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露子と新太郎  作者: 風速健二
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第2話

 萩原新太郎はわたしと露ちゃんを交互に見比べて

「あれ? 山本は妹いたっけ?」

 何とも頓珍漢なことを言っている。

「違うわよ。彼女はわたしの従姉妹。飯島露子ちゃんよ。露ちゃん、こいつはね、わたしの同級生で同じサークルの萩原新太郎。通称『新太郎』よ」

 お互いにそう紹介したのだが、その時の二人の表情は見ものだった。お互いに見つめ合って動かないのだ。なんだろう、お互いに魅せられてしまった感じなのだ。

 萩原新太郎は地方の資産家の息子で、親に買って貰ったマンションに住んでいる。背も高く、顔も甘いマスクをしている。所謂イケメンといっても良いと思う。

「は、はじめまして、山本の友人で萩原新太郎と言います」

 珍しいと思った。だって、心臓に毛が生えてるのではないかと思うぐらい、いつもポーカーフェイスの新太郎が顔を真っ赤にして、緊張している。こんなの初めて見た気がする。

「はじめまして、飯島露子と申します。麗子さんにはいつもお世話になっているんです。今日はキャンパスを見学させて欲しくてやって参りました」

 こちらも、首筋まで真っ赤にしている。新太郎といい、露ちゃんといい全くどうしてしまったのだろう? まさか……『ひと目惚れ』なのかしら……

 その後はお互いに見つめ合って、ひと言も口を利かないのはどうしたことだろう? 暫くしてやっと山本が

「あの、良かったら僕が色々と案内しましょうか? 僕は顔が広いから色々な場所にも案内出来ると思うのです」

 新太郎が女子に対して、こんなに積極的になるのは初めて見る。お金もあり容姿も良い新太郎は女子からのアプローチも多い。だが、新太郎自身は結構ストイックみたいで、殆んどの申し出を断って来たのだ。

 露ちゃんだって、もし共学の学校に通っていたら、それは凄かったのではないか? 現に今でもたまにだが、通学時に声を掛けられることは一度や二度ではないと言っていた。

「本当ですか! もし良ければお願い致します」

 輝くような笑顔で露ちゃんが言うと新太郎も

 「じゃあ、一緒に行きましょう」

 結局、わたしも一緒に付いて行くことになり、三人でキャンパスを回った。新太郎は本当に積極的で、露ちゃんも嬉しそうに応えている。いい感じだった。

 

「今日は本当にありがとうございました! とても楽しかったです」

 露ちゃんは深々と頭を下げてお礼を言っている。こんなところにも育ちの良さが出ているし、新太郎も実家に帰ればお坊ちゃんである訳だから、そんなところはソツがない。

 「いいえ、僕の方こそあなたのような美しい人とご一緒出来て嬉しかったです。出来れば、またお逢いしたいのですが……」

 きっと新太郎としては携帯の番号かメアドを交換したかったのだろうが、露ちゃんから出た言葉は新太郎の期待を裏切るものだった。

「申し訳ありません。実はわたし、携帯はまだ持っていないのです。ですから、お世話になっている叔父の家に連絡してくださるか、麗子さん経由で連絡をして戴くしかないのです」

 その時の新太郎の表情が見ものだった。信じられないという感じで、露ちゃんを見ていたが

 「それは、何か事情があるのでしょうか?」

 出会ったばかりなのに、いくら何でもそこまで込み入った事情は話せない。

「新太郎、それは露ちゃんに対して失礼なんじゃないの?」  

 そう言うと、新太郎も我に返ったみたいで

「ああ、これは……すいません。じゃあ山本に伝えれば、また逢って戴けますか?」

 それを聴いた時の露ちゃんの嬉しそうな顔を忘れることはないだろう。

「はい、もちろん。喜んで」

 その後、ファミレスで食事をしたのだが、新太郎も露ちゃんも余り食べなかった。わたしだけが、色々と食べていた。会計はお金持ちの新太郎が全て払ったので、わたしとしては昼食代が浮いて助かった次第だ。

 新太郎は、結局、飯島の家の前まで一緒に付いて来た。きっと本人に言わせれば「送って行った」ということになるのだろう。それぐらいはわたしも認めるが、それより露ちゃんが余りにも嬉しそうに話していたので、新太郎に「もういいわよ」とは言えなかったのだ。それぐらい、この日の二人は、わたしから見て普通ではなかった。

 それでも、家の前で露ちゃんと新太郎はお互いに見つめ合っている。こんな状況では、わたしだけサッサと帰る訳にはいかない。正直困ったと思っていると、家の中から飯島景子が顔を出して

 「露子さん、いつまでそこにいるの! さっさと入ってしまいなさい。あなたには色々とやらなければならない用事があるのよ」

 憎々しげに言い放ったのだ。全く何という女だろう。露ちゃんの財産を食いつぶし、それだけでは飽きたらず、女中のように使ってるなんて

「景子さん。露ちゃんだって青春を楽しむ権利があると思うのですが」

 余りの言い方にたまらずにわたしが言い返すと

「まあ、何だと思ったら色気づいたの。全くあの両親の子だよ、下品極まりないね。ほらいつまでもそこでいちゃついてるの!」

 目を吊り上げて怒る姿に新太郎は驚きのあまり何も言えず。露ちゃんは目を伏せて、

「はい、今入ります叔母さま」

 そう言って家の中に入ろうとして、新太郎の方を振り返り

「萩原さん、また誘って下さい。きっと……お待ちしています」

 それだけを言うと一礼して景子に連れられ飯島家の中に入って行った。


「何だ、あれ? あれが露子さんの叔母なのかい?」

 我に返った新太郎は、わたしに尋ねる。わたしは仕方なく、露ちゃんの身の上を正直に話した。

「許せないな……余りにも露子さんが可愛そうだ。今日、初めて逢ったばかりだけど、露子さんが正直で優しくて気持ちの素直な子なのはすぐに判ったよ。それなのに、まるで使用人を扱うかのような態度は許せないな」

 新太郎は所謂ぼんぼん育ちと言っても良い育ちなので、変な意味で人間が擦れていない。純情とも言い換えても良い気質なのだ。

「よし! 少し強引だけれども、直に露子さんと連絡を取る方法を考える。山本も協力してくれよな」

 新太郎は強い決意をしたようだ。わたしは改めて基本的なことを訊く

「新太郎、あなた露ちゃんを……」

「ああ、本気だ。生まれてこのかた、あんなに心がときめいたことはなかった。生まれて初めての経験だったよ」

 そこまで、この男がわたしの前で言うなんて、ちょっと見ものだった。

「判ったわ、わたしも乗りかかった船だし。出来る限り協力する」

「ありがとう! じゃ、早速」

「どこ行くの?」

「携帯電話を買いに行く。俺が買って契約して料金も俺が持つ。それを露子さんに持って貰って直に連絡を取れるようにするんだ」

 まさか、そこまで今日一日で決断するとは思わなかった。私を連れた新太郎は自分が契約しているキャリアの系列の店に入って行った。


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