい。それで死んだらそれまでだ。そもそも死は生物を進化させる。だから何かしらは思い付くだろう。
そんなことを考えながら、用意された馬車に乗った。
「中尉? どうしたんですか? あのおじさんに対して?」
「ふふ、あの人は多分私達に利益が出そうだからね、それに面白そうだと思ったから」
馬車に乗り、私達二人だけになるとメルリィが私に質問をした。
私は本心で答えて言ったのだが、少し考えてみると邪神様と同じ様な事を言っている事に気付いてしまった。私自身、あまり実感はないが私は邪神の眷族のような立場に居るため、その影響があったのだろう。決して私の元の性格が可笑しいわけではない。
「ぷぷ、何言ってんのよ、キャラが変わりすぎ、そんな出来る女っキャラじゃないでしょ」
しかし、二人だけになったと言う事で、何時もの堅苦しい口調ではなく大学校時代の軽い口調で話していた。
そして私の真面目な台詞を馬鹿にし始めた。
「……別に私はふざけている訳では無いのだが、そんなに可笑しいか?」
「あははっ! その口調が可笑しいって」
凄く、不愉快だ。
何故私が口調だけでこんなに言われなければいけないんだ。そもそも貴族社会ではメルリィ程、軽い口調の人などあり得ない。論外だ、そんな者が居たとしたらそれは記憶が飛んでしまっているのだろう、位には思われる。
……本当に第二王子は例外中の例外だ。あれに頭を下げているが滑稽だとは思わないでもらいたい。こいつの様に付け上がる馬鹿も居るから。
「あははっ! もうっ! メルリィちゃんったら、ふざけただけじゃない、……とでも言えばよかったか?」
「やっぱり元の口調に馴れちゃったから違和感しかないよ」
メルリィの言う、元の口調と言うのは普段の堅苦しい口調の事だ、決して私の素の口調ではない。そもそも素の口調があんな物とは私以外の誰も知らないだろう。
「なら言わなければ良いだろう? どうせ私は面白くもない堅物だ」
小さい女の子に馬鹿にされて喜ぶ様な思考回路は私には存在しないので、ただ単に不愉快だった。ただその事を本人に怒鳴るような行為はあまりしたくない。だから私は窓際で頬杖をしながら空を睨んでいた。
「よっ!」
「わぁ!?」
そうやって外を見ていると、突然視界の中に反対向きの第二王子の顔が表れた。どうやら王子は屋根に乗っているようだ。
「何故屋根に居るんですか!? 早く降りてください!」
あいつを馬車に乗せるのは本当に嫌なのだが、あれは王族だ、なので無視したりすると普通に殺される。殺されなくとも爵位剥奪等の罰が有るので、そんな馬鹿な行為には出れない。
「じゃあいくぞ、っしょっと」
「へぶっ」
やはりあいつは馬鹿だ、大馬鹿だ。何故淑女である私に飛び込んでくるんだ、男だったら良いとは思うが私は女だ、普通に傷つくぞ、私だって繊細なんだ。
そんな事を元男の私が思う位には勢いよく飛び込んできた。
「いったいなぁ! 何するんだ! 一応私はこんなんだが淑女だぞ!」
「ああ、こんなんっていう自覚はあったのか」
まあ、糞みたいに甘やかされている第二王子は、絶対に反省やら謝罪などはしないと思っていたが、実際は私の想像を超え、何故か私に失礼なことを言ってきた。
怒って良いかな?
「黙ってください。それよりも何故屋根の上に居たと言う事が重要なんです」
「いやぁ、王都に行くと聞いたから俺も着いていこうと思って」
こいつは本音で言っているんだろう。そもそもこいつが嘘をつくと言うような事が出来るのかは謎だ、多分出来ないと思うが。
「貴方がそう言う人なのは知っていますが、何故屋根の上に? 別に最初から乗って王都に行けば良いではないですか? もしくは――」
「まあ、中には女子しかいないからさ、入りにくい」
もしくは女子の馬車の中を覗く変態なのですか? と言う風に聞こうとする前に王子の更なる発言により遮られた。
実際、その言葉には驚きが隠せなかった。あの王子に一般的な男子の悩みが有ることは知らなかった。……ただ、一般男子とはかなり違うのだろう。でなければ女の私に飛び込む訳がない。決して私が女と思われていないと言う事ではない筈だ。
「ヴァンピィ中尉、乗せてあげましょう」
「……乗せるのは最初から決めている」
自分の容姿に不安になっていると、今までは軽い口調で話していた筈のメルリィが畏まった口調で話し掛けてきた。まあ、王子が居るから口調を直したのは分かるが……屋根に居たのだから流石に気付かれているだろう? それで聞こえなかったら難聴だぞ?
