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後編

今回ちょこっと残酷な描写……ぬるめかもしれませんが…が入ります。

 義姉が渋々といった様子で寝室に入ったのを見届けると、目の前の教皇様は私にソファーに座るよう促した。

彼はさっさとテーブルの奥の方の一人掛けソファーに座ったので、私は斜め向かいにある三人掛け用のソファーの端に腰を下ろした。


『初めまして……って言うのもおかしいかな。覆面作家のYU-TAです。』

「……あの……」

『貴方の絵を見て直観しました。僕は“コレ”を探していたのだと…』

「え?」

『……“僕”がまだわかりませんか?』


戸惑って何もしゃべれない私を余所に目の前の男はペラペラと勝手に話し出す。

思わせぶりな台詞に正直イヤな予感が増してくる。

ああ。すぐにも義姉に助けを求めたくなってきた。


『やっぱり、声だけじゃわからないか。仕方ない。今回だけコレを取って…』


バタン


「おやめなさい!!そなたは“規約”違反する気なのか?!」


目の前の男が被り物を取ろうとしたその時、突然寝室の扉が開き、義姉が険しい表情で駆け込んできた。


え?規約?それに、義姉さんの口調がいつもと違うような…


『ですが、エルヴィーラ様!漸く“彼女”を見つける事が出来たんです!!』

「ふん。漸く…とな?リュウノスケ、そなた、今、何回目だ?」

『“ここ”で100度目となります』

「100…か。して、その間は?」

『…一度も異性と心を通わせておりません』

「ふん。ほぼ守っているみたいだな?だが、あくまで“彼女が気づくまでいっさいを明かさない”と誓った筈だが?」

『彼女は絶対気づいています!いや!気づいている筈ですっ!!僕と彼女の絆はそんな簡単に忘れられるモノじゃない!』

「“絆”…とな?おだまりなさい!“ソレ”を断ち切ったのはそなた自身ではないかっ!!

…そなたの仲間である“あの女”と“裏切り者”のせいで私の大切なあの娘が…愛しいあの娘がどんな目におうたかっ!!

“呪いの鎖”に縛られて身動きできないままにインキュバス(淫魔)共に散々辱められ、奴らが満足した後に我が宿敵ファフニールのヤツに結晶石ごと食いちぎられたのだぞ?!」

『っ…!!』

「仲間に裏切られ、妖精としても女としてもその尊厳を傷つけられ、その上、ココロだけでなく身体までも……!!

あの娘の“最後の声”が聞こえてきた時の私の嘆きがわかるか?!

掟に従い、父王の命で、私の可愛いクラーラをそなたに遣わしたことを、どれほど悔やんだことかっ!!」

『っ…!!』

「ソレに比べたら100回だって少ないくらいであろう?…もういい。“今回”もコレまでだ。再び“絶対神”のお導きに従うがいい」

『そんなっ!お願いですエルヴィーラ様っ!!僕にもう一度チャンスをっ!!』


今まで見たこともないような冷たい表情で見下ろしながら叱責する義姉さんと、そんな彼女に形振り構わず縋り付く男。

エルヴィーラ様…リュウノスケ……この名前、知ってる!私!

いや。知ってるなんてレベルじゃない。異世界に転生しても忘れる事が出来なかった私の大切な人達…


「海のように広いココロ…」

『?!』

「光に透ける薄茶色の髪…」


そう。私の命、私の大切な大切なかけがえのない人


「サファイアのような瞳。とっても素敵な私の…私だけの…」


前世、私が全身全霊をかけて愛したたった一人の…


「マスター」


私はそう呟くと、アバーヤから顔だけ出した。

喩え声だけだって私がマスターに気づかない筈はない!それに、転生してこの世界の人間になっていたって、彼の纏う優しいオーラは変わっていないのだから…


「クララっ!!」


マスターも尖り帽子をとるとテーブルを飛び超えて私の目の前に来た。

そして長い両腕を伸ばして私を抱きしめる。


「クララ…クララ……ああ!やっぱり君はちっとも変わっていない!」

「マスター」

「会いたかったよクララ!君を探して…探して…僕は…」

「マスター…私…私…」

「今は何も言わないでくれ。僕に君を…君の存在を確かめさせて?」


この世界でのマスターもやっぱり背が高かった。

大きな体を丸めるようにして私をぎゅうっと抱きしめる。

その上、相変わらず私の事を“クララ”って呼ぶの。私の本当の名前は“クラーラ”よ?

