第一世界〜渚〜
黒く変色した皮膚、まとわりつくような殺気。
目の前にいたはずの幼なじみはほんの数秒で敵に変貌した。
「奏…、私ね…ずっと前からこうだったの」
魔力回路を起こし、魔力を回し始める。
リアもそれに気付き、戦闘態勢に入った。
「あはは、そうだよね……やっぱりこうなっちゃうよね」
力なく笑う渚。やめろ…渚はもっと明るく、太陽みたいに笑うんだ。
踏み込み、神速の打突を放つ。
が、渚はそれを難無く躱した。
「…………奏っ!頭を少し冷やして!」
リアの援護射撃。
突如、渚がリアに強烈な殺気を向ける。
俺には向けなかった殺気だ。
リアの援護に入らなければ、全力で跳ぶ。
アスファルトの地面とほぼ水平に跳んだ俺はリアの方に向かっていた渚を弾き飛ばした。
「くっ、奏……どうして邪魔するの?」
「当たり前だろ…お前に人殺しをさせられるかよ」
思わず出たこの言葉が、渚の琴線に触れてしまった。
「……あ、ははは。あははははっ!!奏ぇ、私ね?もう何人も殺してるの…リアちゃんが住んでる場所の化物って言うのも、ぜーんぶ私なの」
渚の瞳から涙が溢れる。
「今更気付いたって遅いよ。今更、ひとり殺したところで……何も変わらないっ!」
奏と渚は生まれた時から一緒だった。
同じ病院で生まれ、家も近所だ。
ずっと二人で遊んで育ってきた。
ちょうど二人共五歳の時だ。
渚の両親が事故で死んだ。渚は家で留守をしていて無事だったが、両親が乗っていた車は大破し、跡形も無かったそうだ。死体の状態も酷く、身元の判定がかなり大変だったと聞いた。
そんな時だった……男の人が現れた。
黒いローブを目深に被った男。
「憎くはないか?幸せな奴らが、幸福を当たり前だと貪る奴らが」
そう言った。憎い……?何故周りを憎む必要があるのか、当時の渚には分からなかった。
でも、次の一言が渚の心を動かした。
「君のお父さんとお母さんに会いたくないかい?」
何を言っているのか、最初は理解出来なかった。
だって、お父さんとお母さんはもう死んでしまったもの……会えるはずがない。
「そんなことはないよ。私なら、会わせてあげられる」
そう言って男は渚の額に手を当てる。
手を離すと、じんわりと熱い感覚が広がっていくのが分かった。
「これで、君は両親に会える。きっといつかね」
「私ね、三年前くらいから変な夢を見るの。人を襲って食べる夢。人を襲って、リアちゃんが住んでる館に帰って、そして人を食べるの」
それはきっと、夢ではないんだろう。
「それが夢じゃないって気付いたのはつい最近なんだけどね……だから、もう戻れないの」
そんなことは……言わないでくれ。そんな悲しそうな顔をしないでくれ。
「奏、私ね……奏に殺されたいな」