「メルリィだったっけ? 口調は治さなくても良いぞ? 別に上で聞こえてたから」
「……そうだったのか、始めから教えてくれたら良かったのに」
メルリィはそんなことを言いながら、少し顔を赤く染め私の事を睨んできていた。まあ、私がメルリィと同じ立場だったら同じ行動をするよ、恥ずかしいもん。
「まあ、メルリィはましだろ、ヴィなんて、あははっ、とかって言ってたんだぞ?」
「あ、確かに、それを聞いて楽に鳴りました、有り難うございます」
……熱い、顔がとても熱い。多分顔は茹で蛸の様に真っ赤に染まってしまっているだろう。しかもそれを見て二人はにやけている。最悪だ、これならあいつを乗せなければ良かった
「おぉ? メルリィは命知らずだねぇ、ヴィは公爵令嬢で君の上官だよ?」
「ふふふ、そんなこと程度で諦めるわけがないですよ!」
「あはは、君とは気が合いそうだな!」
私が羞恥に体を震わせている中でも、あの馬鹿コンビは団結を深め、本来の身分、平民と王族と言う身分差ではあり得ない様な仲になっていた。
しかし、メルリィは私の部下であり、そして平民だ。一応仲が良いため、あまり罰を与えたくはないが、身分と言う物を確りと分けておかないと、普通の貴族に見られたときにメルリィが殺されてしまう。なので今回は少し痛い目に合わせないといけないな。
そんなことをほくそ笑みながら考えていた。
「メルリィ、君は平民だろう? 一応私達が許しているからこんな軽い口調で話しても罰を受けないが、本来は罰されるべき行為だ。しかし君は私以外に、王族である第二王子に対してまでもそんな口調で話している。流石にそれは無視できない事態だ」
「え、え」
丁度よく怒れるタイミングがあったから、怒っていると言うのも有るが、一応王族にこれは本当に不味い。メルリィは牢獄に入れられるのは確定だし、私は監督責任として何か罰を受けると思うし。私はそう言う事が絡み、半分悪意の半分本心で説教をしていた。
「王子には自覚と言う物が存在しないから罰は与えないだろうが、他の人が見たら普通に処罰物だ。それに私も罰を食らう。利己的な考えが有るが、勿論君の為に言っているんだ」
「は、はい」
「いや、お前ほど王族を蔑ろにしている奴は居ねぇよ」
何度か本気で説教をしたことが有るので、私が本当に怒っている事に気付き確りと話を聞いてくれている。まあ、王子は相変わらず馬鹿なことをいっているが。
「だから少し態度を治せ、分かったな」
「はい」
「じゃあ、今度は俺がヴィにたいして説教をしよう」
私が説教をし終わると、今度はタイミング良く王子が私に説教をするとほざき始めた。私の何処に説教される要素が有るんだか、私は逆に王子を説教したい。
「ヴィ、君はいつも俺の事をあいつ、馬鹿等と言っている場合がある、それはメルリィよりも王族を蔑ろにしているだろう? 違うか」
「……はい」
確かに私はあれにたいしてそう言う言葉遣いで話している。まあ、それは実際メルリィよりも罰すべき事項だ。ただ、こいつにたいして殿下、殿下は何をしているのでしょうか? 等と言うのは屈辱でしかない。だからそう言ってしまうのは仕方がない。
「はあ、顔に屈辱だ、と書いているが、別にそこまで畏まらなくても良い、幼馴染みだからな。まあ、後は聞いたら屈辱が増すだろうけど、君は俺の婚約者だ」
「……はあ、そうです、っ!? 婚約者ぁ!?」
あの王子が至って普通な事を話して、私の事を説教していたので、心の中では驚愕していたがそれよりも先に反省しようとしていた。これがカリスマと言う物なのだろう、私には無く、一番私が必要としているものだ。
しかし、最後の方は意味不明で理解できなかった。と言うか理解したくなかった。何故私が王子の婚約者なんだ、私は公爵ではなく侯爵の方の令嬢だ。それが一応とはいえ王子と婚約するなど普通は有り得ない。
「あはは、冗談は止してくださいよ、貴方は王子ですよ? はっきり言って立場が違い過ぎます」
「ん? まあ、そう思うだろうけど、諦めろ、俺の親父とお前の親父が合意して決めた事だからな」
しかし、結局は婚約する確率が限り無くとも、この第二王子にはそんなことは通じず、しかも相手は王族と言う事で拒否権はこちらにない。つまりはもう確定事項だと言うことだ。
「何故なんですか!?」
「……ははは」
先程説教された、王子への礼儀と言う物は早速頭から無くなり、大声で王と私の父に対しての恨みと、絶賛苦笑い中の王子に向けての恨みを叫んだ。
「まあ、俺が親父に頼んだんだけどな、ヴィ以外とは絶対に結婚しねぇ! って」
「へっ?」
しかも今度は爆弾発言を放った。まあ、嘘なのはわかる。こいつにはまだ恋心が生まれる程高等な思考回路は有して居ないと思う。
まあ、私自身見ず知らずの野郎と結婚するんだったら、まだ顔馴染みの王子の方がましだと思うし、王家との繋がりが出来る。
だが、幾ら合理的だろうがしたくない事など幾らでも有る。まあ、今回は絶対に断れないので我慢するしかないだろう。
「おっ? おっ? ヴィちゃんが顔を赤くしてる!? まさか脈ありなのか!? 少しだけ嬉しそうだし」
だからいま、囃し立てるようにして私の事を弄っているメルリィの言葉通りの事は絶対にない。嬉しそうと言うよりかは苦しそうな表情をしているはずだ。だから少し暑くても無いったら無いんだ!
