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朽名奇譚  作者: いちい
#2 理科準備室のホルマリン生首
31/205

記憶の旅2


更新時間、今回は遅くなっちゃいましたけど、基本は17時ですから!





 




「なにしてるんだよ!?」


 第三者の声が聞こえたと思うとすぐ、背後から誰かが勢いよく走り寄ってきて、私の手を引いてともどもに逃げ出した。

 私はチャンスとばかりに不審人物(仮)の手を浴衣の袖から叩き落とし、手を引く人物について走り出す。


 助けてくれた恩人は誰なのかと、前を行く背中に目を向けと、広い背中が見える。

 体つきからまだ若い少年だと分かる。甚平を着ているし、そのデザインを見るに男の子だろう。


 私はそれが誰かを知っている。

 知っていたはずなのだ。


 目の前にいるのは……。

 あれ……?

 あれは……あれは……。


「うっ!?」


 頭が割れるように痛む。

 視界が大きく歪み、祭りの景色が壊れていく。

 赤い色。黒い色。地面の茶色。

 みんな境目をなくし、めちゃくちゃに混ざって入り乱れた。


 私の体の自由は戻らず、思い出せない誰かに手を引かれて、体は意志もなく走り続ける。


 私の手を引いているのは、私の手を引いている『はず』なのは……。


 頭痛は最高潮に達し、涙が流れる。


 あれは……あれは……!


 頭の隅で、焦燥のにじむソプラノの声がした。


「なによ、これ……! アタシはただ、こいつの過去を手繰っただけなのに! こんなの知らない、なんなのよ!? ……っ、過去が、見えない」





 どれぐらい時間がたったかは分からない。

 私の意識は知らぬ間にいつもの体に戻っていた。

 激し過ぎる頭痛に耐えかね、蓋のしまったピアノの上に上半身を崩している。

 ピアノの鍵盤はぬるくなっているから、少なくとも10分以上はそうしていたのだろう。

 見ていた夢の長さを思うと、やや短い。


 意識が朦朧とするなか、私はがらっ、と、扉の開く音を聞いた。


 誰かが喋っているようだが、痛みのあまり意味を認識できない。


「……なんでアンタがここにいるのよ」

「おや、僕がここにいてはいけないみたいな言い方ですね」

「ここはアタシと姉さんの領域よ。出てって!」

「嫌です。……それより、貴女は彼女の精神を壊そうとしましたね?」

「な、何よ……。良いじゃない」

「彼女を殺すのは、僕です」


 どすっ。


 何か重いものが振り下ろされる音が聞こえた。


「次はそれくらいじゃ済みませんよ? しばらくは大人しくして下さい。彼女は少なくともまだ、僕を楽しませてくれる優秀な玩具なんですから」

「ああ……アンタ、こいつに情が移ったんだ。けっこう入れ込んでるみたいじゃない?」


 劣勢らしい少女が一矢報いようとでも言うのか、挑発的な響きで言い放った。


 すると再び重い音が響いたが、今度は何か木が割れるような音も加わっていた。


 もうソプラノは聞こえない。


「…………」


 誰かは無言で私の方に歩み寄る。

 こつ、こつ、と足音が響く。


「君はどうしようもない人ですね。勝手に殺されかけるなんて」


 はぁ、とため息をつかれる。


 誰かは私を抱え上げた。


 この声は、もしかして……。

 ……そんなわけないか。

 彼には首から下がないんだから。


 私は誰かの体温を感じながら、意識を失った。





 ◆◇◆◇◆






「……い、……て……ださい。」


 ん……?


 誰かが呼んでいる。

 起きなくちゃ。


 目を開くと、そこは見慣れた理科準備室だった。

 どうやら机に突っ伏して眠っていたようだ。


「あれ……?」


 正面にいる瑞樹がため息をついた。


「はぁ。人が話している途中で寝こけるなんて、どれだけ図太い神経をしているんですか。起きて下さい」


 おかしいな、さっきまで音楽室にいたと思うんだけど。


 瑞樹が呆れている。


「間抜けな顔ですねえ。夢でも見てたんですか?」


 夢……。

 あれは夢だったのだろうか。


「ねえ、私、音楽室にいたような気がするんだけど」

「何を言っているんですか。君はずっとここで間抜け面晒して寝ていましたよ」


 あれは夢だった、のか。

 それにしてはリアルだった。


 音楽室で彼女に会いに行って、縁日に立っていて。えっと、それからナンパされて男の子とエスケープだったか。

 思い返すと脈絡がない。


 夢、だったんだよね?


「本当に?」

「……ええ、本当に」


 私が尋ねると、瑞樹は微笑んだ。


 そこまで言うなら夢だったんだろう。

 私たちは何事もなかったかのように、お決まりの実のないミーティングを始める。




 私のスカートから、黒い塗料の付いた木屑のようなものが、風に吹かれてこぼれた。






加減が難しい…。




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