再訪
最近じわじわとですがお気に入り登録が増えていて、この喜びを表現してみようと一話投稿してみました。
あと、3月11日に一万pv達成、です!
読んでくださった皆さん、ありがとうございます!
「うーん、うーん……」
息苦しさで目が覚める。
なんだろう。お腹の上が不自然に重い。まるで、子供でも乗っているかのような……?
「うー、むー………はっ」
そうだ、呑気に寝ている場合じゃない。
今日は家庭科室に挨拶をしに行くんだった。
一息に目を開く。
私の腹部に乗っかっているアリスと目が合った。
アリスは私が起きたのに気付き、ニヤリとする。
「いつまで寝てるのかと思ったわよ。ちゃんと18時に起こしてあげたんだから、感謝しなさい」
そう言うとふんぞりかえった。
言っていることは生意気なのに。アリスの外見が少女人形だからだろうか、こんな態度をとられても許してしまう可愛さがある。
それに彼女は18時と言ったが、午後6時は裏への切り替わりの時間。大概の怪談たちはそれまでは眠っているらしいときいた。
アリスも例外ではないだろう。
つまり彼女は自分が起きてすぐに私を起こしてくれたということになる。
小さな女の子が目をこすりながら一生懸命早起きしているのを想像すると、微笑ましい。
口では小生意気なことばかり言っても、根は優しい子なのかもしれない。
「ありがとう、アリス」
「にゃっ……!」
アリスは奇声をあげ、顔を見る間に紅潮させていく。
ごまかすように彼女は勢いよく顔を背けた。
「と、とにかく! 早く家庭科室に行きなさいよね! 途中で他の怪談にやられちゃったら容赦しないんだから!」
そうしてアリスに急かされて、私は家庭科室に向かう。
因みに裏の世界はある種の異界なので、食事の必要はない。一方睡眠は、精神の休息ということで必要らしい。
よくわからない基準だが、もはやツッコミは放棄した。私には荷が重すぎる。
1階の奥。家庭科室は、相変わらずのどかだった。
彼は窓際に立っている。私が一歩足を踏み入れると、彼は私を見て驚いたように目を見張った。
「あはは。思ったより早い再会だね」
はにかみながらそう言うと、彼は私に向かって走りだし、勢い良く抱きついてきた。
はっ、え、えっ!? なに?
いつもの私なら場を和ませるために冗談めかしたことでも言うところだが、彼の勢いの前では言葉が出ない。というかそれ以前に、痛い。抱きつく強さが強すぎて、絞まっている。
「ぐ」
「うわあ、来てくれたんだね! うれしいよ!」
天使のような笑顔を満面に浮かべ、彼はぎゅうぎゅうと腕に力を込めた。
物理的に胸が苦しい。
「や、やめ……」
抗議の声も、彼の耳にはまったく入らない様子だ。
ああ、神様仏様皐月様。彼に食べ物を貰わないようにあなたは仰いましたが、その前に私は死ぬようです。
もうダメかも。なんだか頭がぐるぐるしてきた。
「あっ、ごめんね! 大丈夫?」
綺麗なお花畑と川が見えてきたところで、抱擁が解ける。
ふらつきながら、机を兼ねた調理台に背を預けると、解放された胸いっぱいに空気が入り込んだ。
「うぅ……なんとか。いきなり何するの」
「ごめん……。こんなに早く会いに来てくれると思わなかったから、嬉しくて。ここに来てくれる人はほとんどいないんだよ。怒ってる?」
彼は悲しそうに眉尻を下げた。
怒っているかと言われれば怒っている。だが、こんな殊勝な顔をされては怒るものも怒れない。
だからやめて……!
そんな雨に濡れた仔犬みたいな目で見ないで!
後ろめたいことなんかしていないのに、目が泳いでしまう。
「お、怒ってないよ?」
ぱぁっと、一瞬で彼の顔に笑顔が戻る。
勢い余ったのか再び抱きつかれたが、今度は苦しくない程度に力が加減されている。
可哀想な気もするが、このままでは話が進まないので、彼を引き剥がし、話を切り出す。
「あのね、お願いがあるんだ」
「何?」
「私、ここには探し物をしに来たんだ。だけど、何を探してるのか忘れちゃって。探すのを手伝ってくれる人をさがしてるの」
「忘れちゃったって、もしかしてこっちに来たときの影響で?」
「え?」
彼は一般生徒だから、七不思議がどうとかこっちとあっちの学校がどうとかなんて知らないはずなのに。
『こっち』?
疑問はすぐに疑惑へと変わる。
私の目の前で、彼は天使のように微笑んだ。
「うん、いいよ。一緒に探してあげる。ボクは、仁科 鶫。鶫って呼んでね。ボクなら家庭科室にいつもいるから。そう言えば、キミの名前はなんていうの?」
ごくりと喉が唾を飲んだ。
「家庭科室に、いつもいるって……? 授業は」
「キミってやっぱり面白いこと言うね。ボクは七不思議だからそんなの出ないよ?」
鶫のふわりとした微笑みを、信じられない思いで見つめる。皐月様の挙動不審は、これが、理由か……。
多分皐月様は、鶫君のことを一般生徒だと思い込んでいた私を見て楽しんでいたんだ。
この学校にまともなイイ人がいるなんて思った私が馬鹿だった。
衝撃を経てやっと喉から捻り出せたのは、短い挨拶だけだった。
「私は、九重 秊。よろしく、ね……」
乾いた私の笑い声が、家庭科室にこだました。
皐月様、聞いてないですよー!?
九月の文化祭の話までは、あまり2章と変わりない感じになりそうです。その後の展開から本格的に分岐する見通しです。