あれから、私はメルリィと王子の二人から同時に弄られたり、私が王子に説教をしたり、私がメルリィに説教したりの繰り返しだった。
馬車が王都に着くまでの時間、四時間はかなり精神的に疲れた。ただ、王都に着いたことでメルリィは口調と態度を直してくれたので、メルリィによる疲労は減った。ただ、王子はそのままで、私は失礼な態度が出来なくなってしまったので、実質的には疲労は増えていた。
「なあ、別にそんなに畏まらなくても良いって、別になんか言われたら俺が言うし」
「いやいや、貴方が私を庇ったとしても王族を蔑ろにしたことで罰せられる事は目に見えていますので」
どうやら急に畏まった私とメルリィに、寂しさを感じているのか、それともまた、私の事を弄りたいのか、まあ、どちらでもいいがこっちとしては迷惑なことだ。絶対に先程までの態度では斬首刑も有りうるって言うのに。
「はあ、詰まらない。あんな風に話しかける奴はお前らしかいないのにな、兄上は嫌みしか言わないし」
「……」
内心、こう言う事は今までの言動で少しだけ気付いていたが、ここまで素直に愚痴るとは思っても居なかったので、驚いてしまった。
こう言う所も王族、と言うか貴族と言うか、まあ、人の上に立つ職業の人間には思えない。
「……」
「……」
その後は、陸軍省の省庁に着くまで、馬車の中は沈黙が満ちていた。私と王子の雰囲気も少しだけ悪かった。
……メルリィは欠伸などをしていたことから、特の何も感じていなかったようだけれど。
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第二オルト王国の天才参謀、ヴァンピィが詳しい資料として登場したのは、ウェドル防衛戦の後の陸軍省に召集されたときの事だ。
その時、ヴァンピィは二十歳、しかも防衛戦で圧倒的戦力差が有るルストギア、アダムスの連合軍に初陣で勝利したと言う、理解しがたい戦績を上げたため陸軍省に召集をかけられた。
普通の、というより、常識的な思考ができる人物にとっては意味不明の戦果だ、それこそ裏切りを警戒するほどに、ただ本当だと不味いという理由で招集がかけられた。実際素人でもそう判断するだろう。
しかも彼女は親の七光りで陸軍大学校に入学した……と言う訳ではないが、名門貴族家の出なので今でも、無能か、有能だったのかの論争が激しい。
まあ、基本的には有能だったという説が有能だ。と言うのも、彼女はその後、陸軍大学校に講師として着任する。その時の教育方法は今までの教育方法とは全く異なった、効率的な授業だったらしい。まあ、これは別の話だ。
――出展、アデル共和国、フール高等学校、戦史科参考書。
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あれから王子が偶に独り言を言う程度の静かさで陸軍省、省庁についた。
陸軍省庁という割には豪華絢爛と言う言葉が似合う程に煌いていた。勿論元々はこんな建造物ではなかったらしい。
昔、と言うか王国独立戦争での時はここは占領下であり、旧方面軍司令部だったらしい。
王国独立戦争と言う物は私の前世の四、五年前に起きた戦争だ。だから私はあまりよく知らない。ただ私の父達の世代が争い独立まで漕ぎついたらしい。
それは理由になっていないだろう? と言う風に質問するかもしれないが、大まかな理由は先ほどのものに関係している。
独立戦争時の国王は独立戦争で活躍した者たちに貴族位やなどを与えた。勿論その中にも最初から爵位を持っていた者達もいるが、大半は成り上がりで元々はただの平民などが多かった。
しかし今はもう世代交代の時期に入っている。元々爵位があった者達の子孫は教養は良いが、成り上がりの者達の子孫は大して教養がよくない。そしてその者達は生まれた時から大量の金に恵まれ、豪華と言う言葉では足りないような暮らしをしていた。
そしてその子孫達が、旧方面軍司令部のままの施設で耐えられるわけもなく、どんどんと豪華になって言った訳だ。
まあ、それ以外にも独立戦争で活躍した家の子孫が軍部の重要な役職に就くことが多くなり、その子孫が有能ではないというパターンも多い。
流石に総帥、参謀長、などの重職には独立戦争で活躍した者たちを雇用しているが、その者達の平均年齢が六十歳近くと、かなり高齢化が進んでいるため世代転換の人員を探しているとかなんとか、まあ、私には関係のないことだ。
「すみません、招待状はお持ちでしょうか? お持ちならすぐに案内できますが……」
「……」
「ああ、これか?」
庁舎の中に入ると、入ったところに案内が設置してあった。
招待状を求められ、軍服についてあるポケットにてを突っ込んだが、何故か手紙が無くなっていた。
流石にあれを無くすのはかなり問題になるので、顔を青くしていると、横にいた王子が何故かその手紙を出していた。
それを見て私は反射的に王子の事を睨んでいた。
「はい、ヴァンピィ中尉ですね」
「いや、違うぞ?」
「え、では何故貴方が持っているんですか? それにここは陸軍の建造物です、何故貴方は軍服を着用していないのにここにいるんですか?」
受付の人が名前を確認するが、相手は王子で私の名前で反応するわけがない。そもそもそれで了承しだしたら、本格的に引いている所だ。
勿論、違うと言われ少し混乱していたが、先に王子の服装に対して注意を始めた。王子は軍部の人間ではないので軍服などはなく、一般的な町民のような格好なので普通なら受付の人が正しい。
ただ、こいつは王族だ、王族は何をしようとも正しいというのが一般的な考えなので、王子が有っていると言う不愉快な現実だ。
