starting station 始発駅
初めての投稿でございます、次の投稿はいつかはわかりませんが、出来るだけ早めに出したいと思っております。
炎天下の夏の暑さが全く感じられない日の事だった。
道の通りに立っている多くの木が太陽の日差しを遮っていて、心地良い風が俺の体を包み込んでくれる。
この道を抜けると、少し古く寂れた小さな駅がある。
俺は毎日ここの列車に乗ってこの駅の終着駅へと行く、これが俺の日常だった。
「…今日も誰も居ないのか…」
しかし列車と言ったってここの乗客は大体俺一人で、誰も居ないことが普通だ、まぁ、俺にとってはありがたい事だけどな。
この列車の窓からはいろんな物が見える。
春は沢山の桜の木が生えており、風に煽られて窓の外から桜の花の良い香りが列車の中を満たしてくれる。
夏は蝉の鳴き声が良く響き渡り、夜になると花火を見ることができ忘れられない思い出を作ってくれる。
秋には美しい紅葉が舞っていて、その紅葉を見ながら焼き芋を食べる事は秋を感じられる充実した一時だ。
冬には窓一面に白銀の世界が広がり、空から降ってくる小さな雪はまるで宝石のようで、見れば誰でも一瞬で魅了するほど綺麗で今でもその光景は忘れられない。
この列車から見れる景色は俺の一つの楽しみであった。俺は自分が一番気に入っている席に足を運んだ。
するとそこには、俺以外の誰かが座っていた。
(…ん?珍しく俺以外の乗客がいるな)
よく見ると、セミロング位の綺麗な髪をしている女の子だ。
「こんにちは」
「あっ…こ、こんにちは…」
彼女は少し驚いたように見えたが、ちゃんと挨拶を返してくれた。まぁ、いきなり知らない人に挨拶されたら俺も驚いてしまうから仕方ないとは思う。
「ここ、良いかな?」
「あっ、はい、どうぞ」
彼女は俺を反対側の席に座らしてくれた。
「すまない、ここが一番好きな席なんだ」
「そうなんですか?私はここから見える景色が綺麗だったので」
「君はこの列車に乗るのは初めて?」
「はい、そうなんです」
「なら、君は運が良いよ」
「えっ?」
「こんな良い席を取れたんだから」
俺は笑いながらそう言った。俺が笑う所を見て彼女もクスクスと笑いながら言った。
「そうですね、本当に嬉しいです」
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彼女に聞いたところ彼女も終着駅へと行き、何処か遠くの所へ行こうとしているらしい。
しかし見たところ彼女の持ち物は少ない。
白いワンピースを着ていて、旅行バック等ではなく手提げの少し小さい鞄しか持っていない。
まぁ、俺も終着駅に行くのに荷物なんて全然持たないから、仲間が居たという感じで嬉しかった。
「あの、ちょっと聞いても良いですか?」
「どうした?」
「貴方はここの常連さんですか?」
「うーん、この列車には毎日乗っているからな…まぁ常連と言えば常連かもしれない」
「ま、毎日?」
彼女は不思議そうに俺を見た。
「あぁ、この列車に乗っていると、なんだか心が落ち着くんだ。ここから見れる景色も綺麗だし、そしたらいつの間にか毎日ここに来るようになったんだ。馬鹿みたいだよな、こんな大人が」
俺は笑った、いや笑うしかなかった、多分彼女も笑うだろうと思ったが、彼女は真剣な目をして俺にこう言った。
「そんな事ありません。私は素敵な事だと思います」
嬉しかった、今まで自分のしてることは周りにとっては笑われる事かも知れないと思っていた。
それを彼女は笑わずに、素敵な事だとはっきり言ってくれた事が自分にとってはどれだけ嬉しかった事かよく分かる。
その時の彼女は笑顔が可愛らしく、俺は恥ずかしくなりつい顔を窓に背けてしまった。
「あの……」
「まだなにか?」
「えっと、その……」
「どうした?」
何か言いたげだが中々話し出せずにいるから、まさか俺はまずいことをしでかしたのではないかと心配していると、彼女が口を開いて。
「も、もう少しだけ、お話しませんか?」
彼女の一言で俺の心配事は一気に吹っ飛んで行き、ホッと溜め息をついた。
「私、男の人と一緒にいると恥ずかしくて…」
まぁ、そうかも知れない。
この列車は始発駅から終着駅まで予定通りなら停まらずに行くのから、つまり今ここにいるのは二人だけになってしまう。
男も同じだ、いきなり綺麗な女性と列車の中で二人きりになるとドキドキしてしまう、それと同じことだ。
「あぁ、構わないよ」
「あ、ありがとうございます。で、では、何のお話をしますか?」
「そうだな…」
俺は考えた。
何か良い話題はないものかと頭の中で考えてみると、ひとつだけ聞いてみたい話が頭の中に浮かんだ。
「それなら、君の話を聞かせてくれないか?」
「わ、私の話ですか?」
「あぁ、君が産まれてから今に至るまでに心に残ってる話を俺は聞いてみたい」
