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朽名奇譚  作者: いちい
#2 理科準備室のホルマリン生首
21/205

校舎探検2

 




 私たちは、トイレの入口に取り残された。


 沈黙が痛い。

 何か……何か言わないと。


「えっと、花子さんを追いかけなくて良いの、太郎君」


 太郎君はようやく振り返ってこちらを向いくと、朗らかに笑った。


「ああ、いいんすよ。あいつはやけに嫉妬深くて、昔からやなことがあるとすぐああなるんで。まあ、そこも可愛いんすけど。適度に放置してから後で慰めますんで、お気になさらず。それよりあんたはそもそも誰で、何の用で? ホルマリンのダンナまで連れちゃって」


「私はこの学校に去年忘れたものを探しにきたの。でも、何を探してるのかわからなくなっちゃって……。あなた、去年の祭りの日に、何か変わったことがあったか覚えてる?」


「は? 忘れた?」


 太郎君は怪訝そうに聞き返した。

 それを見て、瑞樹は含み笑いをしながらフォローを入れる。


「彼女は表側の人間なんですよ」


 太郎君はそれで納得したようだ。


「ああ、なるほど。すいませんが、オレにはちょっと……。今度また花子の機嫌が良い時にここに来てくれれば、何か喋ってくれるかもしれないっすけど」


 花子さん?

なんでここで彼女の名前が出てくるのだろう。


 瑞樹が私の疑問を察したように、言う。


「わからないという顔ですね。この学校の花子さんは実に女性らしく、とても噂好きなんです。トイレは意外と噂話が集まるらしいですよ」


「さっきの見てたの? あんな状態で、私に話してくれると思う?」


 瑞樹はくくく、と笑った。


「さあ?」


 ……こいつに訊いた私が馬鹿だった。


 私はそれならと、太郎君に尋ねる。


「太郎君、花子さんを懐柔する方法って、何か思いつく?」


 太郎君は困ったような、同情したような表情を浮かべた。


「あぁー、そうっすね。菓子でも渡してみたらどうっすか? あいつ、甘いもん好きですから。……こんなことくらいしか教えられなくてすいません、御嬢」


 ……んん?何か変なワードが聞こえたような。


「御嬢ってなに?」


 彼は、照れ臭そうに鼻の下を指で擦った。


「だって、ダンナが連れてるんですから、ダンナのお気に入りってことっすよね? なら、御嬢じゃないですか?」


 ……意味不明だ。

 しかし、裏には裏の基準というかモノサシがあるのだろう。


「ふふん、分かってるじゃないですか」


 瑞樹が顔一面に邪悪な笑みを浮かべている。

 とりあえず彼がご満悦のようなので、良しとしよう。時には流すというスキルも必要だ。


「あっ、そろそろオレ、花子のトコに行ってこないとなんで、また」


 太郎君が軽く会釈をして、そそくさと男子トイレに入っていく。

 ……男子トイレ?


「花子さんに会うのに、なんで男子トイレ?」


「えっ? 連絡は普通パイプ越しで、デートはU字菅が定番っすよね?」


 そうそう、携帯なんてもう古いし、デートにはやっぱりあのU字管の曲がり具合が最高………なわけあるか!


 まさか裏ではそうなのかと、瑞樹とアイコンタクトすると、瑞樹は小さく首を横に振る。

 良かった。

 私はノーマルだよね。

 ……だよ、ね?


 自分の常識の揺らぎに恐怖を感じつつ太郎君と別れ、私たちはその場を後にした。




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