螺旋~意識の迷宮
確か…それは…いつだった…。
どこか忘れたようにも思うようにもある。
間隔を持った刻…。
…オマエは…誰だ…。
少しの思いにいた刻。そこに虚空のような時間が儚く通った風と同じくして過ぎていく。
「オマエは…誰だ」
「それは…オレが聞きたいよ」
そんな言葉も…どこか仄暗い室内のなかに軽く反響しては、ゆっくりとした余韻を残したように消えてゆく。
目の前はそこに幾つか縦に並ぶ…等間隔に揃えられたようにもある間仕切り棒のような物が見えるようにもある。
「おい…オマエは…」
どこかいつもに思う。そう感じた言葉も、それはいつからだったのかを思うような事にある。
「どうした? いつもオレはオマエの目の前にいるじゃぁないか…今日になって、それもどうしたというのか…」
天井にまで続いているようにも見える。たぶん金属製であろう。そう見えてもいるが…それは見えても見えない空間を仕切り、そこである二人の距離をどこまでも遠く…離していた。
「なぁに…いつもに思う。そんな自分を言っているのさ」
「然し…どうした? いつになくにも。でもな…その場所にいるオマエは、いつからかそこでオレを見ていては…何か思う事をしている。ふふっ…そうでしか出来ないのだから」
「オレは好きで何か…見ているんじゃないよ。そう言うオマエがオレの事を見ているんじゃないか? とにかく…だってな…。いつもに思う。オマエは浮屠したように気がつけば…オレの事を見ているんだよ」
それは檻という建物。見えるようでも…それも見えてもいないようにある。話し掛けた。金属製であろう棒の並ぶ部屋の一ヶ所。その一部分に、そんなように話しているオレという二人のオマエは向いていた。
「いいか…オマエはいつにもそこにいる事しか出来ないのにも…オレがこうして話し掛けた言葉も…オマエはそれは何かの慰めにでもなるのか…? オレに何かを期待しても何も知らないと思う事でしかない。そんな言葉も随分と話してきたつもりだが…」
少しの刻…。
何かに思うような…そこに…えにもいわれぬようなそんな薄汚く思えた空気が…それに見えても見えない空間を仕切っている。
それにあっても何かにと話している二人のその間を…ゆっくりとしたようでも早い時間も流れていった気がした。
「外は雨の音がするが…。今日という一日は…そんなようにある。雨の日のようだな…」
「…そんな事はオマエに聞いたりしたとこでも…ふふっ…そうしてもオマエはただそこにいるだけにある事なのは変わらない」
「それはオマエだって変わらない事にあるようじゃないか」
ぽつり…ぽつりと、雨の日の音を伝うような…そんな建物からの屋外にある。その見えてはいない風景が目の前に浮かんでいる。
「どうしてオマエはただそこにいる」
虚空に消える。徒と咲いた架空の花に問い掛けている。そんな言葉もどこか不思議なようにある。思いは届く事にも…たぶんない。
「然し…オマエはただそこにいる。それに…何だ」
「でも…そんな事に言うオマエは…オレもそうだが…ただいつもそこにいるじゃないか」
不思議な…それに思うようにもある不思議な空気が…時折に感じた風と引き換えにあるように思えた…。
「もし…この場所からいつかオレが消えてゆく。でも…ふふっ…オマエはそうしていつもに思う事をする。見ては見えない空間を仕切り、そんなような檻にいるのは…本当は自由なオマエの方なんだから。…ふふふっ」
ゆっくりとしたようでも、どこか苛立ちを隠せない…跫。それは遠く…遠く続いた仄暗い空間もその建物の通路にそんな残音をつける。
然していつしか遠く聞こえるようになったその跫は…。どこか不思議ないつもに思う事をする。オマエは誰だ…と自己に問う事をしては、風景も雨の日に思うような感覚に歪に薄ら笑い惑わされ続けている事だろう…。