「そうですか?…じゃあ、私の話をしたら、あなたのお話も聞かせてくれませんか?」
「俺の話?…構わないよ」
「ありがとうございます、それじゃあ、話を…」
「あ、その前に一つ」
「え、あ、はい?なんですか?」
「君の名前を教えてくれないか?」
今更だと思うが、列車に乗ってから彼女の名前を聞いていない事を思い出した。
「あ、確かに列車に乗ってから名前を教えてないですね、私は鈴鳴千夏って言います」
「千夏…今の季節にぴったりの名前だな」
千夏は少し微笑みながら「そうですね、私は夏が好きなのでこの名前が気に入っているんです」と答えた。
「貴方の名前はなんと言うのですか?」
「俺の名前?そうだな…俺の話になってから教えるよ」
俺がそう言うと、千夏が頬を少し膨らまして「むぅ…意地悪なのですね」と言ったがすぐに「わかりました、でも貴方の話になった時はちゃんと名前を聞かせて下さいね?」と言われた。
俺はその言葉に対して「勿論、約束するよ」と言った。
「それじゃあ、君の話を聞かせてくれ」
「はい」
千夏は首を縦に小さく頷くと自分の事について話し始めた
「えっと…私が産まれたのが今から18年前で、産まれた頃から心臓病だったんです、あ、今はもう大丈夫です」
「心臓か…大変だったな」
「はい、この病気のおかげで私には友達なんて人が居ませんでした、多分皆は面倒事に巻き込まれたくないから、私に関与しないようにしていたんだと思います」
「そうか…」
千夏は暗い表情だったが、すぐに微笑んで話を続けた。
「でも、嫌な事ばかりではなかったです」
「…どうして?」
「こんな私をいつも助けてくれた男の子がいるんです。私が勉強に行き詰まってる時は私と一緒に勉強してくれたり、学校の行き帰りも一緒に登校したりしてたんです」
その話をしている千夏は凄く嬉しそうで可愛らしい表情だった。だからこそ俺は聞いてみたい事があった。
「君は…その男の子の事が好きなのか?」
俺はそう聞いてみた、すると千夏は頬を赤らめながら
「えっ!…あっ…その…///」
図星だった、いいな青春してる。
「その話、もっと聞かせてくれないか?」
「あ、はい…えっと…」
千夏は少しだけ深呼吸をし、ゆっくりと自分の過去について話し始めた。
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何で、こんなことになってしまったんだろう。
私は教室の周りを見渡し、そう思ってしまった。
(高校生になれば、もう中学校と同じような事にはならないと思ったのに…)
中学生の頃、周りに友達と呼べる人が一人もおらず毎日一人ぼっちだった。
でも、自分が悪かった。こんな持病があるから悪いのかもしれない。
私はそう自分に言い聞かせながら過ごしてきたけど、もう耐えきることが出来なかった。
そこで私は、せめて高校は皆が行きそうにもない所に行くために毎日勉強に励む日々で、試験にも行ってなんとか手応えはあると期待していた。
そして、合格発表当日…
私の受験番号は書いてあり、私はやっと皆から離れられる、そう思うだけで嬉しかった。
でも、それは間違いだった。
高校生になってから、初めの1ヶ月は何ともなかったのに、ある日から皆が私を避けていくようになってしまった。
何故こうなったかは正直わからない、でも私の持病の事が皆にバレたのは間違いなく事実だと思った
(また…中学校に逆戻りか…嫌だな…)
でも、バレてしまったことは仕方がない。
(今日も図書室にでも行って暇潰しでもしようかな…)
中学生の頃私は皆に会わない為に授業以外は全て図書室に居るのが日課で、それが学校に来るための唯一の理由だった。
まさか、高校生になってからも図書室通いなのはちょっと寂しくなってくる。
私はそんなことを思いながら階段を上がるための角を曲がろうとしたその時、誰かとぶつかってしまった。
「きゃっ!」
私はしりもちをついてしまった。それもいきなりだったからかなり痛い。
「イタタ…」
「ご、ごめん!大丈夫!?」
するとその人は、私に手を差しのべてくれた。
手を出してくれたのはクラスの人では無かったけど、同じ学年のバッチを着けている男の子で、私が派手にしりもちをついたから彼も慌てていた。
「い、いえ…大丈夫です」
「でも、凄く痛そうだけど?」
「あ、あの、ほ、本当に大丈夫ですから…し、失礼しますっ…!」
「あっ…」
私はせっかく手を差しのべてくれたのに彼の手をとらず、つい逃げてしまった。
あんなに心配してくれたの家族以外で初めてだったのに…
(なにやってんだろう私…)
そうこうしている間に図書室に着いた。いつも通り人は少ないけど、その方が私にとっては嬉しい。
(今日は何を借りようかな…)
本棚を見ていくと、一冊の本が目に付いた。
恋愛小説だった。普段なら恋愛小説なんかには興味は無いけど、なんとなく読みたい。
(…ちょ、ちょっとだけ読んでみようかな?)