「ちょっと私が話をしますので、貴方は静かにしていて下さい、ね?」
「……はあ、分かった」
これ以上放置しておくと、話が一向に進まないうえに受付の人が罰せられるという最悪な結末になってしまうので、話に介入する事にした。
実際、私の父親、総帥と言うような重鎮たちを待たせるのは本当にダメだ。王子のせいにしたら責められはしないと思うが、後の王子の要求が怖い。
「……貴方がヴァンピィ中尉ですか?」
「はい」
流石にあの対応をした事で少しだけイラついたのか、少しだけ適当な対応になっていた。私自身その気持ちは分かるので怒りたくはないが、父がここに来たりしたらヤバイ、即刻首なのは間違いない。
「ではメルリィ少尉と共に第二会議室に行ってください」
「わかりました」
特に変なことは言われなかったのでしっかりとした受付の人だった。たまに、今回みたいに変な奴に変な対応をされなくても、ふざけた態度をする受付もいるから、この人は珍しい。
そして、用件は済んだので私達は二人で第二会議室に行くことにした。だから付いて来ている王子は私達とは何も関係がないので知らない。だから何か問題を起こしても私たちのせいではない。
「中尉、王子を連れてきてしまっても良いのですか?」
しかし、そういうことをあまり分かっていないメルリィ少尉が私に疑問をぶつけてきた。本当にこういうところがメルリィ少尉には足りない。足りていれば本当に優秀な指揮官になれるはずなのにね。
「何を言っているんだ? 勝手に王子が私たちに付いて来ているだけだろう? だから私たちは関係ないし、もしかしたら同じ所に用があるだけかもしれないしな」
「……中尉は性格が悪いですよね」
そんなことを話しながら、第二会議室についた。
「「コンコン」失礼します。ヴァンピィ中尉、およびメルリィ少尉他一名です、入ってもよろしいですか?」
「いいぞ、……他一名?」
私達と勝手について来た王子が会議室に入ると、集まっていた重鎮達の目線は私達ではなく王子に向いた。まあ、それは普通だ、私なら、王族を連れてきて何をするつもりなんだっ!? と言う勘繰りをする。
「何故ルーカス殿下がここに? 所詮第二王子程度で私達が意見を変えると思ったら大間違いだぞ?」
室内の空気がすこぶる悪くなり、怒り掛けている人達が居るなか、私の父が少しだけ威圧しながら私に問い掛けてきた。
私の父、ヴェリィ陸軍魔法総帥、陸軍魔法総帥と言うのは陸軍所属魔法兵科総帥の略称で、文字通り陸軍に所属している魔法兵のトップだ。つまりは私も父の部下と言う訳だ。
「はい、それは知っています。ではこちらから質問しますがこの王子が私程度の話を聞くと本気で思っているんですか?」
かなり無礼な態度をとっているが、それくらい言わないと理解できない堅物しか居ない。それに無礼な態度を取ったとしても一応は王子はこちら側に居るので何かする、と言うのは難しいだろう。
「それに先程の言葉、それは王家を蔑ろにしている様に思える発言です。撤回してください。この国は王家が基準なんですから」
「むむむ、確かにそうだが」
こうなれば私の父は何も言わないだろう。そもそも私の先程の言葉遣いよりも父の発言の方が異常だ。王政の国家に取って一番罰すべき、王家への蔑ろな態度だ。
……まあ、それなら私は千回死んでも足りない事をしているけれど。
「それは良いだろう、先に本題を片付けようじゃないか」
そして沈黙が流れた後、言葉を発したのは父の隣に居る、参謀長らしき人物だ。
何故、らしき、と言う言葉を使ったのかと言うと、普通に認識が無いからだ。陸軍総帥は私の父とは仲が良く、たまに家に訪問してきていたので消去法で残った人が参謀長になるわけだ。
因みに、家に陸軍総帥が来たときに何時も私に、あんなやつには絶対になるなよ、と語り描けてくる。
そう言うふざけ合いをする程仲が良いのだろうが、毎回聞かされる私の身にもなって欲しい。
ただ、この二人は意見が会わないが、一致している事は参謀長みたいには絶対になるな、と言うことだ。
本当に迷惑すぎる。
「まず聞くが、君はどうやって戦い、何故勝ったんだ?」
聞かれたのは予想通りの事だった。まあ、こんな私みたいな小娘が、勝率が見込めない戦いで圧勝したとなると、そうなるだろう。
しかし、戦略の概念を知らない人達戦略、もしくは戦術について教えると言うのは難しいだろう。そんなもの、この世界に存在していない蒸気機関を教えるような物だろう。
「まず砦の前で、防御を重視して陣を作っていました」
「防御を重視して陣を作ってどうするんだ? それよりもより攻撃性を高めた方が良いだろう」
やっぱりだ。流石に陣形等の利用は一部で行われているため、陣と言うのは分かるのだろう。ただ、私の言っている事はその陣を用いて待ち伏せすると言う事で、参謀長はその陣形で突撃すると考えているのだろう。だから意見が会わない筈なのだと思う。
「いや、私はそこで迎え撃っただけなので突撃するよりも圧倒的に、容易に勝利できたんです」
「「「?」」」
この人達には、と言うかこの世界には迎え撃つ、迎撃の概念がないので分からないのは当たり前なのは分かるのだが、凄く気力が減っていく。
まあ、説明しない訳にはいかないので、私の父の目の前に置いてあった紙の裏を使って説明することにした。
「ウェドル砦は丘に有りますよね、そこに前面から突撃する聖国騎兵隊を見ると、少しだけ下に居るため魔法攻撃が当たりやすく、そもそも騎兵なら馬から落としてしまえば歩兵よりも弱いので圧倒的に有利なんです」
紙に凸を四つ書き、一つの凸の後ろには砦と書き、後は流石に分かって貰えると信じ書かなかったが、参謀長は頷いていたので分かったのだろう。
