台所裏事情-御開帳-
ぎゃあ〜!
また同じやつを二重に投稿してました!?
すいません。こっちが最新話です。
前話短かったな〜、加筆しようかな〜と思ってたら混じってたみたいです。
ほんとすいません。
あと、今回から次話まではグロ注意です。
グロ苦手な方は食事前後は控えた方が良いかもしれません。
どっち系かというと、作者の仁科君の呼び名がカニバ君だと言えば分かりやすい、かな?
ラッピングも無事に終わり、私は形や焼き色の悪いクッキーを仁科君と食べている。
仁科君はクッキーだけじゃ口がパサパサするからと紅茶を淹れてくれた。
厚意を蔑ろにするのは心が痛むが、手はつけない。
お茶くらいならと手に取りかけたところで、どこからかジャムの瓶を持ってきた彼は、
「ロシアンティーだよ」
とにこにこしながら、ジャムをティーカップに大量投下したのだ。ロシアンティーなのかジャムの紅茶解きなのか判別できなくなったところで彼は投下を止めた。
紅茶の冒涜。
あまりにも非情な行為。
「あ、あああ……」
無情。
二重の意味から、私は紅茶にも手はつけないと決めたのだった。
「どうしたの、飲まないの?」
「ダイエット中なの。ごめんね」
「あ……。忘れてた」
彼はまだ瑞樹の大嘘を信じているようだ。
純真すぎる。
彼は顔を一瞬だけ曇らせたけれど、すぐに明るい笑顔になった。
「でもいいや、キミが遊びに来るなんて久しぶりだもん。いつまでいられるの?」
「もうこれを食べたら行くつもりだよ。早くクッキーも届けたいしね」
何の気ないこの言葉が、部屋の空気を変えた。
彼の周囲に、異変が起きる。
ティーカップとラッピングされた3袋のクッキー以外何も置かれていなかった机に、一瞬にしてカラフルなお菓子が出現した。
白い真球形のキャンディーが、いくつもごろごろと机に直置きされる。
中央には大皿に盛り付けられたプチ・フール。隅にはクッキーやカップケーキ。桃色、赤、紫、緑、黄色……毒々しく不自然に鮮やか色は、自然界ではありえない。
人工物の色彩だ。
机の向かって左には、なぜか蓋を外されたティーポットが湯気を立ち上らせる。白い優美なシルエットの、陶器のポットだ。揃いのカップからも薄く湯気が上がっているのは、もう2月だからだろうか。
湯でカップを温めるのは、知識としては比較的有名だと思う。実際にやるのはマニアだけだろうが。
異変を感知してすぐに、クッキーの包みは回収し、私は椅子から跳ね上がった。
彼は天使のような笑顔で、笑う。
天の使いのように、優しい口調で。
「いつもそうなんだ。ボクが好きな人はいつもボクのこと、嫌い。ボクが嫌いな人ばっかり、ボクのことが好きなんだよ」
それは私に聞かせるのではなく。
独白のようで。
彼の微笑みが、崩れる。
「ねえ、ボクが嫌いになっちゃったの? だから行っちゃうんだよね? どのくらい嫌い? 喋りたくないくらい? 一緒にいたくないくらい? 同じ空気を吸いたくないくらい?」
早口にまくしたてられて、彼の声は私の耳にはそこまでしか届かない。
「そんな……」
そんなことない、と言うつもりだった。
それなのに。
「そんなのじゃ足りないくらい、嫌いなんだね……」
彼の瞳を、絶望が支配した。
「一人はヤダよ。寂しいし、怖いんだ……。だから、キミが離れてしまうなら」
華やかな、笑み。
いっそ朗らかに、彼は言い切る。
「キミに嫌われたとしても、一緒にいてほしいんだ」
空気が。いや、世界が変わったと、そう錯覚する。
ここがヘンゼルとグレーテルの、魔女の窯だとしたら。
窯は薪をくべて火を燃やして、それからパンを焼くけれど。
火のついていない窯にぽんと投げ入れられて、目の前に薪が転がってきて。
「ああ、これでパンが焼ける」と、火の灯いたマッチをかざされて、そこでようやく自分がパン種なんだと気付かされるような。
そんな感覚だった。
お菓子が、起きる。
キャンディーがつるりとした光沢をそのままに、蛍光灯の光を反射して、瑞々しさを帯びる。じわりと中央に褐色の虹彩が浮き上がり、さらに真ん中に、筆で押したような小さく黒い瞳孔が生じた。
くるりと動いたそれと、目が合う。
お菓子は、クリームをどろどろした白い何かの脂肪に、チョコレートを黒みがかった赤い塊に。そして、煌びやかなフルーツは、おぞましいトッピングに取って代えられる。
ティーポットとカップの取手は、耳に。
湯気だけは変わらないのに、カップに注がれたモノの色は、ホンモノの真紅。
にょきりとカップに、マッチ棒くらいの到底重さを支えきれないはずの細い手足が生える。
5客セットのカップは、一斉に私に向かって完璧と思われる、恭しいお辞儀をした。
中の液体が机にこぼれ、水たまりを作る。5つのカップからあふれた赤い水たまりはくっついて、机の一角にごく小規模な湖を形成する。
何よりおぞましいのは、色。
毒々しい人工着色料の色と、部分的に残るお菓子の原型。
むせかえりそうになる、血と甘ったるい砂糖の臭い。
彼は色とりどりの『お菓子』に埋め尽くされたテーブルの向こうで、微笑んでいる。
足が震える。
こちらに来てから、怖いと感じることは何度もあった。
けれどそれは、『私』じゃなくて、不特定多数を狙ったもの。あるいは、そうじゃないときは、いつも瑞樹がいた。
初めて、真の意味で、私は七不思議に相対したのだ。
変化を見届けてからの私の行動は、素早かったと思う。
狂った饗宴の舞台となったテーブルと彼に背を向けて、出口に手を掛ける。
「な、なんで……!?」
竈の蓋は、閉じられた。




