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朽名奇譚  作者: いちい
#4 黄泉の家庭科室
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七研2

この勢いに乗って、鶫君の物語の完結まで駆け抜けます!

ルート分岐投票の方も、どうぞよろしくお願いします!




 早口に発表を終えた江口に、顧問は満足げに頷く。


「まあ、今日のところはいいだろ。ただし、江口はきちんと聞き取り調査をした上で、後日再発表だ」

「…………はい」


 項垂(うなだ)れて、しおらしい返事をする江口。彼の性格上、再発表ともなれば文句の一つも言いそうなものだが、どうやら魔王もとい顧問への恐怖の方が勝ったらしい。

 原はじっと顧問を見て、口を開いた。


「先生、師匠と呼ばせていただいても?」

「いいぜ」


 軽く承諾する顧問。

 かくしてここに、一組の師弟が誕生した。

 顧問は三人組の最後の一人に向き直った。


「最後は吉野か?」

「そうですよぅ。では、行きますねえ。

 ……5番目は、『喪奏(そうそう)のスコア』です」


 のんびりとした吉野は、打って変わって鬱々とした語りぐちで怪談を語る。


「かつて、この学校には天才ピアニストの双子がいました。彼女たちはある放課後、音楽室で練習をしていたのですが……そこで事故に遭い、死んでしまいました。それ以来、午後4時にピアノを暗譜すると、出るそうです。真っ黒なグランドピアノの譜面台に、死んだ少女の霊が。

 そうして、彼女の姿を見た演奏者を、発狂させてしまうのです。

 ……6番目の不思議は、『もう一つの校長室』。

 私がバイト先の先輩に聞いた話です。先輩のクラスに、ある女生徒がいました。彼女は校長室の清掃担当でしたが、うっかり落とし物をしてしまったことに気付きました。

 一緒に帰る約束をしていた先輩を校長室の前で待たせ、女生徒は校長室に入っていきました。

 ですが……10分、30分と待っても、先輩の友人は出てきません。落とし物を拾ってくるだけ、なのに。先輩は怪談なんか信じていなかったので、様子を見ようと校長室の扉を開きました。

 ところが校長室の中は、誰もいない。

 先輩は不安になって校舎中を探しましたが、友人はどこにもいません。からかわれでもしたのだろうと帰ると、家に友人の家族から電話がありました。友人はまだ、家に帰っていなかったのです。

 数日後、女生徒は学校の廊下で発見されました。狂ったように「リーゼントが、リーゼントが」と繰り返す彼女は、いったい失踪している間に何があったのか、今も語ろうとはしないそうです」


 真夏の極度に湿度の高い夜のような不快感。あるいは、真夜中の生ぬるい風。

 そういうものに近い空気を、彼女の語りは持っていた。

 吉野はふわりと微笑み、感想を求める。


「どうでしたかぁ?」

「ああ、よかったぜ。ただ、これで発表は終わりのようだが。七つ目はどうした?」


 三人は困ったように顔を見合わせた。

 代表して、原が言う。


「七つ目の不思議は、噂が錯綜していてよくわかりませんでした。もう一つの校長室に閉じ込められているとか、黄泉の家庭科室に引きずり込まれたとか、校舎に食われたとか色々あったので。それで、残りの六つを三人で分担しました」

「それに、知ってしまったら次の七不思議はお前だーとか言われてるんですよ!? 不気味ですって!」


 薄気味悪そうに江口も続く。

 顧問はその反応を楽しむようにニヤリと笑って言った。


「なら、お前たちに教えてやろう。七不思議研究会……通称『七研』伝統の、七つ目を」


 表情を固くする原と吉野。

 江口は「うわーこの人本気ですよ」と呟きながら頭を抱えている。


「そんなに怯えないでくれよ。これは……俺の、幼馴染の話なんだから」


 ◆◇◆◇◆



 #7 七番目のミノリ


 さて、どこから話したもんか……。

 まず、七番目の不思議の名前は『七番目のミノリ』だ。俺の幼馴染だったミノリは失踪した弟を探すために夜の校舎に忍び込んだんだが、自分自身が取り込まれて、七不思議になっちまった。自分の願いを叶えるためにな。


 今も、校舎のどこかを彷徨っているんだろう。あの夏の日と同じ、真っ白なワンピースと靴を身につけて、栗色の長い髪をなびかせてな。

 そして、ミノリに会った人間は、必ずこう訊かれる。


「こんにちは。あなたの願いは何ですか?」ってな。


 それに答えて、もしその願いがミノリと同じものだったら願いを叶えてもらえるらしい。


 あ? 八木先生は会ったことあるのか?

 言うじゃないか江口。あるぜ。言っただろ、幼馴染の話だって。

 ははは、疑っても課題くらいしか出ないぜ。


 まあ、願いは叶わなかったがな。

 俺の願い? 聞いて驚け、恋愛成就だ。

 ……お前ら今、笑ったな?

 嘘だと思うならそれでいいさ。


 どうせあいつは、最後まで……俺を選んではくれなかった。

 だがな。今になっても、わからない。俺はあの時、本当に願いを叶えてほしかったのかどうかは、な。


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