……まあ、残りの二人は分かっていなさそうだったが、別に後で説明すれば良い事だし、そもそも伝えたかった対象は参謀長なので二人は別に要らない。
「それなら合理的だな、近寄られても防御陣形を組んでいるから人を殺されなくて済むな。ただ、魔法兵は君とメルリィ少尉以外存在していなかっただろう? それで対応出来たと言うのは少し無理があるぞ?」
この人は私の父や陸軍総帥とは全く異なり、頭脳派の人らしい。まあ、父は一般的なレベルだが、陸軍総帥の方はもっと酷い、こいつに戦術について何十時間を消費して教えてもきっと理解できないだろう。それほど馬鹿な人なのだ。
「この作戦では従来の練度の魔法兵は大して必要ではありません。一般的に初級攻撃魔法を扱える者たちが弾幕を張り、その弾幕により落馬した者たちを私達、練度の高い魔法兵が打ち殺すと言う物なので、魔法兵に部類される人間はいらないです」
「……確かにな、今までは練度が熟した魔法兵たちが固い鎧に向かって魔法をただ単に撃っていただけだが、それなら教育が難しい高練度の魔法兵が大量に要らなくて済むな」
私の話をしっかりと聞き、驚いた顔で返答を始めた。まあ、人間と言う物は常識に縛られ過ぎて少し考えれば分かるような改善方法でも、気付かないものだ。
メルリィもいつか言っていたからな、こんな簡単に改善できるのに何で気付かなかったんだろう、って。まあ、その時はただ単に馬鹿なだけだったが。
「それなら無駄に金を使わずに出来るな。しかも防衛線だけならそれで対応できるから、侵略方向へと魔法兵を使用できるか」
流石に色々な事を発覚して、頭が混乱しているのかその言葉を発した後、一言もしゃべらなくなった。
そしてもう二人は、と言うと、私の父は頭を抱えながらどうにか思考しているようだったが、状況は芳しくないようで、先ほど凸を使って説明した裏紙に、意味が分からない、もっと詳しく教えてくれ。と言う風に書いてあった。我の父ながら恥ずかしい。
そしてもう一人の陸軍総帥と言えばずっと私の顔の近くに視線が向いていたが、たぶん理解不能で思考を放棄したのだろう。家に来てもそう言う事が偶にあるのでよくわかる。
「その陣は重装騎兵騎兵には効果抜群だが、軽装騎兵にはいまいちで、魔法兵に至ってはただの的にしかならないだろう? 流石にそこまで短絡的に考えるのは愚かだと思うが」
そして私の父は、私がその紙を見ても反応しないところを見て、何を言っても無駄だと感じ取ったのか、時間稼ぎをするために参謀長へ否定の意を挙げた。
まあ、言っている事は正しい。地球でも私が生きていた頃ではそんな戦略は使われていなかった。理由としては銃火器の進化による影響だ。テルシオが一般的に使われていた時代はまだ銃火器が発達しておらず、命中率が低かった。しかし、年々と命中精度が上がり、最終的には絶対に当たる人間の的になってしまった。
この世界での魔法は、地球での銃火器のように命中精度は悪くなく、ほぼ百発百中だ。つまり、大魔法を撃たれてしまったら、対応が難しいということだ。
勿論、魔法には魔法で防御することも可能なので、地球のように撃たれたら絶対に死ぬ、と言うことにはならないだろう。
軽装騎兵は……どの陣形を組んだとしても、いまいちになると思うが。
「だそうだが? 何か言う事は?」
「はい、陸軍魔法総帥が言う通り、この陣は大魔法がとても弱点です。ただ、大魔法は魔法で防げます。まあ、それは避けるべきなんですけどね。あと、軽装騎兵については、魔法の射撃速度が間に合わない限りはどれでも変わらないのでは?」
「だそうだ、娘に論破されさぞ悲しい気分だろうな」
私が参謀長と父に、伝えると、何故かここで参謀長が私の父に向って毒づき始めた。こういう性格だったからあの二人から参謀長のようにはなるな! と言われていたのだろうか?
「まあ、話はこれくらいでいいだろう。ではヴァンピィ中尉は大尉に、メルリィ少尉は中尉に昇格だ。おめでとう」
よくわからない。急に毒づき始められて脳内が一瞬でかき回されて混乱してしまった。ただ、昇格したということは分かった。ただ、この年で中尉と言うのも珍しいが、大尉は貴重というか、異常だ。まあ、給料も上がるしうれしいのだけれどね。
「「はっ! わかりました」」
「じゃあ、二人は知らせが来るまで王都で待機だ。あと、大尉、先ほどの作戦を報告書にまとめておけ、ほかに有効だと思うのは提案してもいい。それでは解散」
その参謀長の言葉により、会議は絞められた。ただ、参謀長と言うのは総帥以下の階級なので咎められるべきなのだが、あの二人が咎めようとすると、簡単に論破され、逆に説教をされている未来しか見えなかった。
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彼女が陸軍省に現れた時の印象は、厄介な奴、という印象だったらしい。
まあ、そんな直接的には書かれていないのだが、彼女がニ十歳の時の参謀長に性格が似ていて、参謀長ととても気が合う人物、という評価だった。
その当時の参謀長はアマニス大将だ。
彼はいろいろな歴史書でも有名だろう。第二世代の指揮官としては二番目に有能な人物だ。
そんな彼は頑固者、厄介な人物、疫病神、娘を非道への道へ進める悪魔(ヴェリィ陸軍魔法総帥{彼女の父の意見})などと言う評価だ。
彼は頑固、と言うよりかは合理的すぎる、と言う方が有っているだろう。ただヴェリィ陸軍魔法総帥によると、嫌みが心が痛くなる程度ではなく、心を空の果てまで吹き飛ばす様な酷い嫌みを言う程に陰湿な奴、と言うことになっているので、意外に子供っぽい所もあるのだろう。まあ、頭が良いため嫌みがハイレベル過ぎていたのだろう。
