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朽名奇譚  作者: いちい
#4 黄泉の家庭科室
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学園祭前夜1



 廊下を歩いていると、何やら校舎のあちこちに紙飾りやら造花やらが飾りつけられているのに目がとまった。

 混在する、折り紙の輪っかや、色とりどりの風船にビニールテープ。

 まるで色の洪水だ。

 見ているだけで楽しくなる。

 いったい何のための飾り付けなのだろうか。しばらく記憶をほじくり返していると、ある行事を思い出した。


 考えてみれば、今月は学園祭があったはずだ。

 朽名高校では、9月に朽名祭と呼ばれる学園祭がある。

 わりと大掛かりで、有志やクラブで屋台を出したり、クラスごとに教室で出し物をしたりする。

 例年かなりの賑わいを見せており、学校の一大イベントだ。

 これはおそらく、その準備なのだろう。


 私の時は……1年の時には射的、2年の時はお化け屋敷、3年では皆面倒がっていたから、郷土の歴史の展示だった。

 というかこのトンデモ学校であえてお化け屋敷とか、今思うと思い切った選択をしたものだ。


 私がこうして廊下を一人で歩いているのにも、理由がある。

 実は今日、鶫君のところに行こうと思って家庭科室に向かったのだが、途中で引き返してきてしまったのだ。


 私の胸に引っかかっていたのは、この前鶫君が言っていたことについて。


__だけど仕方ないんだよ。だって、ボクはいつも選ばれないんだから__


 あれは、どういう意味だったのだろう。

 鶫君は優しいし、強硬にお菓子を勧めようとするのだけが欠点と言えなくもないけれど、人に嫌われるタイプでは決してない。

 それに、選ばれないというのは……。『何に』選ばれないということなのだろう。


 私には関係のないこと。そう言ってしまえばそこまでだが、なぜか無視できない。


 私は指で目頭を揉んだ。

 なにを考えているのだろう。私にすべきなのは『探すこと』。それだけなのに……。

 鶫君はその手段でしかない。

 深く踏み込むのはお門違いだ。


 それでも無視してはいけない気がする。

 意思に反して私の頭は思考を続けている。


 そこまで考えて 、軽い衝撃と共に何かが下の方から私に向かって飛んできた。


「うわっ!」


 びっくりして体が跳ねるが、反射的に飛んできたそれを受け止める。

 考え事に集中してしまっていたため気づかなかったが、もう保健室に着いており、無意識のうちに扉を開いていたようだ。

 私の胸にはアリスが納まっていた。

 さっきの衝撃は、この子がジャンプして突っ込んできた時のものだろう。


「なに、なんなの?」


「……っ、べ、別にあんたに用なんてないわ! 何様のつもり!?」


アリスは突然声を張り上げる。

私はとまどうしかできない。


「え?」


「あ、あんた明日の学園祭、一緒にいく人のあてはあるの?」


 少し驚く。

 近いとは思っていたけれど、もう明日だったとは。

 廊下があんな風になっていたのも頷ける。

 しかし、どうしようか……。

ひとまず保健室に入り、中央の机に座るとアリスをそっと机に載せる。


「相手がいないっていうなら、付き合ってあげてもいいわよ!」


 正直に言うと、誰かと回るという選択肢は考えていなかった。

 探し物をそっちのけで遊ぶというのも、罪悪感を感じる。

 でも仮に、誰か誘うとしたら、それは……。


 そこで私の頭に真っ先に浮かんだのは、鶫君の顔だった。


 鶫君とはこの前気まずい別れ方をしてしまったから、やはり気になる。

 喧嘩をしてはいないから、仲直りというほどのことではない。でも、私が抱えている気まずさを払拭するきっかけになってくれれば嬉しい。

 何より七不思議の彼と一緒なら、探し物の手掛かりが偶然見つかるかもしれない。

 彼は必要がなければ、家庭科室から出ようとしないのだ。

 普段行かないようなところで、何らかの発見があるかも。


「えっと……、鶫君を誘ってみようかな」


 気づいた時にはもう、自然と言葉が唇から滑り出ていた。


 アリスは信じられないものを目撃したかのような表情になった。


「なん……だと……」


 驚きが大きすぎたのか、口調が崩壊している。


 しばらくゾンビを目撃してしまった埴輪のような顔をしていたが、正気に戻ると走り寄って、机の上に投げ出されていた私の服の袖を、ぎゅっと握る。


「おお、神よ!」


「か、神?」


 アリスは西洋陶器人形(ビスクドール)だから、神を信じていてもおかしくない……のか?

 どちらかと言えば妖怪よりな気もするけれど。


 彼女は怒濤の勢いでまくしたてる。


「今年もアイツの無差別テロが実行されるとばかり思ってたけど、あんたが一緒に行くなら止められるかもしれない。そうじゃなくても、近くにお気に入りがいればその分他を狙う余裕は減るわよね」


「テロってどういうこと!?」


「あんたは知らないみたいだし、あたしの口からは言わないわ。後でアイツに仕返しされたらたまらないもの」


 私の手を握ったまま、アリスは言う。


「でも、そうね。アイツから貰ったものは何にも食べちゃダメよ。いいえ、飲み物も全部ダメ」


 彼女はとても真剣な目で私を見上げて、生還くらいは祈ってあげる、と締めくくった。


 生還……。

 生きて帰れるかどうかすら怪しいとは……。



 ……鶫君、ほんと君って、どうしてここまで警戒されてるの!?


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