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朽名奇譚  作者: いちい
#2 理科準備室のホルマリン生首
68/205

END4



 





 私が朝食を並べていると、開けっ放しにしてあったドアから瑞樹が現れた。


「おはよう、瑞樹」

「おはようございます、(みのり)。今日も朝食が美味しそうですね」


 瑞樹は起き抜けでやや蒼白になっている顔を綻ばせ、テーブルについた。

 私が残りをセットし終わると、どちらからともなく朝食が始まる。


 あっという間に、月日は流れてしまった。

 あの夏の終わりから季節は巡り、5年という歳月が過ぎている。


 私はどうやら一年間留学に行っていたことになっていたらしい。家族や友人にも疑問一つ抱かれずに、私は日常に溶け込むことができた。

 ただ、以前と違うことが二つ。


 一つは、瑞樹のことだ。学校から逃げ出したは良いものの、彼には戸籍も住むところもない。どうやって暮らしていくのかという問題があったのだが、それはいらぬ心配だった。

 なぜかはわからないが、近所の人や両親はみんな、瑞樹のことを知っていた。

 それどころか、瑞樹はこの近所のアパートに暮らしていると信じ切っていたのだ。


 もちろんそんなはずはない。瑞樹はつい先日まで、学校から出ることさえできなかったのに。


 聞いた話ではどうも、世間ではこういうことになっているらしい。

 瑞樹は事故でつい最近両親を亡くして、このあたりのアパートに引っ越してきた少年で、この春から朽名高等学校の3年に編入してきた。賠償金やら保険金やらで、大学卒業くらいまでなら当面の金銭的問題はないのだと。


 そんなバカな、と思った。


 だが、事実はともかく、現実はそういうことになっている。

 半信半疑でそのアパートに行ってみると、確かに一室を瑞樹が借りていることになっていたし、部屋の引き出しに入っていた通帳を見ると、口座に噂に相当するだけのお金も入っていた。

 しかも、ありえないことに、今年に入ってから定期的に生活費を出したらしい痕跡まで残っていた。


 アパートも、家具や雑貨が運び込まれ、しかも人がつい昨日まで生活していたような痕跡がある。



 世界は、まるで最初から岩代瑞樹という人間がいたかのように変わっていた。



 何が起きているのか知るために、瑞樹の提案で戸籍を確認したのだが、あった。

 戸籍が、あったのだ。


 こちらの人間は向こうのことを見ようともしないし、何かあったとしても都合の良いように書き換えられるのだということが、頭をよぎった。


 まさか、ここまでとは思わなかった。

 補完効果なのか流した噂によるものなのか知らないが、想像以上に現実は私たちにとって都合の良いようになっていた。


 私はあれから無事に大学を卒業した。瑞樹もあそこを出た当初は高校三年生ということになっていたのだが、そのまま半年足らずの高校生活を経て、大学に入学、卒業という流れを辿り、いまや社会人だ。

 曖昧な噂に頼っているから、この生活がいつまで続くのかは、まさに神のみぞ知る状態。


 私たちは今、朽名市から離れた場所に居を定め、生活している。

 朽名とは全く関係のない生活。


 あの学校のことが気にならないと言ったら嘘になるが、それでも私たちはあそこから離れることにした。

 もしかしたら、あの学校が人を喰らうことはもうなくなっているかもしれないし、まだ犠牲者を出し続けているのかもしれない。


 一時(いっとき)だけとはいえ関係者だったものとしたら無責任だと謗られるかもしれないが、私たちはもうあそこのことは忘れて、二人で平凡な人間として生きていくことを決めたのだ。

 私たちは今、幸せだ。


 気付くと、箸を止めた瑞樹と目があった。


「どうしたんですか、そんなしまりのない顔をして」

「えっ、そんなに緩んでた!?」

「そうですよ。箸も止まっていましたし。考え事でもしていたんですか?」


 瑞樹が微笑ましいものでも見るような目をしながら尋ねた。


「うーん、まあそんなとこかな」


 私はなんとなく気恥ずかしくて、箸を置くとテレビのリモコンのスイッチを入れた。

 テレビから、控え目な音声が聞こえてくる。


『県南西部では、雨、ところにより──』


 瑞樹は追及の手を緩めず、腹黒く微笑みながら、意地悪く訊く。


「そんな態度をとるなんて、やましいことでも考えていたんですか?」

「もう、そんなんじゃないよ。ただ、その……。幸せだなっ、て」

「幸せ……」


 彼は噛みしめるようにその言葉を復唱した。


「そうですね。僕たちは、幸せになれた」


 テレビが天気予報からニュースへと移行している。

 瑞樹の笑顔を見ながら、私も幸せを噛み締めた。


『それでは次はニュースをお送りします。まず、××県の朽名市で、事件が起きました。教育の場たる学校で起きた、凄惨(せいさん)な事件。詳細は、現場、朽名高等学校から中継でお送りいたします────』







こんにちは、作者です。

ここまでお付き合いくださった皆様、ありがとうございます!いちい、感激です!!


これで瑞樹君の話は終わりとなります。

が。

この後は閑話として、ナインスファクトゲーム主催者側の話が一話。その次は、瑞樹君のIFエンド二つ(バッドエンド1、ヤンデレエンド1)を、2月24日までに出す予定です。


それが終わったら、さすがにストックや構想的な意味で苦しいので、申し訳ありませんが3月3日の更新はお休みさせて頂いて、進み具合にもよりますが、3月10日前後から次のキャラクターのルートを始めようと思います。


次のキャラクターの話となる3章も、よろしくお願いします。

あと、3月3日に更新できなくて、申し訳ありません。







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