まあ、合理的すぎると言えば彼女の方が圧倒的に強いのだが、彼女が合理的になった理由は元々の性格もあるのだろうが、アニマス大将に原因の一部があるのかもしれない。
――出展、ヴァンピィ王国指揮官についての考察。
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「はあ、本当にお前が女だってことを偶に忘れかける」
私たちが陸軍省庁から帰っている途中、急にそんな事を私に行ってきたのは先ほどまで一言も話さずに黙って居たせいで空気と化していた誰かさんだ。
まあ、女っぽくないのは元々男だから、と言う事もあるが、と言うかそれしかない。だって女言葉とかふざけている様にしか思えない。ほほほ、何を言いなさいますの? とか、気持ち悪くて無理だ。
「私は貴方の事を常時遊び人としか思っていないですけどね」
「ほうほう、ではヴィは遊び人に惚れるほどのちょろい女なのか」
……だから私はこいつは苦手なんだ。まあ、王子はこういう性格だが、まあまあ頭は良い。しかもこう言う煽りなどの発言なら世界一になれる様に思えるほどにうざい。
もちろん、普段からこう言う事ではないだろう。王子の本性を知らない哀れな仔羊達は、王子の甘いマスクに誘惑されてしまう。ただ王子の本性は腹黒の性悪野郎だ。一言で言えば煽りの天才、と言って方がいいだろうか。
なんと言うか、改めて考えてみると、私をストレスの掃き溜めにしている様にしか思えない。煽りの天才はこう言う奴なのだ。
だから惚れるというのは絶対にありえない。
「……」
「おやおやぁ? どうしちゃったのかなぁ、急に黙り込んで、さっきまでの威勢はどうしたんだろうねぇ、それに歩調も速くなってるし」
別に私の歩調が速くなった訳では無いはずだ、きっとこの台詞は王子の妄想から生まれた勘違いなんだ。と言う風に思う事にした。
実際のところ私はこの性格が家畜よりも汚いこの王子に惚れてしまっている様だ。しかし、元々の私が惚れているだけで、後から入って来た異常な”俺”は全くと言って良いほど、王子にはそういう気持ちは抱いたことはない。
「顔も赤くなっているし」
私は一種の精神病、と言う奴なのだろう。本当に私に前世があるのかもわからない。もしかしたら”俺”は私の妄想から生まれた虚構なのかもしれない。ただ、そう思っても、行動を変えるのは難しい。もう私は軍に入っているのだし、少しだけだが人を殺した、そんな勘違いで人が死んだとなったら私と同じような復讐に燃える者が出る。だから今更私は引き返せないのだ。
「だから何だ? 私は君からしたらほぼ男なのだろう? なら別にそこまで構う事もなかろう」
だからこの王子には今すぐに私と関わるのをやめてもらいたい。この王子は私が関わらなければ誰かと幸せに生活できるだろう。今なら間に合うので強く言いたいのだが、それが言えない。きっとそれは”私”が拒否しているのだろう、好きな人には近くにいてもらいたい、と。
まあ、そんなことは絶対に拒否したい。なぜ自ら進んで野郎と付き合わなければいけないんだ。
「それはなぁ、お前が好きだからだ」
そう、王子に頬を指で突かれながら言われた。
そんな、男の時では大して普通な行為でも心臓の鼓動が速くなっていくのを感じる。しかも”俺”も少しだけキュンとしてしまっている。
これは俺が男色な訳では無い、人間にとっては普通なことだ。今の状態は”私”と”俺”と言う二つの精神に分裂している。だからこの体は修復しようと精神の統一化を進めていっているのだろう。だから言葉を話せるようになってからの五年は、私と言う一人称に違和感を感じていたが、ある時を境目に全く感じなくなった。それが精神の統一化が進んでいる証拠だろう。
「……」
「はあ、相変わらず素直じゃないよな、ヴィって」
そんな風に微笑まれて、顔の表面の温度が急激に上昇するのを感じる。
そんな風に感じていくと言うのは漠然な不安を感じる、そしてそんな可笑しな事は誰にも相談できないので、孤独感も感じる。
まあ、そんなことを思っていてもいつの間にか、そんな事を感じる事がなくなり王子の子供さえも産んでいるだろう。だから悩んでも仕方がないのだ。
「……」
「はあ、ごめんって、謝るからそんな黙り込むなよ」
そんな風に悩みを吹き飛ばし、と言うか思考を放棄して少しだけ湿っぽくなった雰囲気を腐蝕しようと思ったが、そんな風に思っていたのは私だけらしい。
王子は私の事を弄るのに集中していて、少しだけ私が悩んでいた事に気付かなかったのか、それとも気付いていて無視したか。
それでも王子のお陰で雰囲気は決して悪くなっていなかった。
……因みにメルリィは何も考えていなさそうに、王子に弄られている私を、ケラケラと笑いながら見ていた。
「それよりもお前らが今度は何処の所属になるのかが気になるな」
「それは分かりませんよ。有能だからこそ戦線に送るか、有能な者達を最終決戦に残すために中心部に配備させるか、もしくは侯爵家と言う事で王都に配備させるか、それくらいですね」
こんな事を言っているが、結局は王都、もしくはその周辺の砦か何かに配備されるだろう。今の腐った陸軍内部の状況なら、有能な私を使って殺されかけた時に利用する、と言うような方法をとるかもしれない。そんな事になったら皆殺しにするが。
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「はあ、はあ、なんだ向こうの指揮官は、何故歩兵だけで我々を防げるんだ!?」
「何だったんだあれは!? なぜ騎兵隊である我々が精々二百程度の歩兵集団に負けるんだ!? 訳が分からない!?」
