アカシックレコード2
一週間おきの更新だと、けっこう感覚的には長いですね……。
そんなわけで、お久しぶりです。
白衣の女性が瑞樹を陶然と抱きしめているシーンに、何だか胸の奥から苛立ちがこみ上げてくる。
「瑞樹!」
様子がおかしい瑞樹に声をかけてみたけれど、反応はない。……無視するなんて良い度胸だ。むかつきは頂点に達し、私は心を決めた。
直にホルマリン瓶をシェイクしてやろうと、手を伸ばす。だが、私の手は瑞樹をすり抜けてしまった。
まるで、本の中に読者が干渉できないかのように。
私が表の人間に触れないのにも似ているが、瑞樹は今の私と同じ裏側の存在のはずだ。
私がこれを見る前に瑞樹の名前がタイトルの本を読んでいたから、これは何かの記憶、あるいは記録なのかもしれない。
しかしだからといって、それは私のこの衝動を抑える理由にもならない。誰も聞いていないなら、いっそこの苛立ちをぶちまけてやろう。
私は叫んだ。
「あーもー、瑞樹の馬鹿! 綺麗なお姉さんにハグされて、何様のつもり!? ……って、はへっ?」
理科準備室を見ながら低次元な野次を飛ばしていた私は、頭に衝撃を感じて力が抜ける声をあげた。
いったぁ……。
理科準備室はいつの間にか消え、目に映るのはあの出鱈目な図書館。
手には、先ほどの黒皮表紙の本をしっかりと持っていた。
衝撃はまだ、断続的に頭に続いている。
さっきの映像の苛立ちと脳細胞のダメージへの危機感を抱えた私は、文句を言いながら振り返った。
「誰なの、もう!」
私の頭と同じくらいの高度で、黒い装丁の大判な本が一冊、空中に浮かんでいる。
表紙にあたる部分が私の方を向いており黒いそこに白抜きで丸が二つとへの字型の線が一本、顔のように並んでいる。
携帯の顔文字に近い感じで、ちょっと可愛い。
本が背泳ぎをするように体勢を変え、ぺらりと内側を私に見せると、白いページに字が浮き上がった。
見やすいようにとの配慮なのか、字の大きさは大きい。
ポスターの小見出しくらいだろう。
気遣いのできる本。
そんな宣伝文句が私の脳裏をよぎった。
『それは読んじゃダメ』
本には、そう文字が浮き上がった。
慌てて手に持っていた本を元の位置に戻す。
この本がなんなのかは分からない。
けれど形状も本だし、さっきの現象がなんだったのか、この本なら答えてくれるのではないだろうか。
「あの、あれは何?」
本は『それは読んじゃダメ』を消すと、新たに『アカシックレコード』という文字を浮かび上がらせる。
耳もないのにどうやって聞いているのがとても疑問だが、もうこの手の疑問に突っ込むのは無意味だと、完璧に諦めている。ここに染まり切ってしまった私は、変な本ぐらいでは動じないのだ。
それよりも今重要なのは、この本が言った単語。
「アカシックレコード?」
『そう。アカシックレコードは、全ての記録。この図書館には、過去にこの学校で起きたことの全てが記録されている』
「さっき、瑞樹が見えたのは……」
『あの子の、過去の一部。本当は、管理人と本人以外は見られない』
「え、でも私」
『鍵が緩んでた?』
私は頷く。
本の新しいページが見えない指でめくるられているかのように開き、次の文字が綴られる。
『本人が心を許していれば、そういうこともある』
そうは言われても、私には到底、瑞樹が私に気を許しているとは思えない。
口を開けば嫌なことばかり言うし、たまに見せる優しさは、影で悪意に裏打ちされているのがほとんどだった。
『でも、あまり人の過去を覗き見るのは良くない。普通の本が読みたいなら、昼間においで』
「あー、うん」
私は図書室から出ようと思って、出入り口に足を向ける。
しかし、図書室に来たというのにこのまま何も読まずに戻るのはもったいない気もした。
近くの空中でふわふわと浮いていた本を呼び止める。
「あの、他人じゃなくて、自分のを読むなら良いかな?」
本は表紙の顔文字の横に、?マークを追加すると、中の白いページを見せて文字を浮かび上がらせる。
『問題ない。自分の記録とはいっても、近くの平行世界のことも時々混じってるから面白いかも』
平行世界?
地球以外に世界があるとでもいうのだろうか。
「平行世界ってなに?」
『こことは違う可能性の世界。IFの世界』
IFの世界……。
想像できない。
本……口ぶりから、ここの管理人で間違いないだろう、は、一度文字を消してまっさらになったページに続ける。
『この世界は、たくさんあった分岐路の先の一つに過ぎない。たとえば、今まで生きてきて、人生を左右するような選択肢があったとして。選ばれなかった選択肢を選んだ場合の世界が、別の世界として分岐する』
つまり、例えばあの夜私はここに来たけど、そうしなかった場合の私の世界があるってこと?
まだ理解が追いつかない私をよそに、管理人は、あなたのレコードはこちらだと、浮遊していってしまう。
私はよく分からないままに、管理人についていく。
……そう言えば、この管理人。
管理人というより管理本だよね?
次は来週の月曜日かなあ。
最近、自分の文章力を省みて反省し、修行してます。
ちゃんと筆力あがってれば良いんですけど。
どうでしょうね?




