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朽名奇譚  作者: いちい
#2 理科準備室のホルマリン生首
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再訪

 




 なんだろう。

 眠っていると、お腹の上に不自然な重みを感じた。


「うー。…………。……ん?」


 そうだ、呑気に寝ている場合じゃない。

 今日は生首君に挨拶をしに行くんだった。


 私は目を開く。

 私の腹部に乗っかっているのは、アリスだった。


 アリスは私が起きたのに気付くと、ニヤリとする。


「いつまで寝てるのかと思ったわよ。ちゃんと18時に起こしてあげたんだから、感謝しなさい」


 そう言ってふんぞりかえった。


 少女の人形がやっていることなので、生意気な態度も可愛らしいものだ。

 それに彼女は18時と言ったが、午後6時は裏への切り替わりの時間。大概の怪談たちはそれまでは眠っているらしいときいた。

 アリスも例外ではないだろう。

 つまり彼女は自分が起きてすぐに私を起こしてくれたということになる。

 口では小生意気なことばかり言っても、根は優しい子なのかもしれない。


「ありがとう、アリス」


「にゃっ……!」


 アリスの顔は見る間に朱に染まる。

 ごまかすようにアリスが勢いよく顔を背けた。


「と、とにかく、早く理科準備室に行きなさいよね! 途中で他の怪談にやられちゃったら容赦しないんだから!」


 そうしてアリスに急かされて、私は理科準備室に向かう。


 因みに裏の世界はある種の異界なので、食事の必要はない。一方睡眠は、精神の休息ということで必要らしい。

 よくわからない基準だが、もはやツッコミは放棄した。私には荷が重すぎる。







 東校舎3階。

 幸いにも、何にも出くわさずに無事に理科準備室にたどり着くことができた。

 ドアノブをひねって、部屋に足を踏み入れる。昨日ここに来た時はすごく緊張したが、今はそうでもない。


 彼は最初にあった時と同じく、棚の奥にある隠し棚に鎮座していた。

 私はゆっくりと忍び足で棚の前まで歩み寄る。


「起きてるー? 生首君」


 本当は名前で呼びたかったのだが、改めて考えると、私は彼の名前を知らない。

 流石に『生首君』は怒るかな……?


 しばらく待っても反応がない。どうしたというのだろうか。

 近づいてよく見ると、彼は目を閉じていた。


 ……寝てるのかな?


 ……こうしていると顔は良いんだよね。

 顔だけは。


 ついいたずら心から、寝顔でも拝んでやろうと私はもっと顔を近づけ、ホルマリンの瓶に顔がくっつく直前くらいになると……。


 カッ! と、彼の目がいきなり開く。


「うわっ!?」


 私はのけぞり、驚いて後ろに一歩下がる。


 彼はやけに嬉しそうにした。


「くくくっ。妙な好奇心で他人の寝顔なんて見ようとするからそうなるんですよ。ああ、その間抜けヅラ、最高です。あと、ちゃんと聞いてましたよ。『生首君』ってなんですか、『生首君』って。僕には、岩代 瑞樹という名前があるのですが」

「ご、ごめん」

「それで、この時期にここに来るということは、僕に助力を乞うということですか?」


 やはり彼は察しが良い。

 彼を選んで良かったと、改めて実感した。


「うん。お願い!」


 私が生首君改め瑞樹に手を合わせると、彼は微笑んだ。


「嫌です」

「……えっ?」


 一瞬意味が理解できず、驚きは一拍おいてやってきた。

 っていうかここで断るの!?


「……って言ったらどうします?」


 彼は笑顔で続けた。


「まあそれは兎も角として、君はこれからどうするんですか? 何を探すのかも忘れてしまったにもかかわらず、こうしてここに来るのですから、策くらいあるんですよね?」


 ああ、黒い……黒いオーラが彼の背後に見える……。


「えっと、それはー……」


 もちろんノープランですとも。

 私には目を泳がせることしかできない。


 彼はため息をつく。


「はぁ。君には脳味噌というものがないのですか? まあ良いです。まずは、去年の祭りの日に何か変わったことがなかったかを聞いておくべきでしょう」


 確かに、闇雲に去年私がなくしたものを探すよりは確実だろう。考えてみれば、去年私が裏に入り込んだなら、そこには何かしらの理由があるはずだ。裏の住人たちの口ぶりからすると、表から人間が入り込むことは稀みたいだったし。

 ということは、私のことを覚えている者がいるかもしれない。


「それなら、私を見ても私のことを知っているような反応をしなかったから、七不思議は除外できるよね?」


 彼は頷いた。


「ええ、そうなりますね。そもそも七不思議は、基本的に自分のなわばりから出ませんから。とりあえず他の雑魚怪異がよくいる場所を案内しますので、行ってみたらどうですか?」

「案内するってことは、一緒に来てくれるの?」


 少し意外だった。

 てっきり場所だけ教えられて放り出されると思っていたのだが……。


 彼は清々しい笑みを(たた)えて肯定する。


「はい。そうしないと、君の慌てふためく顔や焦り顏が直に観察できないじゃないですか。せいぜい僕を楽しませて下さいよ」


 ……性格どころか人格からしてねじ曲がっている。

 私の顔が引きつったのは、言うまでもない。






更新ペースは以降、2、3日おきになります。

ストックがキリの良いところまで溜まったら、また毎日更新にします。





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