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聖光の満月

6月13日 金曜日 午後7時36分 朝野宅


リビングには三和子、詩音、ハヤテの他に由紀、葵の二人も加わりテーブルを囲んでいた。今日の夕食は和食でご飯、みそ汁、鮭の塩焼き、ひじき煮、だし巻きだった。

全員が席に着くと詩音の号令で合掌をし、それぞれ食事を始めた。

「あー、そうそう。ちょっと聞いてほしいことがあるのよ。」

由紀が鮭の皮を丁寧にとりながら言う。

「どうしたの?」

「実はね、クラスのリュウスケっているじゃない?あのちっちゃいの。」

「うん。ちっちゃいは余計だと思うけど。」

「そのリュウスケがさ、今度の日曜日一緒に勉強しないかって誘って来たの。」

由紀は鮭の皮を皿の隅によけ骨を取り除きながら淡々と言った。

「え!?何それ?デート?いつ誘われたの?それって二人きり?」

詩音が食べるのもやめて前かがみになり由紀に食いつく。すると由紀も骨をとるのをやめ、というより取り終わっていたが、箸をおき正面の詩音の顔を見た。

「やっぱり、詩音でもそう思うよね?」

「でもは、余計だけど。」

詩音の答えを確認すると由紀はふうとため息をつきながら椅子に深く座りなおした。

「どうしよっかな。もしもね、もしもだよ、リュウスケがさ、あたしのことを好きだとか言ってさ、あたしが何も答えないうちにキスしてきて、あんなことやこんことを…」

「ないね。」

由紀の妄想を葵が三文字で断ち切る。

「ちょっと。そんなにきっぱり言わなくたっていいじゃない。」

「由紀。あなた誘われた時のこと覚えててそれ言っているの?」

葵はみそ汁をすすり少しだけ首を左へ向け由紀の方を向き言う。

「誘われたところ見てたの?葵?」

詩音がお茶碗を手にしながら言う。

「あのね、今日の物理の時間、自習だったでしょ。その時、由紀、問題集も開けないで爆睡してたの。それで、隣の席のリュウスケ君が由紀を起こして勉強しなよって言ったの。そしたら由紀、勉強しても分からないしやらないってもう一度寝ようとしたの。それでリュウスケ君仕方ないから由紀に勉強教えてたの。」

