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朽名奇譚  作者: いちい
オープニング
1/205

プロローグ

初の恋愛物です。

よろしくです!

 



────はぁっ、はあっ……。


 暗闇の中、私は無我夢中で小道を走り続ける。

 8月の暑気が全身にまとわりつくようだ。

 白いワンピースが汗でぐっしょりと濡れて、不快感を感じた。


────それでも行かなくちゃ……。


 首筋に張り付いた栗色の長い髪を手で払い、私は乱れた呼吸であえぎながらも思考を紡ぐ。


 今日はこの地域でのお祭りの日。

 土地神といわれている『朽名サマ』を鎮めるためのものらしい。この辺りでは一番大規模な祭だ。


 しかし、腕時計によると、現在時刻は23時56分。

 もう深夜といえる時間になっており、祭りの喧騒もとっくに過ぎ去ってしまった。

 どこか浮かれたような空気だけが、名残としてここら一帯に満ちている。


 それすらも振り切って、私は寂しい夜道に足を踏み出し、硬いコンクリートを踏み締め走り続ける。

 行く手を、あちこちの軒先から吊られた提灯と、微かにもれる家々の明かりが仄かに照らしている。


 私はどうしても、あの場所にいかなければならない。


 そのために、両親には嘘を伝えてアリバイ工作までしたのだから。実際、友人の一人に頼み込み、私は今晩はその子のところに泊まっていることにしてもらっている。


 再び腕時計を確認する。 23時58分。


 あと2分。

 

 暗闇の中、かすかに街路灯の灯りがぼんやりと揺れているのが見えてきた。


 私は走るのをやめて、歩き出す。


 コンクリート製の路面に、自分の足音が不自然なくらい大きく響く。

 心臓が激しく鼓動する。

 ひどく喉が乾いていた。

 耳には、自分の荒い息づかいが聞こえている。


────はぁ、はぁ……。


 それはただ単に走ったせい、というだけではなく、焦り、待望も含まれている。なにせ私はこの時を、一年間ずっと待ち続けてきたのだから。


 大学に入っても、決して忘れることも、薄れることもなかったこの思い。


 23時59分。


 扉はもうすぐそこだ。


 ゆっくりと、近づいていく。


 目の前には、目的地の入り口である重厚な威圧感を放つ、古びた扉。脇にかかるプレートには、私の母校である朽名高等学校の名が刻まれている。


──きっと見つけ出してみせるから……どんな手段を使っても。


  私は門の前で立ち止まって息を整えると、腕時計を目前にかざした。


  23時59分54秒、5秒、6秒、7秒、8秒、9秒……。


 時計が正確に時を刻んでいく。


……0秒。


  ついに、時計が0時を告げた。私は校舎の方を睨みつける。


 私が去年のこの日に、ここで失った『なくしもの』。何よりも大切だったそれを、私は一年が過ぎた今、探しに行く。


  しっかりと閉まっていたはずの校門は、零時になると同時に、いつの間にか開いていた。

 だが、そんなことはここから窺い知れる異常の前では霞んでしまうだろう。

 校門を境にして敷地内の空は、真っ赤な月がぽっかりと浮かび、反対に夜空は何より黒く、奈落のような色へと染まっていた。


 今更怖気付きはしない。


 怯まず、門をくぐる。


 感慨にふけっていたせいか、腕時計を見ると、もう時間は0時1分になろうとしていた。


 校内に足を踏み入れると、後ろから耳障りな、金属の擦れる音が響く。


 音に誘われ振り返る。

 校門は、私以外には誰もいないにもかかわらず、閉まっていた。


 門の影に黒い影を見たような気がしたが、気のせいだろう。ほんの一瞬のことだったし。


 私はそれに特段何の感情も受けず、歩き出す。


 扉が勝手に閉まったくらい、これからやることへの期待の前では些細なことに思えた。私は今日まで、ずっと待ち続けてきたのだ。


──きっと見つけるから。


 その思いだけを胸に秘め、私は前に進む。


 校舎には、ぽつぽつと明かりが灯っている。事前調査によると、祭りでおかしなテンションになった生徒や酔っ払いが入れないよう、この日は数人の有志の教員が詰めているらしい。


 これから私がやろうとしていることに恐怖がないわけではない。

 ただ、それよりも大事なモノがある。それだけだ。


 私は空を仰ぐ。


 赤い月は、まるで私をあざ笑うかのような三日月だった。


 


ルート選択方式で進めたいので、全キャラ出揃ってしばらくしたら、希望を募ります。

特に希望が出なければ、作者がサイコロで決めます。


それでは、読んでくださり、ありがとうございました!



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