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朽名奇譚  作者: いちい
オープニング
8/205

1章 8話

 



 ◆◇◆◇◆


 #3 焼却炉の探索者



 ねえ、なんでゴミ捨てに行くのに、わざわざ遠回りするのよ。

 家庭科室の向こうがゴミ捨て場なんだから、わざわざ西校舎の方に行って中庭通らなくても、ここからなら家庭科室の前から回って行った方が早いでしょ?


 あー、そっか。

 君は転校生だから知らないんだね。

 家庭科室の脇を通る道は、誰も使わないんだ。ゴミ捨て場のある方に行く途中、焼却炉があるからね。


 焼却炉がどうかしたの?


 迷信じみた話ではあるけど、あそこはたまに出るんだよ。『焼却炉の探索者』が。

 昔、この学校にも不良生徒がいたらしくてね。授業はさぼる、備品は壊す、他校の不良と喧嘩はする、典型的不良だったって聞いてる。

 ある日、教室移動の後で戻ってくると、彼の大切な物がなくなっていた。

 怒り狂って一人一人容疑者を、まあ……簡単に言うと、しめたんだね。

 実はそれを持っていたのはある男子生徒で、落ちていたのを拾って、後で誰のものか調べて返そうと思っていたらしい。

 彼は怖くなって、それを校内のどこかに隠した。

 でも、そうしているうちに彼の番がやってきた。

 焼却炉の前に呼び出されて、臆病な彼は不良なんかと関わりたくなくて、とっさに言ったそうだ。


「焼却炉の中に捨てた」って。


 不良生徒は、彼を突き飛ばして赤々と燃える焼却炉に走って、鉄の扉を蹴り開け、中を覗き込んだ。

 怯えた男子生徒はこれ幸いと逃げようとしたけれど、その時だった。

 縦に深さのある焼却炉を覗き込んだせいで、不良生徒はバランスを崩して、上半身が中に入り込んでしまったんだ。

 男子生徒は恐怖のあまり、気絶した。

 漂う異臭に気付いた教師たちがやってきたときにはもう、不良生徒は上半身が黒焦げになって、死んでいたそうだ。


 ふーん、確かに怖いけど……。

 それのどこが『探索者』なの?

 探索してないじゃん。


 ああ、それはね。続きがあるんだ。

 しばらくしてから、校内で黒焦げの上半身をした、炭化したニンゲンのようなものを見る者が、時折現れたんだよ。

 そして、ソレに会うと必ず訊かれる。


「どこにやった?」ってね。


 それがなんだったのか、なぜそこまでして探すかは分からない。

 なぜなら、隠した本人は復学初日に、火の気なんてない普通の教室で、人体発火現象が起きて変死したから。

 遭遇したら、正しく答えられないと危害を加えられるらしい。

 ほら、そこの物陰にも、何か黒いものがのぞいているかも知れないよ?




 ◆◇◆◇◆




 どさっ、と、音がした。

 お尻に衝撃と、床の冷たさを感じる。

 喉からも圧迫感が唐突に消え失せていた。


「…………?」


 死を覚悟していた私は、おそるおそる目を開く。

 目蓋の裏の暗さに慣れた目は、なかなか朝の陽射しに慣れてくれず、なんだかちかちかする。


 給湯室の窓からの光の眩しさもあいまって、目の前に佇む彼の表情は窺えない。

 まあ仮に見えていても、黒コゲだから分からないが。


 なんとなく雰囲気で、彼は困惑しているような気がする。


「オマエ……、ハ…チガウ……」


 これは……彼の声だろうか。

 ひび割れて乾いた、ざらつく声。無理矢理乾いた笛でもふいたように、空気が漏れて、ヒュー、という音が合間に混じる。


 何が何だかさっぱりだが、これはチャンスかもしれない。

 私は崩れ落ちたまま上半身を後ろに捻り、ドアを乱暴に開くと、壁にすがるようにしてその場から逃げ出した。

 彼は追う気がないのか呆けているのか、背後から気配は感じなかった。


 足ももう限界だ。とにかくどこか平和的な場所で休みたい。


 このコンディションでは長くは走れないだろう。


 私は元来た道をたどって、東校舎へと廊下を駆ける。

 どこでもいい。手近な休めるところに……。


 私は勢いのままに、東校舎1階の、突き当たりの部屋のドアを開けて飛び込んだ。




 彼女は気付いていない。


 そこが家庭科室だということに。


 ……4番目の不思議の舞台だということに。




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