「仕方ないからじゃないでしょ。あれはあからさまにあたしへの好意でしょ。」

葵の説明に由紀は文句をつけた。

「まあ、それで授業の後、この後は日曜日にでもしようってわけ。テストは来週の水曜日から三日間だからね。」

葵は説明を終えるとご飯をかけこんだ。

「でもさ、それってあたしに好意がないとそんなことしないよね。」

由紀は嬉しそうに言う。

「さあ。相手がリュウスケだからね。彼、真面目で頭いいし。」

「大したことないわよ。いつもあたしより下だし。」

葵がボソッと言う。

「うわー。さすが学年トップは言うことが違いますねー。」

由紀は棒読みで言う。

「ね、おばさん。リュウスケはあたしに気があると思いますか?」

「さあ。あたしには何とも言えないわね。」

「ねえハヤテ。どう思う?」

先ほどから由紀は首を右へ左へ動かし、訊ねる。

「俺にはそういうのよくわからないよ。」

「ここにいる男の子はハヤテだけなんだから、何かないの?」

「そうだな。」

ハヤテは少し考え込む。

「悪いけど、俺には愛だとか恋だとかはあまりよくわからないよ。」

「もう、だらしないんだから。」

由紀は怒りながらご飯を再び食べ始めた。


「そういえば、ハヤテもう大丈夫なの?」

詩音が訊ねる。

「大丈夫って?」

何のことかわからない由紀は詩音に訊ね返す。

「昨日ハヤテ調子が悪いみたいだったから。」

詩音は昨日のハヤテの様子を説明する。

「ああ。それはもう大丈夫だよ。おじさんと話をしたら楽になった。」

「風邪か何かだったの?」

「え?ああ、まあそんなとこかな。」

ハヤテは曖昧な返事をする。

詩音はふーんというだけでそれ以上は詮索しようとしなかった。

「あ。そうだ。知ってた?今日13日の金曜日だよ。」

詩音がいたずらな笑みを浮かべ言う。

「13日の金曜日?それがどうかしたの?」

「知らないの?ハヤテ。」

由紀が驚きを口にする。

「13日の金曜日はね、不吉な日なの。」

由紀が小声でわざとらしく言う。

「どうして?」

「どうして?そんなの知らないわよ。」

由紀が丸投げした。

「昔から13という数字は不吉だと言われてきたの。それで13日の金曜日は何か起きる不吉な日として信じられているの。」

葵が由紀の代わりに説明した。

「それから、13日の金曜日には人斬りジェイソンが出るから気をつけなきゃいけないの。」

詩音が楽しそうに話す。

「ジェイソン?」

「そう。ジェイソンがチェーンソーをもって襲ってくるの。だから気を付けてね。」

「う、うん。」

ハヤテはいまいち理解できていなかったがそれでも返事をした。それからも他愛もない話をした。そして、ご飯を食べ終わると詩音、由紀、葵の三人は詩音の部屋へあがり、三和子とハヤテは片づけをした。それが終わるとハヤテも自分の部屋へ帰った。

そして、ハヤテはタンスの後ろから昨日辰郎からもらった剣を取出し、それを眺めた。



6月13日 金曜日 午後9時01分 朝野宅


「詩音ー。そろそろお風呂に入りなさーい。」

階段の下から二階へ向かって三和子は言った。

「ちょっと待ってー。先にハヤテに入ってもらってー。」

詩音は部屋から大きな声で答えた。

「ハヤテ君ー。先にお風呂に入るー?」

三和子はまたも、階段の下から問いかけた。しかし返事がない。

「ハヤテ君ー?」

もう一度三和子は問いかけてみたが、返事はなかった。不思議に思った三和子は階段を上り、ハヤテの部屋をノックした。

「ハヤテ君?」

三和子は問いかけてみたが返事がない。返事がなかったので三和子はその部屋の扉を開けた。そこにはハヤテの姿はなかった。ただ部屋の窓が開いていて、そこから吹き込んだ風がカーテンを揺らしているだけだった。

そして、梅雨真っ最中だというのにもかかわらず綺麗に晴れた空に、その窓からきれいな満月が見えていた。

ハヤテがいないことを不思議に思った三和子は詩音の部屋をノックした。

二回のノックの後、詩音の「はい。」という返事がし、三和子は部屋の扉を開けた。

「どうしたの?」

詩音の部屋では机に数学の問題集が拡げられていた。

「ハヤテ君知らない?部屋にいないんだけど。」

三和子がそういうと詩音は立ち上がり、ハヤテの部屋を確認しに行った。

「下には、いないの?」

詩音がそういうと三和子と詩音は一階を探し回った。

「ねえ。」

ふと、詩音が声を上げた。その声をたどり、三和子は玄関へ向かった。

「ハヤテが使ってる靴がないよ。」

「本当だ。」

「散歩にでも行ったのかな。」

詩音はそういうと自分の部屋に戻った。

「それじゃああなたたちからお風呂入りなさい。」

三和子は言った。

「はーい。」

詩音は背中越しに返事をし階段を上った。



6月13日 金曜日 午後9時13分 商店街


ハヤテは一人、歩いていた。腰には昨日辰郎からもらった剣がぶら下がっている。商店街にはこの時間、人の通ることは珍しかった。ハヤテもぽつぽつと人とすれ違った程度だった。

ハヤテは表情を変えず、200mほどある商店街をただ黙々と歩き続けた。そして商店街を通り抜け小さな川にかかる橋で足を止めた。川は昨日の雨の影響で水量が多かった。ハヤテはそこで空を見上げた。

