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朽名奇譚  作者: いちい
オープニング
18/205

決定

ルート確定しました。

投票してくださった方々、ありがとうございます。

結果は後書きにて。



 




 そして私が選んだのは────





「私は生首君のところに行きます」


「……本当にそれで良いのね?」


 皐月様が真剣な顔で念押しする。

 しかし、私の心はすでに決まっていた。

 私が強く頷くと、常盤はなんとも微妙な顔をする。


「お前……被虐趣味者か? あいつは腹黒いし、性悪(しょうわる)だぞ」


 ……短いやり取りでも、それくらいは分かりましたとも。

 確かに、もう取り返しがつかないくらいとんでもない性格だった。

 だが、私にここのことを多少なりとも教えてくれたことから、一応の援助の意思と知識があるのは事実。

 それに、首から下がないことにさえ目をつぶれば、かなり性格がねじ曲がっているだけの普通の少年だと思い込めなくもない。


 常盤がまだ渋い顔をしている一方、皐月様はなんだかニヤニヤ、嫌な感じの笑い方をしている。


「さて、それじゃあもう今日はもう早いから、あの子に挨拶するのは後にして、当面の生活拠点に案内するわね」


 皐月様は優雅な仕草で、椅子から立ち上がった。


「皐月様、そのような些事(さじ)、私が……」


 常盤がそう言うが、皐月様は(かぶり)を振る。


「いいえ、わたくしが行くわ。(たま)のお客人ですもの。それにお前に任せたら、彼女を処分しかねないでしょう?」


 皐月様が微笑むと、常盤は沈黙した。


 ……否定しないということは、そういうことなのか。

 常盤は危険人物だということが、今までのやり取りでよく分かった。

 コイツにはもう近づかないようにしよう、うん、そうしよう。

 私は固く決意する。

 この滅茶苦茶な学校には、死亡フラグが多すぎる。慎重に回避していかなければ。


 皐月様は扉の前に歩み寄り、こちらに顔を向けた。


「さあ、参りましょう。当面アナタには、保健室で過ごしてもらうわ。場所は分かっているかしら?」


 保健室の場所は……確か、1階の東だったはずだ。

 1階の構造は、逆コの字型の校舎の折り返し、ちょうど2箇所ある曲がり角の部分に階段が位置し、両端のどんづまりの最西にこの校長室、最東に家庭科室が位置する。

 校長室の隣が裁断室と事務室で、そこから角を曲がって職員室、給湯室と続く。保健室はさらに渡り廊下、というか下駄箱や掲示板のあるエントランスを挟んで向こう側だ。


 私が頷くと、皐月様は笑みを深めた。

 扉を開き、私を促す。


 私たちは連れ立って保健室に向かった。




 早朝の廊下に、私たちの足音だけが響く。

 きっとこの音も、表の人たちには聞こえないのだろう。

 私もほんの少し前まではそちら側だったのかと思うと、言いようのない懐かしさと寂しさが、じわじわとこみあげてきた。


 しばらく皐月様の背中を追いかけていると、急に彼女が立ち止まる。

 元々そう遠い距離ではないし、もう到着したのだろうか。


 視線を上げるとすぐそばの部屋には、保健室と書かれたプレートが掲げられていた。

 東校舎は比較的設備が新しいので、()りガラスがはめ込まれ、銀色の取手(とって)がついた、白い無機質な印象をしたスライド式の扉だ。


 皐月様はその扉を開くと、お邪魔するわ、と言って、中に入って行った。

 私も続いて入室し、扉を閉める。


 声を掛けたということは、誰かいるのだろうか。


 辺りをきょろきょろするも、その相手はすぐには見つからない。

 窓際にはベッドが2つ。視力検査用のボードに、目隠しの仕切り、キャスター付きの椅子が1脚、それに薬棚やチェスト……。

 ふと違和感を感じて、中央に陣取る大きな四角い机に目を向ける。


 そこの真ん中付近には、一体の少女人形が座るような姿勢で飾られていた。

 エプロンドレスを身に纏った金髪の、綺麗なビスクドール。

 丁寧に手入れはされているようだが、少し古びている。きっと外国から取り寄せたアンティークなのだろう。水色と白のエプロンドレスという、ちょっと子供っぽい服装だ。


 違和感の正体を見極めようとじっと見つめていると、人形がひとりでに動き始めた。無機物ではありえないくらいに滑らかな動きで、立ち上がる。


 唖然(あぜん)とする私をよそに、人形はヨーロッパ貴族風のお辞儀をする。


「御機嫌よう、なんて、ね」


 彼女はそう言うと、口の端を上げた。


「え……に、人形が、喋った……?」


 私は思わず声を漏らした。それを聞き、彼女は一転して不機嫌な顔になる。


「なによ、あたしが喋って何が悪いの? あたしは九十九神のアリス。歴代の持ち主が大切にしてくれたから、『世界』に命をもらったの。こう見えて、もう100年以上生きてるんだから」


 アリスと呼ばれた少女人形は拗ねてしまったらしく、そっぽを向いてしまった。

 顔を背けた拍子に、真っ直ぐな長い金髪が揺れる。


 皐月様が彼女の方に手を向けながら、紹介をしてくれた。


「さて、こちらがこの保健室に住まう人形、アリスよ。アリス、こちらの方は表からの客人。『さがしもの』をしに、わざわざやって来たそうなの。一年間、面倒を見てあげて」

「勝手にすれば? ベッドは適当に使って。どうせ表の人間は無意識に避けるから、細かいことは気にしなくても良いしね」


 そっぽを向いたまま、アリスはぶっきらぼうに言い放った。

 どうやら嫌われてしまったようだ。


 皐月様は苦笑している。


「じゃあ、わたくしはもう行くわね。夜になるまで休んで、それから彼のところに行くといいわ。おやすみなさい」

「あっ、おやすみなさい。皐月様」


 皐月様は保健室から出て行った。


 保健室には私とアリスが残されたけれど、上手くやっていくことができるのだろうか。

 ちらりとアリスを見ると、完全にこちらを無視するつもりなのか、窓の方を見ている。


「……とりあえず、寝れば?」

「あっ、うん」


 疲れていたこともあって、私は2つあるベッドのうち奥のものに横たわった。

 夕方には起きられるだろう。

 アリスのため息を聞きながら、私は夢の世界に沈んでいった。




得票数は、生首君、ウェルダン君、家庭科室の少年、音楽室の双子にそれぞれ1票ずつで綺麗に割れたので、作者がクジ引きしました。

厳正な抽選の結果、当選したのは生首君でした。


なお、作者は現在ストック切れになってしまったため、3、4日ほど更新をお休みします。

23日ごろに投稿を再開する予定です。



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