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紡ぐ旋律と星見の少女  作者: わさび
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第一世界〜違和感〜

目覚ましの音で目を覚ます。

まだ少し布団の中にいたいが、学校があるのでそうもいかない。もう何回この思考を繰り返したのだろう。

人間なら誰しも1度は思うだろう。

「……………起きますか…」

何度も繰り返してきた動作。

起きて、着替えて、ご飯を食べて、学校に行く。

今日も、いつも通り学校に向かった。

家を出て、住宅街を抜け、橋を渡り、学校に着く。

だが今日は、少しおかしかった。

家を出ると、春先なのでまだ少し肌寒い。

少し歩くと住宅街の途中の空き地の前を通った時だった。

何か、違和感を感じた。

決して見落としてはいけないような、そんな気がした。だが、寝起きで少し頭が寝ぼけているのだと納得し、そのまま学校に向かった。途中で、幼馴染みに会った。これも毎朝の恒例の出来事だ。

「おっはよー!奏、どーしたの?なんか暗いよ?」

茶髪のポニーテールの元気娘。幼馴染みである水崎渚を説明すると、これで足りる。今まで、渚の元気っぷりに何度も救われてきた上、俺自身、こうゆうのは嫌いじゃない。

「何でもないよ。ちょっと寝ぼけてるだけ」

渚は、そっかと言って隣を歩いている。

住宅街を抜け、橋に来た。すると、見た事のない生徒がいた。美しい金髪を長く伸ばし、ふたつに縛った、いわゆるツインテールの少女。

スレンダーな体つき、すらっと伸びたモデルのような手足。

ひいき目に言っても、綺麗だった。

思わず見とれてしまった。

「……………いった!」

渚がほっぺを強くつねっている。後で聞いたのだが、何度も呼びかけたのだそうだ。それくらい、俺は少女に見とれていたのだ。

まぁ、その後は渚に置いていかれて遅刻ギリギリになるというちょっとしたハプニングがあった。


教室に入り窓際、後ろから2番目の席に座る。

なかなかにいい席だ。後ろは人がいないため空いているので、実質ここが1番後ろの席なのだ。

俺の前の席に座る幼馴染みポニーテールに話しかける。

「いきなり走って置いてきやがって、一緒に遅刻するっていう優しさは無いのか?」

冗談を込めて言った。

「そんな優しさはありませーん。てゆーか、奏が悪いんだからね!」

そんなやり取りをしていると、周りからいつものように冷やかしを言われる。「何だー、また夫婦喧嘩か!」そんなようなことをみんな言っている。もう慣れた。そしてこの騒ぎは、いつもと変わらずに遮られた。

そう。このやりとりはいつも俺が時間ギリギリに登校して来るため、ホームルームによって遮られるのだ。

いやぁー、我ながら時間の調節がちょうど良すぎて怖いくらいだね。

俺達の担任、高良美世はおっとりした声で話し始めた。ショートカットで、ゆるくウェーブした髪。見た目通りの声である。

「はーい、黒霧君、水崎さん仲がいいのはいいことですけどー、ホームルームがはじまりますよー」

みんなが席につき、先生が諸連絡を伝えていく。

そして、先生は言った。

「今日は転校生さんがいまーす」

クラスは一瞬の静寂に包まれた。俺はその瞬間に耳を塞いだ。そして、クラスは弾けた。女子なのか、男子なのかとか、定番なことを大声で叫んでいる。

先生はあたふたして、声を大きくして言った。

「み、みなさーん、落ち着いてくださーい!」

みんなはそれで静かになって、期待に目を輝かせている。先生の言葉で激しく喜んだのは、……………男子だった。そう、女だったのだ。それも、俺が今朝見とれていたあの少女だったのだ。

「はーい、じゃあリアさん、自己紹介をお願いできますかー?」

リア、という名前の少女はクラスを見渡し、俺の方に視線を向けて止まった。俺はまたリアに見とれていたため、見つめ合う形になった。美しい紅い瞳をこちらに向け、じっと見てくる。そのせいで、クラスの男子達からは殺気を孕んだ目を、女子からは関係を探るような目を、正面からは圧倒的な殺気を向けられている。リアはようやく口を開いた。

「…リア・フィアベルです。よろしくお願いします」

簡単な挨拶をすますと、先生が空いてる席に促した。

空いてる席、つまり、俺の後ろの席だ。

ホームルームが終わり、休み時間になった。

リアは女子生徒に囲まれ、あれこれ質問されている。

俺は男子に囲まれ、あれこれ聞き出されている。

渚は殺気を放っている。

すると女子の中で、リアを案内する人をリアに決めてもらおうという話が上がった。

リアは少し迷ってから

「…黒霧奏、私に学校を案内して」

……………なんと、よりによって俺ですか。

その前に、なんで名前を知っているんだ?

苗字はさっき先生が言っていたのが聞こえたのだろう。だが、今日俺の名前をリアの近くで呼んだ人はいないはずだ。これ以上考えても無駄な気がしてきた。

きっとさっきの女子との会話で、自分の近くの席の人の名前でも聞いたのだろう。リアの案内役、部活にも入っていないし、放課後は暇だ。それに席も近い。

案内役としてはもってこいだ。

やりますか、案内役。

「………あぁ、いいよ」

リアは少し満足そうに頷くと、すぐに視線を俺の背後にずらした。俺は怖くなった。

リアが視線をずらした先にいたのは渚。

その渚から、今朝感じた違和感を…いや、もっと大きな違和感を感じてしまったから。

どこか……殺気に似たような、そんな違和感だった。


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