ウェドル砦攻略に失敗し、撤退していると、聖国軍の副隊長が騒ぎ始めた。
まあ、それについては私も驚きだった。最初見たときは歩兵しかおらず蹂躙するだけだと思っていた。しかし、相手は突撃してこないで待ち伏せし、弱い魔法を連射していた。
もちろん、人間はそれだけでは死なないが、馬がそれを耐えられずに落馬してしまい、そこを狙われ逆に蹂躙されるだけになってしまった。
「落ち着け、それに貴様らの元友好国家の王国の兵たちが死なないから嬉しいのではないのか?」
「それはそうだがっ! 我々がどれだけ訓練していたかっ! それをっ! それを歩兵に負けるなどとっ!」
どれだけ血の滲む訓練をしてきたのかは私は知らないが、仲間の事を思い、大の大人が、成人した男がなく姿を見て驚いてしまった。腐敗している王国は勿論、帝国ですらこんな情の熱い人物は見たことがない。聖国と言うのは、こう言う事が有り、列強の帝国、王国、連邦に囲まれていても耐えていたのだろう。
「なら泣くな、泣いている時間を死んだ仲間たちへと捧げろ、そうすれば仲間も救われるだろう?」
「っ! 貴様なんかにっ! 何がわかるんだっ!」
何が分かるかと聞かれても私は知らないので答えようがないのだが、私は善意で言ったのでそこまで憤怒するまでの事は無いだろう。いや、王国と戦う理由……仲間が死んだ理由は帝国が聖国に占領したからで、その帝国の皇族である私にそんなことを言われても、と言う事か。
「はあ、立場というのはとても面倒くさい。私が皇族の中で痛んである事は理解できているのだが、精神的につらいものが有る」
私の言葉は森の中へ消えていった。
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「……王子、どこまで付いて来るんですか? 私に付いて来る前に王城へ報告に行って下さい。貴方のせいでどれだけ混乱しているのか分かっているんですか?」
あれから五分、私とメルリィは私の実家に帰っていた。……そして王子も何故か私の実家に付いて来た。
陸軍省庁舎から、私の実家に帰るまでの途中に王城を横切るのだが、近衛達が第二王子の事を探すために城門の前に招集を掛けられていたので、急いで王城にお帰り願いたい。休日出勤をしているであろう近衛の一部の者達の為に。
「なぜ俺があんなところへ戻らなければいけないんだ」
「それは貴方の家だからですよ」
しかも、このような会話をしたのは四回か五回目だ。だからもう私の返答がどんどん適当になってしまっている。しかも王子と言う人間を家に入れておいてこんな対応だとバレたら困るので口封じもしなければならない。
本当に面倒くさい。
「絶対に退かないからなっ!」
「はあ」
もう面倒だ。休日出勤の近衛兵には悪いが報告しに行くとするか、別に王城までは一分も経たずに着くから、王子と会話するほどの労力は掛からない。
「メルリィ、王子の接客をお願い、私は少し出かけt」
「おいおいおい、ちょっと待とうかぁ?」
私が玄関のドアノブを手に掛けて、開こうと動こうとした瞬間に、私が王城へ行こうとした事を察したのか、私の後ろから抱き着き私は身動きが取れなくなってしまった。
「何してるんだい? 子猫ちゃん?」
「……私は子猫ちゃんではありません。それよりも早く離れてください、魔法打ちますよ?」
そして耳元でそんな事を囁かれてしまったので、いつもなら顔だけが熱くなるところ、耳まで熱くなってしまった。
勿論、婚約前の男女がこんな風に抱き合っているのは絶対に避けるべき事だ、ただ相手は王族なので拒否も出来ない。という言い訳を自分の中でしてしまった事から、精神統一化が進んでいる事が分かった。
「やっぱりヴィって意地っ張りだよな。毎回顔を赤くしt、ぐほぉっ!」
「メルリィ? 何笑っているんだい? 早くお眠りになったお客様を寝室に連れて行ってくださいね? ね?」
結局、困ってしまったので実力行使をした。
ただ、別に私は悪くないはずだ。未婚な女子に抱き着くなど言語道断だ。論外だ、社会の敵だ、ただの性犯罪者だ。それを気絶させるだけの威力に弱めた魔法を打っただけだ。私は正当防衛だっ。
そんな風に責任を私ではなく、性犯罪者もしくは論外又は社会の敵に責任を押し付ける方便を考えながら玄関を出た。
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「おい、レヴィス、起きろっ!」
「ううん」
今日は休日で当番が無い為、宿舎にて一日中ゴロゴロとしている予定なのだが、何故か起こされた。
「ったく、おれはねみぃんだ」
「いや、俺も眠いが、なんか召集が掛けられたみたいだぞ」
俺を起こしに来たのは俺の同期のヴァイス、名前がよく似ているため初対面の人には兄弟ですか? と聞かれるが、全く違う。そもそも、背格好すら全く違っている。
ヴァイスは細身で身長が低く、俺はガタイが良く、長身だ。しかもヴァイスは女顔だ。それはもう、そこら辺の女よりも女顔だ。
そのせいで、先輩たちからは女よりも色っぽい男、と言う綽名で呼ばれていたりする。
ただ、血筋で言えば上位貴族だ。
こいつの父は今の陸軍魔法総帥だ。そして家族の殆どは軍部所属だ。最近ではこいつの妹が軍部に入ったらしい。
「はあ、分かった。すぐ行くから待ってろ」
そのあと、ヴァイスの妹に死ぬ程感謝するとは思えなかった。
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「早くウェドルに行くんだ! 早く!」
私が近衛兵の宿舎に着くと、馬車が置いて有り全員で馬車に乗っているところだった。行き先がウェドルであると言う事は、きっと第二王子を探しに行く途中なのだろう。やはり王子を気絶させたのは正解だった。