空には一面、星がちりばめられており満月の明かりがハヤテを照らした。ハヤテは見上げることをやめると振り返り商店街の方を見た。

そして、ゆっくり目を閉じた。

「来たか。」

ハヤテはそうつぶやくと、左手で鞘、右手で柄の部分を握り締めた。そして、左足を後ろへ引き深く腰を沈めていった。

目を閉じたまま、その状態で数秒静止した。まるでそこだけが時間の流れが止まったような光景だった。

ハヤテが目を開けた瞬間、地をけり商店街の屋根まで飛んでいた。

そのスピードは目にもとまらぬ速さで傍から見た人がいれば、それは瞬間移動に見えただろう。

ハヤテは商店街の屋根の上で剣を抜いていた。その剣は月の光に反射して銀色に光っていた。

そしてハヤテのそのすぐ後ろには、さっきまでいなかったはずの男が立っていた。

男は日本刀を構えていた。

そして左目には縦に右目には斜めに傷がついていた。男の日本刀もまた月の光で光っていた。

「久しぶりだな。クソガキ。」

「久しぶりだね。ヒカル。」

ハヤテの背後にいたのはヒカルだった。彼らは背中を向けたまま言葉を交わした。

「俺がアンダーに来た時以来だな。あの時の俺とは全くの別物だぞ。」

「そうかもしれないね。でも、やっぱり変わってないよ。」

ハヤテは言った。

そこでようやくヒカルは自分の身に起きたことを理解した。ハヤテとヒカルがすれ違った時、ハヤテはヒカルの頬を軽く切っていたのだ。

「はん。俺が血を出したのは久しぶりだな。あの時の右目以来かな。」

「13日の金曜日、人斬りジェイソンか。」

ハヤテは呟いた。

「はぁ?」

ヒカルは振り返った。そして、ハヤテに斬りかかった。

『キィン』

金属と金属の触れ合う音がした。

「なんでもないよ。」

ヒカルが振り返ったと同時にハヤテも振り返り防御していたのだ。


「俺はお前に感謝してるんだぜ。お前が俺から光を奪ってくれたおかげで俺は見なくていいものが増えた。そして、見えなかったものが見えるようになった。」

ヒカルは刀に力を込めながら言う。

そして思い切り力を込めハヤテを押し出し少し距離をとった。

「俺は光を失って、気というものがわかるようになった。」

ヒカルは商店街の屋根を強くけり、ハヤテに向っていった。

「俺は目が見えないが見えていた時以上に周りを把握することができる。そして、お前の俺に対する殺気が俺をここまで導いたんだよ。」

ヒカルはハヤテに斬りかかりながら言った。ハヤテはそれを避けたり剣で弾いたりしてそれを防いだ。

『キィン』

ハヤテがヒカルの太刀を受け止めた。

「殺気?」

ハヤテはヒカルの言葉を繰り返した。ハヤテは力を込めヒカルを押し返し、距離をとった。

「なるほど。俺からは殺気が出ていたのか。確かに俺はヒカルが殺したいほど憎い。」

今度はハヤテからヒカルへ向かって行った。

「でも、俺はお前を殺さない。」

ハヤテはヒカルの目の前でそれを言った。ヒカルはハヤテの剣を防ぎ、それをはねのけ距離をとった。

「俺を殺さない?そんな殺気を放つやつがよく言うぜ。」

「約束したんだ。守るって。俺も。ヒカルも。」

ハヤテが言うとヒカルは笑い出した。

「そいつは傑作だな。構わないぜ。ただ、俺はお前を殺す。ちゃんと耶麻さんからの命令を受けてきてるからな。裏切り者、疾風の雷撃ハヤテを抹殺せよってな。」

「望むところだ。」

ハヤテが言うと二人は同時に商店街の屋根をけり、二人の剣と刀は空中で交わった。バランスを崩した二人は着地に失敗した。ヒカルはそのまま商店街の屋根の上に落ち、ハヤテはそこから転げ落ちてしまった。

「ぅあ!」

ハヤテは地面との衝撃を背中全体で受け止めた。すぐに体勢を立て直そうと試みたがそれより早く、商店街の屋根からヒカルが刀の刃を向けて飛び降りてきた。ハヤテはそれを体を右に一回転させることで回避した。

