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朽名奇譚  作者: いちい
#2 理科準備室のホルマリン生首
24/205

学園祭前夜1

恋愛ものって難しいです…。

まだろくに恋愛させられてない…。




 





 廊下を歩いていると、何やら校舎のあちこちに紙飾りやら造花やらが飾りつけられているのに目がとまった。

 混在する折り紙の輪っかや、色とりどりの風船にビニールテープ。まるで色の洪水だ。

 見ているだけで楽しくなるが……何かイベントでもあっただろうか。


 少し考えると、すぐに思い当たる。そう言えば今月は、学園祭があったはず。

 朽名高校では、9月に学園祭がある。わりと大掛かりで、有志やクラブで屋台を出したり、クラスごとに教室で出し物をしたりする。

 例年かなりの賑わいを見せており、学校の一大イベントだ。

 これはおそらく、その準備なのだろう。


 私の時は……1年の時には射的、2年の時はお化け屋敷、3年では皆面倒がっていたから、郷土の歴史の展示だった。

 というかこのトンデモ学校であえてお化け屋敷とか、今思うと思い切った選択をしたものだ。


 私がこうして廊下を一人で歩いているのにも、理由がある。

 実は今日、瑞樹のところに行こうと思って理科準備室に向かったのだが、途中で引き返してきてしまったのだ。


 私の胸に引っかかっていたのは、この前瑞樹が言っていたことについて。


 ────七不思議とは、ただの人柱、生贄です。それ以上でも、それ以上でも、ない。


 あれは何だったのだろうか。

 あれでは私に言うというより、自分に言い聞かせているようだった。

 暗く淀んでいた瑞樹の目を思い出す。


 私には関係のないこと。そう言ってしまえばそこまでだが、なぜか無視できない。


 私は指で目頭を揉んだ。

 私はなにを考えているのだろう。私にすべきなのは『探すこと』。それだけなのに……。

 瑞樹はその手段でしかない。

 深く踏み込むのはお門違いだ。


 それでも無視してはいけない気がする。

 意思に反して私の頭は思考を続けている。


 人柱ということは、何かに対する犠牲なはずだが、いったい何の……。


 そこまで考えて 、軽い衝撃と共に何かが下の方から私に向かって飛んできた。


「うわっ!」


 びっくりして体が跳ねるが、反射的に飛んできたそれを受け止める。

 考え事に集中してしまっていたため気づかなかったが、もう保健室に着いており、無意識のうちに扉を開いていたようだ。

 私の胸にはアリスが納まっていた。

 さっきの衝撃は、この子がジャンプして突っ込んできた時のものだろう。


「何、なんなの?」

「……っ、べ、別にあんたに用なんてないわ! 何様のつもり!?」


 アリスは突然声を張り上げる。

 私は戸惑うことしかできない。


「え?」

「あ、あんた今年の学園祭、一緒にいく人のあてはあるの?」


 少し驚いた。

 近いとは思っていたけれど、もう明日だったとは。

 廊下があんな風になっていたのも頷ける。

 でも、どうしよう……。

 ひとまず保健室に入り、中央の机に座るとアリスをそっと机に載せる。


「相手がいないっていうなら、付き合ってあげてもいいわよ!」


 正直に言うと、誰かと回るという選択肢は考えていなかった。

 探し物をそっちのけで遊ぶというのも、罪悪感を感じる。

 でも仮に、誰か誘うとしたら、それは…。


 そこで私の頭に真っ先に浮かんだのは、瑞樹の顔だった。


 うまくすればこの前のことを含めて、何か情報を貰えるかもしれない。

 そこまでは無理でも、私が抱えている気まずさを払拭するきっかけになってくれれば嬉しい。

 何より七不思議の彼と一緒なら、探し物の手掛かりが偶然見つかるかもしれない。

 彼は必要がなければ、理科準備室から出ようとしないのだ。普段行かないようなところで、何らかの発見があるかも。


「えっと……瑞樹を誘ってみようかな」


 気づいた時にはもう、自然と言葉が唇から滑り出ていた。


 アリスはこの世の終わりを目撃したかのような表情になった。


「なん……だと……」


 驚きが大きすぎたのか、口調が崩壊している。

 しばらくゾンビを目撃してしまった埴輪のような顔をしていたが、正気に戻ると走り寄って、机の上に投げ出されていた私の服の袖を、ぎゅっと握る。


「あ、あいつだけはダメ! あたしと回ってとはもう言わないから、あいつとだけは絶対、ダメ!」


 過剰反応としか思えない。

 まさか瑞樹も人をとって食うわけじゃないし、そんな大袈裟な。

 というかさりげなく言っていたが、私とまわりたかったのか……。

 ……ツンデレ?


 ともかく、私の探し物に進展をもたらすかもしれない状況を、そんなことでみすみす見逃してはたまらない。確かに瑞樹のあの性格は終わっているが、利用価値は本物なのだ。


 私はなるべく誠実に見えるように、アリスに言う。


「瑞樹だって、そんなに危険人物じゃないよ。折角の機会だから、普段行かないような所で発見があるかもって思っただけだし」


 彼女は納得いかないと表情で語っていたが、最終的には、生還くらいは祈ってあげる、と言って黙認した。


 生還……。

 生きて帰れるかどうかすら怪しいとは……。


 ……瑞樹ったら、こんなに警戒されるなんて何をやらかしたんだろう。






更新ペース、暫くはまた毎日更新にできそうです。




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