*思い知らされて*
ガタン!!
さっき出て行った桃色のドアを開けてすぐ閉める。
スリッパに履き替えず、素足のまま廊下の突き当たりの台所にあるテーブルに片手鍋を乱暴に置いた。雅さんに渡そうとしていた鍋が虚しく音を立てて存在を強調してくる。
それを見るのも惨めで惨めで仕方ない。
鍋が早く視界から消えるようにと、台所から出て右側にある自分の部屋のドアを開けた。
「サクラ? ちゃんと雅くんにシチュー渡せた?」
オレの隣の部屋にあるテレビの前でソファに座っている母さんの言葉が最後のトドメ。
渡せるわけないじゃん。
言えるわけないじゃん。
彼女さんがいて、きっとご飯作ってくれてるだろうその光景で、シチュー作ったから食べてとか。
オレ以外の人と――彼女さんと笑い合っている雅さんの顔も今は見たくない。
「渡してない。彼女さんがご飯作ってたっ!!」
バタン!!
言ってからすぐにドアを閉めて、待ち構えているベッドに被さる。
知っていた。彼女さんがいるってこと……。
知っていた。雅さんがモテること……。
知っていた。オレは、恋愛対象にもされない立場だってこと。
知っていたハズだったのに……。
馬鹿だなオレ、勝手に想って勝手に傷ついてさ……。
ほんと、バカ。
今まで我慢していた涙と嗚咽が漏れてくる。
悲しくて悲しくて……苦しくて……。泣いたら余計に悲しくなって、また涙を流すんだ。
ピンポーン。
しばらく泣いていると、遠くからインターホンのチャイムが鳴る音が聞こえた。母さんが笑う声がやけに癪にさわる。
「さくら~」
そこへまた、癪にさわる呼び声。息子が悲しんでいるっていうのに素知らぬ顔して、ムカつく!!
涙を浮かべた目をゴシゴシ擦って悲しい気持ちをぬぐい捨てようとするのに、よけい悲しくなるもんだからどうしようもない。嗚咽を殺すためにギュッと唇を噛み締めて、ベッドから起き上がる。
その直後、こっちにやって来る足音と母さんの明るい声。
オレの部屋なのに勝手にガチャリと開く音がして、顔を向けた。