「さすがは、疾風の雷撃だな。動きだけはすばしっこい。」

ヒカルはアスファルトに突き刺さった刀を抜きながら言う。ハヤテが立ち上がろうとしていると、間髪入れずにヒカルの刀が飛んできた。

ハヤテは何とか防いだものの踏ん張ることができず小さな川の向こうまで吹き飛ばされた。ハヤテは向こう岸のコンクリート塀にぶつかった。そのコンクリート塀は、ハヤテがぶつかったところを中心に粉々に砕けていた。

「クソガキが。」

ヒカルはその粉々のコンクリート塀を見つめ呟いた。

「痛いよ。」

ハヤテはコンクリート塀から出たきた。


「くたばれ、クソガキ。」

ヒカルは川を飛び越えハヤテへ向かって行った。それと同時にハヤテも川を飛びヒカルへ向かった。二人は川の上で交わった。今度は両方、お互いからしての向こう岸に不時着した。

ハヤテの方が体勢を整えるのが早くヒカルへ向かって行った。そして、ヒカルもハヤテへ向かって行った。

二人は川を跨ぎ何度も何度も飛び交った。その川は小さな川といえど幅は10m以上はあった。何度かそれを繰り返し、少しづつ場所がずれていった。

そして、気づいたときには詩音たちの通っている太陽高校の手前まで来ていた。どうやらここは正面ではないらしくコンクリート塀がずっと続いていた。以前病院の屋上から見たことのあったハヤテはほんの一瞬気を取られてしまった。そこをヒカルにつかれハヤテはコンクリート塀を破り、高校内に入った。


「いったー。」

ハヤテが立ち上がるとすぐにヒカルがやってきた。

「さっきからやられてばっかりじゃねぇか。もっと来いよ。俺を楽しませてくれよ。」

ヒカルは猛攻に出た。ハヤテはそれを必死に防御し続けた。しかし、その一太刀がハヤテの左腕を捕らえた。

「ぅああ!」

ハヤテは悲鳴を上げながらもなんとかヒカルのバランスを崩した。しかし、ヒカルはバランスを崩しながらも左足でハヤテのみぞおちに蹴りを食らわせた。

ハヤテはその勢いのまま飛ばされ校舎の窓ガラスを突き破り校舎の中へ入った。

「うあ。」

その部屋はどこかのHR教室らしく、たくさんの机といすが並べられていた。ハヤテは唸りながら右手で左腕の傷を抑えた。しかし傷は深く、血がしたたり落ちていた。

ヒカルは割れた窓の穴を広げて入ってきた。

「こんなところに来て、勉強でもするのか?」

ヒカルは笑いながら言った。

「どうして、どうしてお前は、人を殺すんだ?」

ハヤテは左手に剣を握り、右手で傷を抑えたまま訊ねる。

「そんなことは簡単だ。人を殺す以外に俺の生きる意味がないからだ。」

ヒカルはゆっくりとハヤテに近づきながら言う。ハヤテは後ずさりして、その間を取ろうとする。

「人を殺すことが生きる意味?お前はそんな人間じゃなかったはずだ。」

「お前に何がわかる!クソガキ!」

「俺と初めて会った時のお前の眼は、人を殺したことのない純粋な眼だった。あの時のお前は消えゆく命に怯えていた。そうだろ!?」

「違う!」

ヒカルは目の前にあった机をけり上げた。その机は廊下側の窓を突き破った。ヒカルは丁度教室のど真ん中あたりで立ち止まった。

ハヤテは廊下側の壁まで追い込まれていた。

「アンダーに来るまでの俺は死んだ。今の俺は殺し屋四天王、光芒の芸術、ヒカルだ。」

ヒカルはそういうとハヤテめがけてまっすぐ突っ込んできた。ハヤテはヒカルが動くと同時に先ほどヒカルが割った廊下の窓から脱出をした。ヒカルの刀は教室の壁に突き刺さった。

「ちょこまかちょこまか逃げやがって。クソガキが。」

刀を抜くとヒカルはハヤテの後を追った。ハヤテは廊下の窓を突き破り、外へ逃げていた。

ハヤテは左腕を抑えながら学校の裏へまわり塀を飛び越え小さな森の中へ入っていった。ヒカルもすぐにハヤテの通った道を把握し後を追った。

森に入ってすぐヒカルはハヤテに追いついた。ヒカルは後ろからハヤテに斬りかかった。ハヤテはそれを察知し、事前に振り返りそれを防いだ。しかし、左腕に力が入らず倒れこんだ。