私は周りを見回し、その恋愛小説を持って席に付いた。
そして、1ページずつめくっていく。
(…良いなぁー、こんな青春出来るなんて…)
小説を読みながら、自分に出来ない恋愛をしている主人公が羨ましく思えてくる。それと同時に一つの疑問が生まれた。
(私何で、恋愛小説なんか読みたいって思ったんだろう?)
読むだけで自分の心がえぐられるだけなのに、本当に理由がわからない。
「すみません…もう閉めなければいけないんですけど」
すると、貸出口に居た女の人に話しかけられた。結構私よりも背が高い。
「あっ、すみません、すぐに出ますね」
「…その本、借りますか?」
教室に戻ろうとしたら突然言われた為少し驚いてしまう。
「だ、大丈夫です」
「そうですか…わかりました。では元の場所に戻しておきますので、それをこちらに」
「ありがとうございます」
持っていた本を女の人に渡すと、すぐに教室に戻る準備をする。
椅子を元に戻し図書室を出ようとすると、女の人の声が聞こえてきた。
「毎日図書室をご利用頂き、ありがとうございます」
そう一言言われた。
教室に戻ってから、不思議な気持ちになった。
なんだって、今日はなんだかいろんな場面に出会っている。廊下で男の子とぶつかって手を差しのべてくれた事や、歳の近い人に私が図書室に来てることを覚えてくれてる事があったから正直嬉しかった。
でも、一番の心残りは今日ぶつかってしまった男の子の事だった。
(謝りもせずに逃げちゃったからやっぱり怒っているかな…)
なんだか申し訳ない気持ちで一杯になってしまう。
(今度また会ったらちゃんと謝ろう)
私はそう決意し、勉強を再開するためペンを手に取った。
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授業も終わり、皆が休憩時間をのんびり過ごしている中で、私だけ足早に教室を出た。
もしかしたらあの男の子がいるかもしれないと思い、ぶつかってしまった廊下に行ってみた。でも、運良くいるはずがない。
「…やっぱり居ないよね…」
休憩時間はまだあるけど、このまま待ってみるか、もしくは帰るか頭の中で迷ってしまう。
まず、この廊下を通ってくれるか分からないのに、ずっと待っている自分が恥ずかしく思う。
私は周りを見回してみたが、こんな人混みの中で彼を探すことが出来るのか急に不安になってくる。
(今日は来ないのかなぁ、あのとき謝っていれば、こんなに悩む必要なかったのにな…)
私は今でも変われていない。いや、自分から変わろうとしてないからかも知れない。何でも諦めてばかりで、いつの間にか人に迷惑をかけてしまう、こんな日々の繰り返し。
私は本当に馬鹿だ……
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「と、言う感じで…ってあれ?大丈夫ですか?」
「…えっ、あっ、大丈夫だ」
「本当ですか?しっかりしてくださいね」
「すまない、しかしその男の子との出会いは運命的だな」
俺は少し笑いながら言った。
「はい、本当に奇跡だと思いました、あの時彼に出会っていなかったら、私は本当に独りぼっちになっていたと思います」
千夏はそう言った。
「そうか…続き、聞かせてくれないか?」
「はい」