希望の光
6月23日 月曜日 午前8時3分 朝野宅
「ねえまだ?はやく。颯。」
「ちょっと待ってよ。俺は詩音と違って朝ごはんの片付けもしてたんだから。」
「ったく。颯はそんなに女子力あげてお嫁にでも行くの?」
「オヨメ?何それ?」
「いいから早く着替えて出てきてよ。」
「着替えたよ。」
颯は部屋を出た。颯は太陽高校の制服に身を包んでいた。
「あら。思ったより似合っているね。」
「え?俺のことかっこいいって?」
颯は真顔で訊ねる。
「そこまでは言ってないよね。何、話盛ってんのよ。」
颯は笑顔を見せた。
「それじゃあ、行ってくるね。お父さん。お母さん。」
「おい。詩音も颯も無理はするなよ。颯は特に。普通なら絶対安静なんだから。」
辰郎が言う。
「大丈夫だって。お父さん。俺は普通じゃないから。」
颯は無邪気に笑って見せる。
「いってきます。」
詩音と颯は勢いよく家を飛び出した。
「いってらっしゃい。気を付けるのよ。」
三和子が台所から声をかけた。
「学校かー。楽しみだな。」
「それもこれも、颯が世界を救ってくれたからね。」
「世界を救ったのは結局は詩音だよね?あの後、設定を戻して時間を戻して、ISROの言っていた人類滅亡の危機も回避してくれたんじゃないの?」
「あれはあたしたちのもう一人のお父さんとお母さんに手伝ってもらったの。あたしが時空の剣を本来の力にしたのだってお父さんとお母さんに教えてもらったんだから。」
「なるほど。そうだったのか。これで明日死ぬかもしれないなんて怯えずに済むだろうね。」
「それでも昨日、一昨日は大混乱だったよね。本当の情報が何かわからなくてみんなが怯えてたね。」
「でも、今日はまた、普通の日常に戻ったってわけか。」
「そのせいで今日から学校だよ。最悪。」
「最悪なことがあるもんか。学校に行けるんだよ学校に。」
「颯に言っても分からないよね。勉強の苦しさが。」
「勉強って楽しみだな。」
「はあ。そうそう。そういえば昨日沙耶さんに聞いたんだけどケイスケ君手術するんだって。」
「ケイスケ君の手術ってドナーが見つかったの?」
「そうじゃないんだけど。」
「じゃあアメリカまで行くの?そんな大金ないって言ってたけど。」
「お父さんの知り合いに腕の立つ心臓外科医の方がいてその人に日本で手術してもらえるんだって。」
「そうか。それなら安心だね。いつか一緒にサッカーできるといいな。」
「本当にね。」
「そういえば詩音ってシノブのこと知ってる?」
「シノブ?知らないな。」
「そうか。それならいいんだけど。」
「気になるし言ってよ。」
「シノブってのはアンダーの殺し屋だったんだけどアンダーもなくなったことだし殺しはやめて旅に出るって。世界に忍術を広めるってさ。置手紙が置いてあったんだ。」
「忍術?」
「何でも、シノブは忍者の末裔らしいからね。」
「忍者の末裔?あってみたかったな。」
「詩音は物好きだね。」
「ほっといてよ。」
二人は商店街に差し掛かった。
「そういえば今日ライブをするんだけど颯も来るよね?」
「うん。もちろん行くよ。」
「うん。じゃあ頑張らないとね。」
「応援しとくよ。」
「関係ない話だけど今日、由紀がリュウスケ君に告白するんだって。」
「へー。うまくいくといいね。」
「さあ。どうだろうね。リュウスケ君、他にも好きな子いるのかもしれないし。」
「それじゃあ、楽しみだね。」
「本当。どうなるのかな。」
詩音はいたずらな笑みを浮かべる。
みんな、それぞれ前に歩みだした。
それぞれの色は色々で時に穢れてしまうときもあるかもしれない。
でも、周りには大切な人たちがいて、護りたいものがあって、譲れないものがある。
それらがあればどんな人でもどんな時でも変われる。
美しくなれる。
今というのは膨大な虚無と虚無の間のほんのわずかな一瞬のきらめきなのかもしれない。
けれど、それだからこそ我々の命の光は儚くて愛おしいのだ。
-完-
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。
皆様のおかげで完結させることができました。
今後もより良い作品の制作の為に努力していこうと思います。
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