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朽名奇譚  作者: いちい
オープニング
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1章 3話

 




◆◇◆◇◆


  #1 緋色の水面




  ねえ、知ってる?このガッコーって、七不思議があるんだって。


  え、どんなのかって?


 この前部活の先輩が、友達のお姉さんにきいたらしいんだけどね。

 まず一つ目は、プールの話。


 昔ここの生徒で、小柄なカワイイ子がいたらしいんだけどね、その子、ひどいカナヅチだったんだって。


 ある日、あんまりひどいから、先生がその子は巫山戯てるんだと思って、言っちゃったの。


「やる気がないなら帰れ!」って。


 そしたらその子、真に受けて、走ってでてっちゃってね。とりあえず着替えようと、シャワー浴びてから、一人で更衣室に向かったらしんだ。

 ほら、シャワー室は、更衣室とすぐ隣でぶち抜きになってるでしょ?


 でも運の悪いことに、そのときちょうど授業中だからって油断して、女子更衣室に盗撮用のカメラを設置しようと忍び込んだ変質者とバッタリはちあわせてね。


 往生際の悪い変質者は、その子を突き飛ばして逃げようとしたんだけど……。


 なんと、その子の足元は固いタイルの床で、そのまま転んで頭を打って、死んじゃったんだってさ!


 それでね。

 変質者はそのまま怖くなって逃げたの。でも間抜けなことに、回収し損ねた自分の仕掛けようとしてた監視カメラに、犯行が映っててね。

 すぐ捕まったんだって。


 うん? それのどこが怖いんだって?


 実は話はここで終わらないんだ。

 その日以来一人でプールに行くと、時々、通路っていうか廊下の部分とか、更衣室の中、あとシャワー室にもさ。ほら、排水用の溝がはじっこについてるでしょ?


 あそこからひとりでに水が溢れてきて、気がつくと水着姿の女の子が現れてね。

 すぐに逃げないと、遭遇しちゃった人は、頭を割られて殺されるんだって。


 この怪談の名前?

 あれ、言ってなかったっけ?


『緋色の水面』っていうんだって。


 理由?

 えーっと……。なんだっけ。

 ……あっ、そうだ!


 確か、死んだ女の子の頭からは血が流れ出てたんだけど、かなり出血が多くて。

 その上、排水口が故障ぎみだったらしくて、周りには血だまりが出来てたんだってさ。

 そのせいで、まるで発見された彼女は、血でできたプールで泳いできた後みたいだったから、って聞いたよ。


 だから、一人でやってきた人を、自分と同じように血のプールに沈めるんだって。


 怖くなっちゃった?

 平気平気。

 二人以上なら出ないらしいもん。


 まあでも、怖いよねー。

 あははっ。




 ◆◇◆◇◆




 少女の笑みが見えたその瞬間。

 今までで一番の寒気が私を襲った。


 幸いスク水少女(仮)に遭遇するまでに、更衣室・シャワー室・プール以外の備品置き場などは探し終えている。


 よし、回避しよう。


 私は身を翻し、一目散に駆け出す。


 これは戦略的撤退です。逃げているわけではありません。

 ……ホントダヨ?


 我が母校のプール施設はショボい。在校中は恨んだものだが、今は賞賛すらできそうだ。


 角を一つ曲がり、さらにもう一つ曲がって。

 私は外に脱出した。


 急いで距離を取る。


 よし、何とかセーフだったようだ。

 10mほど入り口から離れて、ようやく一息つく。

 靴を手に持ったままだったのを思い出し、慌ててしゃがみ込み、靴を履いた。

 再び立ち上がる。


 助かった、の…?


 安心して、その場に座り込みそうになったその時。

 不自然に、人肌くらいの温度の風が吹きぬけた。

 それにのって聞こえてくるのは、少女の甲高い含み笑い。


 ふふふふふ。うふふ。


 まさか。

 いや、でも……。


 油のきれたブリキ人形のようなぎこちなさで私が振り向くと、プールのフェンスの向こう側には、あの少女が佇んで笑っていた。

 黒いおかっぱ頭の髪が揺れている。


 彼女の手は、がっちりと緑色のフェンスを握り締めていた。

 まるで、逃がさない、と言わんばかりに。


 力をどれだけ込めているのだろうか、その手は完全に血の気がなくなった白い色をしていた。


「_______!!」


 なんとか悲鳴はこらえたが、私はもう耐えられなくなって、がむしゃらに走った。


 とにかくプールから離れたい。


 本能的に駆け込んだのは、校舎だった。


 しかし、後から思えば、校内のどこに逃げても無駄だったのだ。


 なぜプールや校舎の鍵が開いていたのか。

 考えてみればおかしなことなのだが、この時の私には、そこまで考えがまわらなかった。

 

 そして、私の姿は校舎の闇へと飲み込まれて行った。

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