「すみませーんっ!」
久しぶりにこんな大声を出したので、喉がすごく痛いが仕方がない。ただ、あの状態でいつもの清涼で話すと聞きとられなかったと思う。
「なんだ貴族の嬢ちゃん。今は忙しいから後にしてくれないか?」
「いや、まあ、その、嬢ちゃんではなくて、ってそれは良いです。王子なら私の家に居るんですけど」
私の声に返答してくれたのは、近くの馬車に荷物を載せていた体つきの良い長身の男性だった。口調的には平民なので、近衛には珍しい平民出身なのだろう。……そういう風な考えが普通だ。つまりは第二王子と初対面な人はそう思うと言う事だ。
「「なにぃ!?」」
「うるさいなっ! って、あれ? ヴィ?」
私の台詞を聞き、荷台に荷物を運んでいた全員が私の方を向きながら叫んだ。
その中で一人だけ注意の声をあげた人がいるが、あれは私の兄のヴァイスだ。兄は凄く美人だ。女顔なので。しかも、仕草も女っぽいので私よりも女と言える人物だ。
「はあ、別に親父が婚約を結んだらしいから良いけど、あんまり家に連れ込むのは……良くないよ?」
どうやら、家に居ると聞いて私が連れ込んだと思ったらしい。……いや、違うな、私の兄は私が奥手と言う事に対していつも弄ってくるので、どうせまた冗談なのだろう。そもそも、兄は王子が私にずっと付いて来ている事を知っているので、安心感からの冗談だったんだと思う。と言うかそう思いたい。
「ああ、この小さいのがヴァイスの妹か」
「ああ、そうだよ」
先ほどの返答してくれた、長身の人は私の兄と仲が良いらしく、笑いながら談笑していた。
「兄さん、その、まあ、兄さんの嗜好は否定したくはないけれど、せめて跡継ぎを埋める人と婚約してくださいね?」
「違うっ! レヴィスとはただの友達だっ! そもそもそう言う様な性癖は持っていない!」
勿論、このまま引き下がるのは癪なのでやり返しておいた。
この、侯爵家とは思えない様な言い争いはほぼ毎日と言って良い程行われている。言い出しっぺは兄なのだが。
「んん、それよりもだ、良くウェドルから帰ってきたな。もう死んでいるかと思ったよ」
「貴方達とは頭の作りが違うのでこの程度、どうって事無いですよ。まあ、私よりも王子の方が危なさそうでしたしね」
ここに王子が居ないことは分かっているので、少しだけ誇大化させて兄に言った。勿論、これは私なりの配慮だ。兄がこんな風に心配するのは冗談の時ではなく心からそう思っている場合だ。だから下手に「一回だけ普通に死にかけましたけど、王子に助けてもらったので間一髪でした」なんて事を言ったら、兄は仕事を放って家に私を連れ帰るだろう。
ああ、もうわかったと思うので一応言っておくが、兄はシスターコンプレックスだ。それも重度の。そして私の父も親馬鹿だ。つまりは私は家族に要らない方向で愛されていると言う事だ。
「愛の力ってやつなのかな?」
「……レヴィスさん、でしたっけ、さっそく案内するので付いて来てくださいね」
「お、おう」
やはり、私たちの言い合いに驚いたのだろう。だってこれがこの国の三番目に偉い人達と言う風に思ったら、普通に誰でも激怒するだろう。
「お前らって何時もこうなのか?」
「いいえ、違います、兄が私の事を貶してくる場合はこういう感じになりますが普段は、一般的な貴族家庭ですよ」
勿論、私はあんな兄と同類とは絶対に思われたくない。自分で言うのもなんだが、私は一般的な常識人だと思う。まあ、口調やら態度やらは二十歳とは思えないとはよく言われるが、それ以外は特に変わらないと思う。
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「協力ありがとうございました」
十分後、きぜ……馬車での疲れか、玄関で死んでしまうかのような勢いで眠ってしまった王子の身柄を、近衛兵の人たちに引き渡した。どうやら腹部に打撲痕が有った様だが、防衛線の時に怪我でもしたのだろう。かわいそうだと思った。
「はあ、王子って災難だよね、好きな人にだきt、むごむごむご」
「黙りましょうか。あぁ、別にあなたが王子と同じ目にあいたいのならいいですけれど?」
私が、無駄な事をほざき始めそうだったメルリィに対し、無駄口をたたかせないために、少し笑顔で拳を構えながらやさしく言い聞かせてみると、幸いな事にメルリィはぶんぶんと首が飛んでいきそうに思えるくらい頷き、私自ら手を下すという未来は少なくとも一つはなくなった。
「ぷはっ、でもなんで、ヴィは王子の事をそんなに毛嫌いしてるの? 嫌っている訳ではないとは分かってるんだけどね? でも両想いでしょ?」
そして、何も言わなくなったことを確認し、メルリィに外されない位力を込めて抑えていた口元の腕を外し、メルリィを開放した瞬間、私に向かってそんな事を言い始めた。
……やはりもう少ししつけが必要かな。
「はあ、メルリィは、私はただ気障な事が嫌いなだけだよ。容姿だけは良いとは思うが」
一応、こちらも近くには王子は居ないし、兄もいないし、兄の友人もいないだろうし、私も正直言って暇だったので、表面的に好きになっていない部分をこたえておいた。実際は、元々私は俺であり、男であって、そして男色の気はない。だから私としてはぞっこんにもほどがあるのだが、俺的には正直生理的嫌悪を感じている。
俺が男と付き合うとか、もうおぞましい。気持ち悪い。そもそも俺の生きている目的は帝国への復讐だ。色恋に嵌まっているいる暇ではないんだ。
そういう風に、新たに私と俺に意識をつけさせ、改めさせ、帝国への復讐を果たすことをさらに決意した。