ヒカルは倒れこんだハヤテの上に馬乗りになった。ヒカルはハヤテの首めがけて刃を突きつけた。ハヤテは地面とのてこを利用して右手一本でそれを防いだ。

「とっととくたばれ。クソガキ。」

ヒカルは両手に力を込める。

「お前は、人を殺すべきじゃない。お前がアンダーに来る前に一体何があったんだ?その左目と関係してるのか?」

ハヤテも必死の抵抗を見せる。


「最後に教えてやろう。この左目はな、人を殺さなかったから見えなくなったんだ。」

「どういうこと?」

「ヤクザに入りたての頃、俺は人殺しの仕事を受けた。でも俺は殺さなかった。だから、報復として俺は左目を奪われた。」

ヒカルは話しながらも力を緩めなかった。ハヤテもそれに耐えていた。

「俺は、殺さなければならないんだ!それでしか生きていけなんだ!」

「違う!」

ハヤテが必死に声を絞り出した。

「お前はただ、自分を主張したかっただけだろ?俺はここにいる。ここで生きていると。誰かに認めてほしかったんだろ?だから、無理に四天王まで上り詰めて、

仲間をたくさん殺してきたんだろ?

でも、お前は間違ってるよ。人から奪って手に入れたものは儚いよ。切ないよ。虚しいよ。

お前はそれがわかっているだろ。もう、奪うのはやめなよ。奪わなくてもお前なら手に入れられるものがある。殺さなくても掴み取れるものがある。地下の世界に閉じこもってないで世界に出てきなよ。

こっちの世界には今まで知らなかったものが、知らなかった幸せが、あふれてるから。」

「クソガキが。俺の気持ちなんてお前にわかるかよ!」

「わからないよ。ヒカルはこっちの世界で生まれた人間だ。俺たちみたいにずっとアンダーにいたわけじゃない。ここの世界でヒカルに何があってどんな思いをしたかなんてわからない。でもわかることがある。今のヒカルは苦しんでいる。人を殺すことを悲しんでいる。ヒカルは人を殺すべきじゃない。」

ヒカルの持つ手が震えた。ヒカルは一瞬力を緩めた。その隙にハヤテはヒカルをはねのけた。

ヒカルはハヤテの隣に横たわった。

「俺にはな、そいつが嘘を言っているか本当のことを言っているかがわかるんだよ。お前は、本当のことしか言ってねぇ。お前は本気で俺が人を殺したくはないと思っている。お前は本気で俺がこっちの世界で暮らせると思っている。お前はただのばかなのか?」

「そうかもしれない。俺は世界のことは知らないし、ばかなんだろう。でも、ばかなりに俺は自分に正直に生きることにした。」

「自分に、正直に?」

「ああ。ヒカルも自分に正直になれよ。」

ヒカルは仰向けに寝転がり木の隙間から月を見上げた。

「俺は、俺はもう人殺しはしたくない。でも、それ以上に俺の居場所が欲しい。俺の生きていく場所が。」

ヒカルはささやくような声で言った。

「この世界には、きっと居場所があるさ。俺でも見つけられたんだ。ヒカルにだって。」

「そう、かもな。」

「そうだよ。」

ヒカルは不意に体を起こした。

「俺は今日でアンダーから抜け出す。」

ヒカルの決意をハヤテは黙って聞いた。

「そして、俺は最後の人殺しをする。」

ハヤテは耳を疑った。ハヤテは体を動かそうとしたがうまく力が入らない。血を流しすぎたのだろう。

ヒカルは刀を振り上げた。ハヤテの目からは刀と月が重なりとても美しく見えた。

「どう、して?」

ハヤテは必死にのどを震わす。

「今度は邪魔するなよ。」

そういうとヒカルは刀を振り下ろした。


「ヒカル!!!」


『ズバー』

ヒカルの振り下ろした刀は首を切り裂きあたりを血で染めた。

「どうして、なんだよ?」

ハヤテはもう一度呟いた。


そして、ヒカルは倒れた。


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