1章 15話
#1 プールサイドにて
「ふう、もう行ったかな……」
あたしは一人、プールサイドのフェンスを握り締めて、少女が逃げ去っていくのを見ていた。
……被害者が増えなくて良かった。
そうそうここに来る物好きはいないから、これでひとまずは安心できる。
そろそろ戻ろうかという時、背後でごぼごぼと、こもった音がした。
「やめて」
そう命ずると、ソレはあたしに抗議するように、プールに生み出した泡を赤くした。
もう長い間こうしてプールにいるけれど、ソレをどうにかすることはあたしにはできない。
そのことに怒りや不満があるわけではない。
、少し悲しいだけ。
……。
先程少女が去って行った校舎に意識だけを向ける。
までにない新たな要素である彼女なら……もしかしたら。
「アレを見つけられるかもしれない、かな?」
そんなのはただの妄想だ。それくらいわかっている。
しかしその考えはひどく魅力的で、洗い流そうとしても私の心に蜜のように粘ついて残った。
あたしは首を左右にふるとプールに背を向けて、屋内へと戻る。
紅いプールの泡が、波間に弾けて消えた。
#2 理科準備室 隠し棚にて
僕はいつも通り、隠し棚に身……といっても首だけですが、を潜めて思索にふけっていました。
それにしても興味深い。
考え事の内容はもちろん、命知らずにも僕のもとを訪ねてきて、生きてここから出られた幸運な彼女のことです。
「わざわざ危険をおかしてこんなところにまできた挙句、目的をピンポイントで忘れるなんて。なんて間抜けで愉快なヒトなんでしょう」
思わず笑いがこぼれる。
面白そうなのであえて指摘しないでおいたので、今頃はそれを知ってますます愉快なことになっているでしょうね。
あの顔が驚愕と絶望に蹂躙されるのを直に見られないのが、残念でなりません。
「くくくくっ」
それに本人は全く気付いていないようでしたが、実は彼女が気絶した時にとどめをさそうと、最初は思っていたのです。
泳がせておいたらまた、色々とやらかしてくれそうだったのと気まぐれとで生かしておくことにしましたが、これは良いおもちゃが手に入ったものです。
永遠を過ごす身としては、退屈が何よりも厭わしい。
ほら、言うでしょう?
『退屈は猫を殺す』って。
「くくくっ、せいぜい僕を楽しませて下さいよ? でないと……」
ごとんっ!
どこかで大きな音がした。
「まあでも、あるいは彼女はあの方法を見つけてくれるかもしれませんね。……ないとは思いますが」
期待はしません。
けれど、可能性が0ではないことも事実……。
さあ、今度は彼女で何をして遊びましょうか。焦らずとも時間はありあまっています。
僕は期待に失われた胸を弾ませながら、目を閉じました。
キャラクターのルート分岐投票をやってます。
詳しくは作者の活動報告にて!




