1章 17話
本日は3話投稿しました。これは3話目です。
ご注意下さい。
#5 双奏のスコア
お姉ちゃんが寝付いたのを感じ取って、アタシはピアノの中からボディの表面に移動した。
それにしても、さっきはもったいなかったなぁ。
もしお姉ちゃんが起きてなければ、廃人にしてやったのに。
そもそもアタシを差し置いてお姉ちゃんと話したり顔を合わせたりするだけで妬ましい。
「アタシはできないっていうのに……!」
力を込めて噛み締めた唇が、ぶつりと切れる。
血の味が口中に広がった。
アタシには、ピアノの内側からこっそり見守ることしかできないのに!
でも……。
嫉妬に塗れた思考から、ふと天啓が浮かぶ。
壊すのはいつだってできる。
でも目障りな人間でも、使い方次第でアタシの役に立てられるんじゃないだろうか。
そう、あの女をうまく使えば……。
アレを探させるのもできるかも。
「うん、そうしよう!」
そうと決めれば、後は行動あるのみ。
「うふふっ」
名案についつい笑みがこぼれる。
さあ、どうしてやろうか。
アタシは来るべき時に向けて、ピアノの中でシミュレーションを重ねるのだった。
#6 激迫!校長先生の知られざる趣味!?
これは……何かに記録された映像のようだ。
映っているのは校長室。
アングルからすると、校長室の隅にあった観葉植物のあたりからの隠し撮りだろうか。
中央の飴色をした机には、和装の人物がついていた。
そう、和装の青年が。
10代後半から、ともすると20代前半くらいにも見える。
無造作に流れているややくせのある白髪と黒い着物がコントラストを築く。
その容貌は中性的ではあったが、紛れもなく男性のものだった。
彼は、傍らのリーゼントに語りかける。
「常盤。侵入者があったらしいな」
「はっ。若い女性が一名、入り込んでおります。どういたしましょう」
彼はニヤリと色気たっぷりに口元を歪めた。
「放置しておけ」
「はっ……? 処分なさらないのですか?」
リーゼントは訝しさを露わにする。
「放っておいてもあの分では勝手に自滅するだろう。生きてここまでたどり着けたとしても、まあ、面白い余興くらいにはなりそうだし、な。退屈しのぎになるなら構わないさ。それに、あの娘はアレの関係者だ。オレからは手が出せない。無知とは実に恐ろしいな」
彼はどこか物憂げに言った。
「皐月様の御意のままに……」
リーゼントは沈黙する。
男は……皐月は、憂いをたたえたまま目を閉じる。
すると次の瞬間、そこからは和装の青年が消えて、巫女装束の女性が現れた。
先ほどの青年を、そのまま女性にしたような容姿をしている。
彼……いや、今は彼女が、言葉を紡ぐ。
「わたくしたちは、ただ見ているだけよ。あの子がどんなことを選んでも」
リーゼントが眼鏡をくいっと上げた。
「皐月様、なぜ変化なさったのですか?」
皐月は、楽しそうに告げた。
「だってそのほうが、気付いた時のあの娘の反応が面白そうだろう?」
男の姿だった時と同じ口調で、皮肉げな笑顔を浮かべて。
映像はそこで途切れた。
#8 幼馴染の煩悶
俺は教室に向かいながら、さっき会った幼馴染のことを考えていた。
まさか姉さんがあんなことになってるなんて、想像もしなかった。
……監視体制が不十分だったのだろうか。俺は姉さんが小さい頃からずっと姉さんだけを見ていた。
姉さんの好きなものも、姉さんの嫌いなものも、姉さんの初恋の人も、姉さんの携帯の番号も、姉さんを悪く言ったクズも、姉さんの好きな場所も、姉さんの趣味も、楽しかった思い出も、悲しかった思い出も、身の程知らずにも姉さんに告白したやつらの人数、素姓も、姉さんのことは全部知ってる。
そして、1年前の祭りの日から様子がおかしくて何か隠していたのも、当然気付いている。
その理由も何となく予想はできる。
だが正直に白状すると、そこまでアレに対する姉さんの思い入れが強いとは思わなかった。実に妬ましい。
たかだかアレの分際で、こうも姉さんに思われているなんて。
姉さんに助けが必要か尋ねたが断られた時も、本音を言うと安心した。
姉さんのためとはいえアレを探すのは癪だし、かといって誘導するにもいつ綻びが出るか気が気じゃない。
まあ姉さんは最高で至高で完璧だから、自力でも何とかできるだろう。
俺に頼ってくれたら凄く嬉しいけど。
もう勢いで押し倒したいくらいには。
……今のところは、しばらく様子見だな。
おっと、いけねえ。朝練に遅れちまう。
姉さん以外の人間はどうでも良いし興味もないが、姉さんに少しでも相応しくなりたくて運動も勉強も対人関係も完璧にしているのに、こんなところでケチがつくのはごめんだ。
一旦思考を放棄して、俺は朝練へと急いだ。
「まあ焦る必要はないさ。だって姉さんのことを一番想ってるのは、俺なんだから」
誰もいない廊下で、俺は密やかに、口元を歪めた。
あいしてるよ、ねえさん。




