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朽名奇譚  作者: いちい
#2 理科準備室のホルマリン生首
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アカシックレコード3

今日はもう一話、『夢か現か』を割り込み投稿しました。

先にそちらを読んでくださると、話がしっくりすると作者的には思います。



 




 管理人は本棚の森を、迷いなく泳いでいく。

 最終的に、私はまたさっき瑞樹の本を見つけた棚に戻ってきてしまった。


 管理人は黒革表紙の大判本のうち一冊を、身を傾けて指し、どこかに飛び去った。


 本のタイトルは……確かに私の名前。

 九重秊(ここのえみのり)となっている。


 私のレコードが七不思議と同列にある……?

 偶然なのだろうか。

 いや、何か変だ。


 私はただ何かを探すためにここに来て、七不思議たちとは偶然遭遇しただけのはずなのに。


 並んでいる本の背を確認すると、知っている名前は、岩代瑞樹、二科鶫、皐月の3つだけ。

 いずれも七不思議のものだ。

 三分の一以上が七不思議ということは、他の名前も七不思議のものなのだろう。


 警戒しつつ、自分の本を手にとって開く。

 黒皮のしっとりとした感触が、手に馴染む。


 真白いページを一枚一枚めくっていく。

 始めは私の入学した日からだった。

 私はここにいるのに、頭のなかではあの日の匂いも景色も、音さえもが再現される。

 広い校庭を舞う桜吹雪。

 しわ一つない、下ろしたての制服を着た同級生が、不安げに校内を彷徨っている。

 頬を撫でる、優しい春風。


 私は目を閉じて少しの間だけ懐かしさに浸ると、ページを進めて去年の夏を探した。

 文字での描写は分量が多く、まともに読んだら途中で挫けてしまいそうなほど。

 ページをまとめて摘み、どんどんページを捲っていく。

 断片的に、過去の思い出がスナップ写真を見るようにちらつく。

 映像として見るならこれくらいの情報量がいるのかもしれないけれど、これを読むのは勘弁だなあ……。


 ピタリと、指先を止めた。

 ちょうど去年の夏の場面だ。

 けれど、目当ての情報があったはずのページは、どういうわけか真っ白だ。

 白紙のページが、5ページほど続いている。


 信じられない思いで、前後のページを見返す。

 例年なら陸上部の部活で、夏休みも日曜日以外は登校していたのだが、去年は受験があったから家と図書館通いだった。

 この前出くわした岡崎先生の話や、あの変な夢らしきもの、さらにかろうじて失わずに済んだ記憶を総合すると、探し物を失くしたのは去年の朽名祭で間違いない。


 なのに白紙の前のページには、終業式。

 後ろのページには始業式の描写しかない。


 よく思い出すと、管理人はこれはこの学校のアカシックレコードだと言っていた気がする。


 あの日の出来事は、ページはあるのに白い。

 あの日、学校に来たことは間違いないのだからページがあるのは当然と言えばそれまでだ。

 だが、なぜここだけ白紙になってしまっているのだろう。

 まさか。


 ……誰かが、消した……?


 私は首を振って、馬鹿げた考えを飛ばそうとした。

 そんな必要、誰にあるというのか。


 半ばやけっぱちになって、右手で本を支えると、左手で読んでいたところから先のページを摘み、ぱらぱらとめくった。


 そう、他に変なところなんて、なんに、も……。

 …………。

 あった。

 最後の方に、数ページの白紙があった。


 時々そういう本もあるし、版元なんかが乗っているだけで残りが白紙なのかもしれない。

 そう自分に言い聞かせる。


 この本には表紙にさえ、タイトルだけしか書いていなかったというのに。


 ある種の予感から震える指で、苦労しながら一枚、白紙を捲る。

 手がかりが残っているかもしれないという期待ではない。

 むしろ、開いてはいけないような……。


 どさっ、と。

 図書室に似つかわしくない音が響いた。


 一拍遅れてやっと、私が本を取り落としてしまったのだと気づく。

 音を聞きつけたのか、空を切って管理人が文字通り飛んでくるが、私は1歩、2歩と本から後ずさって、踵を返し図書室から逃げ出した。


 図書室の扉を閉める余裕もない。


 廊下を走る。

 どこに向かうわけでもなく、蛍光灯と月明かりを頼りに、私はただ足を動かし続ける。


 頭の中で、さっきの本に書いてあった文字がぐるぐる回る。

 私の思考も、堂々巡りする。


 白紙のページの1ページ次にはきちんと、こう文章が書かれていた。


『契約書


 私は、ゲーム"ナインス・ファクト"に参加することを誓います。

 ルールは以下の通り。


 1、プレイヤーは、報酬として願いを叶える機会が与えられる。

 2、プレイヤーは、メインサポートキャラクター7名からヒントを集め、9つ目の真実に辿り着かねばならない。

 3、プレイヤーは、願いの内容を記憶から消去される。

 4、プレイヤーのゲームクリア条件は、9つ目の真実の発見とする。

 クリアされるまで、この平行世界はループする。

 但し、願いを叶えた場合のプレイヤーはループを外れ、分岐した平行世界へと進む。


 私は以上の契約に同意します。』


 契約書の最後には、私のサインがあった。

 紛れもない、私自身の筆跡で。


 ここに私がいるのは、探し物をするため。

 じゃあ、私の願いって……。


「探し物を見つけること?」


 ……本当、に?


 足元だけを見て走っていた私は顔を上げる。

 ここは、理科準備室前だ。


 意識したわけではないのに、気付くと足はここに向かっていた。


 私があんな契約までして、何を取り戻したかったのか。分からない。

 そもそもサインした記憶もないのだから。

 でも、あの筆跡は間違いなく私のものだった。


 もう何も分からない。

 失くした記憶を求めて、頭が痛む。

 あれは本当に、私が署名したの?

 私がそこまでした願いってなんだったの?


 ぐるぐると、頭の中が問いかけで攪拌(かくはん)される。


 どうしてだか、瑞樹の顔が見たくなった。

 私は、理科準備室の扉に手をかけた。






次はまた来週の月曜日になる予定です。

というか基本、月曜夕方投稿が良いかなと思ってます。

週一だと作者にはちょうど良いペースなので。

もし余裕があれば、追加でそれ以外の日に投稿する可能性もありです。




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