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*この想いを淡雪にのせて*  作者: 蓮冶
*ハツユキ*
7/10

*秘めた想いとクリスマス*

 その日は日曜日。

 木々に生い茂っていた緑の葉は赤へと変わり、やがて吹いてきた木枯らしのイタズラで飛ばされる。

 枝ばかりの殺風景な木々が、赤、青、緑などの綺麗なイルミネーションを身に纏う、待ちに待ったクリスマスイヴ。

 俺は、隣を歩く雅さんをジッと見つめることはさすがにできないから、ブラインド越しに映る姿を見た。

 背が高くてスラッとした体型。首元を開けたグレーのVネックから覗く鎖骨に色香を出した肌の上からピーコートを羽織っている広い肩。足が長いのは見ただけで十分わかるのに、スリムスラックスが余計に引き立てる。

 相変わらず雅さんはカッコいい。

 対するオレは、黒のタートルネックにグレーのジャンパージャケット。ズボンも寒いからという理由で起毛のトレーニングパンツだ。

 何も考えずに寒いという理由で着込んでしまった服で、もはやコーディネートでもなんでもなくなっている。

 せっかく好きな人と歩くのに、しかも隣にいるのが半端なくカッコいい。隣で歩くその人は、まるでモデル並みなのに、オレはこんな格好で釣り合いも何もとれたものではない。

 今更後悔しても仕方がないが、せめてもう少し隣にいる人のことを考慮して着る服を選ぶべきだったなんて思ってももう遅い。


 アンバランスなオレと雅さんに向けて放たれる道行く人々の視線が、ちくちく、ちくちく痛い。

 気になって視線を送ってくる方を見てみると、男女問わず、雅さんを目に入れ、ため息をこぼしたり、何か眩しいものを見るようにして目を細めたりしている。

 オレだって、ガラス越しじゃなくって雅さんを直接見たいんだよ!!

 なんて内心毒を吐いていると……。

 グイッ。

「へ? わわっ!!」

 ぽすん。

 突然オレの手首が後ろへ引っ張られ、音を立てて雅さんの胸の中へダイブした。

 何事かと視線を上げていくと、そこには涼やかな双眸(そうぼう)が見下ろしていた。


――え? なに?


 交わる視線に、ドクン、ドクンと心臓が早鐘を打つ。


 視線の行き場に困って前を見たその瞬間、勢いよく走る自動車が鼻先をかすめた。

 それでようやく信号が赤になっていたことを知ったんだ。

「俺が隣にいるのに、サクラくんは何を考えていたのかな?」

 雅さんはとても紳士だ。

 信号が赤で危ないからとかそういう言い回しをしない。

 オレが上の空だったことを責める。

 まるで、ヤキモチを妬いているように……。


――ダメ。これは勘違い。


 ヤキモチなんてそんなことはけっしてない。

 だって、雅さんには恋人が……好きな人がいるんだから。

 今はちょっとしたスレ違いで、オレと一緒に居るだけ。

 それだけだから……。


 それなのに、こうして腕の中に包まれていると、なんだか恋人になった気分になる。

 有り得ないのに……。


「ごめんなさい……」

 そうやっていたのは、一瞬のことだったかもしれない。

 でも、オレにとってそれは長い時間のように思えた。


 ドクン、ドクン、ドクン。


 うるさいオレの心音が、どうか雅さんに聞こえませんように。

 そう願って交わった視線を外して顔を(うつむ)ける。


 人目なんてどうでもいい。

 今だけは……なんて勝手なことを思うオレ。

 こうしている雅さんがどう思われるかとか考えない子供なオレ。

 そんな自分に嫌気がさす。

 回された腕を振り切る勇気すら持てなくて、ジッとしたままいれば、周囲から喧騒が聞こえてくる。

 ボンヤリした空間から一気に我に返った。


 信号待ちはもう終わり。


 いつまでも回した腕をそのままにしている雅さんを振り切って、オレは切ない気持ちを押し隠す。

 離れた体は寒くて寒くて、凍えそう。

 それでも大好きなその人に笑顔を向けて走り出す。


「はやく行きましょう? 展覧会すっげぇ楽しみ!!」


 ズキズキ、ズキズキ。

 痛む胸を隠して……。


 どうか、今日だけは……と神様に願いをかけて――。


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