第一世界〜特異型〜
放課後、俺はリアを連れて学校を案内しようと思った。だが、あることを思い出してしまった。
今朝通った空き地での違和感と、渚から感じた違和感を。どうしても気になってしまい、俺はリアに言った。
「ごめん、どうしても行きたいところがあるから、今日は案内できないかな。明日、ちゃんと案内するよ」
リアは特に反応を見せずにじっと俺の目を見つめていた。そして、
「…ん、分かった」
それだけ言って、教室を出ていってしまった。
俺も帰る準備をして、足早に教室を出た。
橋を渡り、住宅街に入った。少し歩き、空き地の前に人だかりができていることに気づいた。さらに、救急車とパトカーまでもが来ている。一体何があったのか、思わず小走りになっていた。人込みを少し強引にくぐり抜け、空き地を見ると、
「……………何だよ、これ」
大量の血が空き地に広がっていたのだ。血の海とはこのことであるって感じだ。野次馬の中にも、あまりの光景に吐いている人までいた。俺も吐き気を堪えるので精一杯だった。すぐ後に、警察が空き地をビニールシートで隠してしまったが、あの光景は頭から離れることは無い。
「…………特異型の仕業か…」
突然、後ろからさっき別れたはずの人の声がした。
振り向くと、リアがいた。突然言われたからあまり聞き取れなかったが、今なんと言ったのだろう。この事件に関係しているであろうことだけは分かる。
ふとリアを見ると、リアはこっちを見ていた。
「…明日の、案内なんだけど。用事ができたから、行けない……………」
そう言って、歩いていってしまった。
家に帰り、すぐに布団に倒れ込んだ。朝感じた違和感。その違和感を感じた場所で殺人が起きていたこと。そして何より、そんな殺害現場と同じ違和感を、渚から感じること。考えなくてはいけないのに、恐怖で考えられない。俺は一体どうしたらいいのだろうか…
目を覚ますと、朝だった。目覚ましが鳴る少し前。
いつもより早く支度を済ませ、玄関から外に出る。今日も少し肌寒い。外の空気を吸いながら考える…
すると、後ろから声がした。
「…あれ、珍しいねこんな時間に!」
「俺だってたまには早起きするよ」
やっぱり、渚は渚だ。幼馴染みの渚だ。
俺は渚と話しながら学校へ向かった。空き地はビニールシートで隠されていて見えなかったが、違和感は感じなかった。橋を渡り、学校へ着く。いつも通りに教室に入り、席に着く。仲のいい男友達と話したりして、ホームルームの時間になった。だが、リアがまだ来ていない。高良先生が教室に入って来た。そして
「皆さんおはようございまーす。えっとですね、今日はリアさんはお休みです」
………何だろう、嫌な予感がする。昨日感じた違和感と関係している気がする。そのまま、1日授業が身につかずに、ぼーっとしていた。
昼にふと教室の窓から見える街を見た。正面には大きな川が1本流れている。川の先には俺達の住む住宅街が見える。いつもと変わらない景色。意識が遠くなって来た。どうせ今日は授業を受けても身につかないだろう。なら、このまま眠ってしまおう。
美しい金髪を一つに束ね、椅子にあぐらをかいている少女。リア・フィアベルは、黒い銃を丁寧に整備していた。昨日の夜から整備していて、気付くと朝だったため、学校に行くことを諦めたのだ。リアは、銃を整備しながら、ある少年のことを考えていた。ある少年とは、黒霧奏のことだ。彼は特異点についての知識こそ無いが、特異点が生じた際に違和感としてそれを感じている。実際、住宅街の空き地に彼は来ていた。きっと違和感の正体を確かめようとしたのだろう。リアが奏を気にかけるのには、もう一つ理由があった。リアの持つ銃は神機と呼ばれるものだ。魔弾を撃ち、敵を追尾する。この銃と同じ神機である双剣が彼に反応したのだ。
「…奏君は付いてきてくれるかな……」
そうつぶやきながら、リアは銃を眺めていた。
そしてリアは、もう一つの考えるべきことに集中した。
目を覚ますと、教室には夕日が差し込んでいた。どうやら掃除が終わっても寝ていたようだ。とゆうか、渚のヤツめ、起こしてくれたっていいじゃないか。心の中でやじを飛ばし、伸びをする。
「……………んんっ、あぁぁー」
教室には誰もいない。俺は準備を済ませ教室を出た。
いつもの道を通って家に帰ってきた。ひどく疲れている。午後はめいっぱい寝たはずなのにまだ眠い。
俺はベットに体を預け、そのまま眠ってしまった。
……………奏。
……………力を。
……………二つの刃は、君とともに。
目を覚ますと、うなされていたのだろう、汗をかいていた。だがそれよりも、とても強い違和感を近くから感じた。思わず家を飛び出して、その方向へ向かっていた。寝た時の格好のままだから、今は制服だ。違和感のする方向に向かうと、学校と住宅街の間にある川だった。橋の真ん中あたりに立って、辺りを見回すが何も無い。……………さっき見た夢は何だったんだろう。二つの刃とは、何なのだろうか。
ゾクッ!背筋に悪寒が走った、何かが来る。
橋の端を見ると、そこには人のような何かが立っていた。それはこっちを見ているような気がした。赤い光が目の場所でぼんやり光っている。本能的に、あいつは俺を狙っていると分かった。だから
「…………オーバー・ドライブ」
そう呟いた。
リアは突然現れた特異型の気配に、急いで支度をして家を飛び出した。時刻は午前2時。辺りは暗く、人が活動している様子はほとんどない。その中を、人とは思えない速度で疾走していた。リアが橋についた時、橋には黒霧奏がいた。
「…そんな、どうして?」
リアは奏が特異型に殺されてしまうことを危惧した。その焦りのせいで、奏から出るオーラに気付くのが遅れた。奏の体が淡い赤い光に包まれた。
奏のオーラに気を取られたリアは、奏に向かって特異型が襲いかかったことに気付くのが遅れた。
「…っ!危ない!」
奏の体が赤い光に包まれる。そして奏の瞳も赤い光を放ち始める。目の前の人のような何かは、俺に向かって飛びかかってきた。必殺の威力を込めて振り下ろされる拳。奏は体を少しひねり躱す。人のような何かは躱されたことでやや前のめりになった。そこに後から奏の強力な蹴りが放たれる。人のような何かは橋の上を5メートルほど転がった。だが、さしてダメージは無かったようだ。今の一連の動作で後ろを向いた形になった奏は、リアがいることに気が付いた。