学園祭前夜2
今回は短めです。
私は思い立ったが吉日と、保健室を出て理科準備室へととって帰った。
「瑞樹、いる?」
理科準備室の扉から中を恐る恐る覗くと、瑞樹はいつもの場所で目を閉じていた。
いつもここに来るとああしているが、隠し棚で瞑目しているのが、彼の日常なのだろうか。
隠し棚に近付き、生首状態の瑞樹の入った容器を揺らさないように注意して、机の上に移動させる。
瑞樹は起きてはいたらしく、すぐに目を覚ました。
「こんばんは。何か用ですか?」
にこり、と微笑まれる。
私は戦地に赴く兵士の心持ちで、口を開いた。
きゃっ、彼のことを誘うなんて、恥ずかしくてムリ〜☆なんて浮ついたものではない。
まさしく瑞樹という危険人物を連れて、学園祭なんて人の多い場所へ行く覚悟が、そこにはあった。
「……瑞樹。一緒に明日、学園祭に行ってくれない?」
「面白そうですし構いませんが……。どうして君は、これから手榴弾を持って地雷原を走り抜けるみたいに悲痛な顔をしているんですか」
「その通りだからだよ」
瑞樹を持って祭りを駆け抜ける。
そのまんまじゃないか。
危険物を持ち込むからには、安全策は私がきっちりととらねば。
内心で、鉢巻をぎゅっと締める。
そこに文字を書くとしたら、これしかないだろう。『安全第一』と。
瑞樹も思い当たるふしがあったのか、咳ばらいをする。
「それでは、明日の10時にここに来てください。準備をしておきます」
私は、無意識のうちに詰めていた息を吐いた。
面白いことを好む瑞樹なら断りはまずしないだろうと思っていたが、それでも、何で僕が君なんかに付き合わせられないといけないんですか、とか言われたら立ち直れない。
「ありがとう。でも、そんなに即決するなんてどういう風の吹き回しなの? 逆にあっさりしすぎて怪しいんだけど」
気恥ずかしさから、つい余計なことを言ってしまう。私の悪い癖だ。
瑞樹は心外だとでも言いたげな表情を浮かべた。
「ひどいですねえ。まあ、君が唐突にそんなことを言うなんて、どうせ誰かの入れ知恵か、何らかの裏でもあるんでしょう? どんな思惑が隠されているのか、ときめきます」
「そんなことでときめかないで」
「なら、ないっていうんですか、思惑」
うっ。
それを言われると痛い。
運良く情報が貰えないかなぁ、とか思ってるだけに、否定できない。
言葉に詰まった私を見て、瑞樹は陶然とする。
「君の思惑自体に思いを馳せるのも良いですが、それを達成しようとこそこそ動く君を想像すると、それだけでもう……。君のことですからどうせ、棚ぼたで情報ゲット☆とか考えているんでしょう? 僕に情報を吐かせるため、君は何をしてくれるんでしょうねぇ」
瑞樹の言いように腹が立たなかったと言えば、嘘になる。
特に、棚ぼたで情報ゲット☆のあたりで裏声を使われたところとか。
テレパシーで話してるのにわざわざ下手くそに裏声を使うとか、何事だ。
やろうと思えば私の声そっくりに念じられるだろうに、あえて下手くそに言うあたり、悪意を感じてならない。
──でも、私は探さなくちゃ……。
アレを……。
とても大事だった。
今度こそ手放さない。
「どうしました?」
瑞樹の声で、我を取り戻す。
「……ううん」
何はともあれ、彼に情報を落とす気はあるのだ。
私は何だってしてみせる。
アレを取り戻すためなら。
だから、私は思惑も想いも何もかもを覆い隠して────
「ううん。何でもないよ」
──笑った。
瑞樹は私の歪な笑みを見て、満足そうに微笑んだ。




