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*この想いを淡雪にのせて*  作者: 蓮冶
*コイゴコロ*
1/10

*秘めた想い*

 その人の名前は森野雅もりのみやび。四歳年上の大学生。漆黒の髪に、一重の鋭い目。涼やかな相貌をした、オレよりも頭一つ分高い背。

 見た目怖そうだけど、知ってる。長い指、大きな手は、泣き虫だったオレの頭を優しく撫でること……。


 泣き虫の理由は『中条なかじょうサクラ』という名前にある。

 それはオレの名前。今はもう、皆名前について馬鹿にすることはないし、オレもそれだけのことで泣いたりはしないけれど、幼稚園時代なんかは女みたいな名前でよくからかわれた。

 自分の名前が大嫌いで泣いていたのを覚えてる。

 泣きじゃくるオレを見た雅さんは、『サクラ』をいい名前だと言ってくれた。寒い冬を超えた後に咲く桜は、春を知らせてくれる陽だまりのような花だと――。似合っていると、よくなぐさめてくれてたっけ……。

だから少しだけ、オレの名前が誇らしく思えた。

 そんなオレの容姿はサクラという名前とちっとも合ってない。黒い髪は、雅さんほど艷やかじゃないし、目はタレ目。桜の花のように優雅でも華やかでもない。いわゆるどこにでもある顔だった。

 オレを慰めてくれる優しい手や仕草からだと思う。気がつけば、雅さんに恋心を抱いていた。ずっと小さい頃から積み重ねてきたものだから、その気持ちになかなか気づかなかった。

 恋心を知ったのは、実は最近だったりする。


 きっかけは、親父の転勤から持ち出された引越し。引越し先は、ここから車で三時間。この都会から少し離れた場所。引っ越すのがイヤでイヤで、どうしようもなかった。

 それで真っ先に思い浮かんだのが、隣に住む雅さんの顔。どうしてかと自問自答を繰り返して気がついた恋心。

 だけど、この恋心は言えない。だって、オレは雅さんと同性で、しかも、彼は彼女持ち。

 それは偶然だった。昼下がりの街中。友達とゲームセンターに向かう道際で、女の人と一緒に歩いている姿を見かけたことがある。オレの頭を撫でる時の優しい微笑みを、その人にも向けていた。


 オレよりも背の低い女性は、ショートカットで活発そうな人。長い腕に細い腕を絡ませて歩いていれば、誰だってひと目見れば恋人同士だとわかる。

 だからこの恋は絶望的。

 そう思って諦めようとすればするほど、恋心は日に日に大きく膨らんでいく。だったら……。少し、勇気を出してみようと決意した。少女趣味だと思ってしまうけど、自分にまじないをかけてみる。


 もし、今年、滅多に降らないこの街で、初雪が降ったその時、雅さんと会えたなら、告白しよう。してもきっと振られるだけ。そんなことは知っている。

 でも、このまま膨らむ想いを抱き続けても、次の街に行った時、苦しむのはわかっている。どうせ、この街にいるのもあと数カ月。桜が舞うよりも少し早い季節、中学を卒業したと同時にこの街とはおさらばするんだ。だったら、想いを告げても問題ない。きっと、雅さんも近所に住んでいたオレのことはすぐ忘れる。

 そう考えると悲しいけれど、でもそれが一番いい方法でもあると思うから……。

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