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朽名奇譚  作者: いちい
#2 理科準備室のホルマリン生首
22/205

協力者

 




 私はあくる日、東階段で一人、待ち人を探していた。

 時刻は午前8時。

 夏休み中の今、ここを通るものなどほぼ皆無。

 しかし私は、事前のリサーチで今日この時間帯に対象がここを通るのを知っている。

 今日は剣道部の部活で、彼女が道場をあける当番のはずだ。


 踊り場の鏡の真横で、ひたすら待つ。

 鏡の目の前では、他の人物が通ってしまった時にも姿を見られてしまうため、体が写り込まないようにしないと。


 しばらく待つと、階下に目当ての人物の姿が現れる。

 黒く長い髪をポニーテールにした、小柄な体。背中に括っている袋は、竹刀のケースだろう。

 赤い髪留めが朝の日差しを浴びて光る。


 そっと鏡の前に移動し、彼女が近くにきた時を狙って声をあげた。


「美紗ちゃん」


 彼女……笹野 美紗は、ぎょっとして辺りを見回している。

 鏡に映る私に気づくと、こちらを向いた。


「先輩……? なんで」


 彼女は朽名様を祀る笹野神社の子である。

 お正月に神社でバイトをしたときに知り合った。


 悩んだ末、表側にも協力者が必要だという結論に達し、ここの主である朽名様にも詳しそうな彼女を選んだのだ。

 同級生は皆卒業してしまっており、頼れる人が他に思いつかなかった、というのもある。


 私がかいつまんで事情を説明すると、彼女は協力を快く認めてくれた。


「……そういうことなら。去年、祭りの日、変わったことがなかったか、調べる。で良い?」


 平坦に、彼女は言う。

 嫌々協力するとかいうことではなく、これが彼女の常態だ。


「連絡は……?」


 美沙ちゃんが続ける。


 そういえばどうしよう。

 毎朝ここにいるわけにもいかないし……。

 そうだ。


「じゃあ、何か分かったら保健室の人形に向かって、会う場所と日時を伝えてくれる? 変な頼みだとは思うけど、お願い」


 感情のうかがえない目で、彼女は頷いた。


「ビスクドールの九十九神?」


「えっ、知ってるの?」


 ビスクドールの九十九神と言えば、アリス以外いないだろう。


 美沙ちゃんは、再び無表情で頷く。


「ここじゃなくても、見える……」


 私は驚きのあまり、目を見開いた。

 美沙ちゃんはちょっと不思議なところがあるとは常々思っていたが、霊感があったとは。

 こんな目に会う前の私なら、まず信じなかっただろう。


 突然のカミングアウトに黙り込んだ私を見て、今までどうして言わなかったのかと責められると思ったのだろうか。美沙ちゃんが、親しくなければ気付けない程度に慌てて口を開いた。


「えと、……きかれなかった、から」


「あ、責めてるわけじゃないよ、驚いちゃって。とにかく、色々とありがとう」


 美沙ちゃんは、若干安心したような空気で首を横に振った。


「また……」


 美沙ちゃんは背を向けて、上階へと歩いていった。

 私は遠ざかっていく彼女の背中を見つめる。


 美紗ちゃんの態度は淡白に見えるが、口は固いし約束も守る子だ。信頼はして良い。

 まさか霊感があるとは思わなかったが、その方が好都合だ。

 あとは結果を待つだけ。


 私は保健室へと戻っていく。




 ◆◇◆◇◆





 数日後、アリスが美紗ちゃんの伝言を伝えてくれた。


 翌日、指定の時間に鏡の前の踊り場に向かうと、すでに彼女はそこで待っていた。


「ごめん、待たせちゃったね」


 美紗ちゃんは、首を横に振る。

 気にするな、ということなのだろう。


 彼女は、躊躇いがちに口を開く。


「報告。結果、(かんば)しくない。幾つか、小さな揉め事。あった、くらい。ごめんなさい」


 美紗ちゃんが、頭を下げる。

 私もこれには慌てた。

 進展がなかったのは彼女のせいではないし手助けしてくれているだけでも充分だ。


「ううん、気にしないで。……また、困ったことがあったら頼っても良い?」


 美沙ちゃんは、淡々と、だがどことなく申し訳なさげに頷く。


 そして、また、と言うと去って行った。


 この結果には少し落胆したものの、いきなり有力な手掛かりが手に入るとは思っていない。

 地道に行こう。


 これからの出方を考えながら、私もその場を後にした。






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