白龍の王女、エルヴィーラ様の一番のお気に入りの、知性と癒しのウンディーヌ(水の妖精)


「っふ…。やはり、クラーラも気づいておったようだな…」

「「エルヴィーラ様!!」」


背後から聞こえてきた荘厳な中にも優しい響きを持つお声に振り替えると、女神ブリジッドのような慈悲深い笑みを浮かべたエルヴィーラ様が立っていた。


ああ。どうして今まで分からなかったのだろう!


初めてこの人と会った時、子供ながらにも慈愛に満ちた瞳で私を見つめていた。

その直後に「可愛い」と言って抱きしめられた時、どこかそのぬくもりが懐かしく感じたのに変だとは思わなかった。


「義姉さんが…エルヴィーラ様?」

「そうよクラーラ。リュウノスケ、“規約”通りそなたは“ここ”で水沢 佑太として花坂 綺羅李と一緒になるがいい。私も役目を終えたのでこれからは花坂 笑里として生きようと思う。

だが、笑里は綺羅李の義姉だからな?可愛い妹に何かあればすぐさまとんでいくぞ?」

「エルヴィーラ様。僕はもうクララ…花坂 綺羅李さんに悲しい涙を流させません!

いつも彼女が笑っていられるよう、この可愛らしい笑顔を曇らせない事を今改めて義姉殿…花坂 笑里氏に誓います!

ね、クララ、いや、花坂 綺羅李さん。僕と結婚して下さい。そして僕専用の画家になって下さい」

「え?あ……はい…って…あの……専用って…」

「言質はとったからもう撤回出来ないよ?そうですよね?花坂女史?」

「くすくす…そうですねYU-TA先生。じゃあ、お約束通り覆面も外して頂いても?

ああ、そうそう、勿論、今後当社ではYU-TA先生の挿絵はキラ先生以外には依頼しませんよ。

そう言うことだから。キラちゃん、良かったわね?」


に~~っこりと笑うその笑顔はいつもの義姉さんだった。

だけど、結婚って?それに専用の画家とも……


「勿論今後は僕の写真もプロフィールもOKですよ。でも、それだけじゃないですよ?キラ先生の絵は今後は僕の作品だけにするって約束もありましたよね?」

「ええ。忘れておりませんとも。キラ先生もそれでよろしいですね?」

「え?あの……」

「キラちゃん?お返事ははっきりと“はい”でしょう?」

「はい!エミリお義姉ちゃん」

「って事で、こちらも言質取りました」

「え?」


ガバッ


「ありがとう!ありがとうクララ!!これで君の絵も僕だけのモノだ!」

「え?あ…あの……ちょっ…」


再びマスターからぎゅ~っと抱きしめられる私。

咄嗟に義姉に助けを求めようとしたのだが……


「クラーラ。“今度こそ”幸せになりなさい」


エルヴィーラ様の声と表情でそう告げた義姉は「打ち合わせは終わりましたがこの部屋は明日まで宿泊予約してあります。あとはお好きにどうぞ~♪」と言って鼻歌を歌いながら出て行ったのだった。


「クララ…」

「マスター。“ここ”では綺羅李です」

「綺羅李さん…か。君にぴったりの綺麗な名前だね。“今”の君も可愛いいから僕は“前”の事が無くても君に恋していただろうな…」


マスターこそ!髪と瞳の色は違うけど顔のパーツは全て整っているし、背が高いし、手も足も長いし。

“こっち”でもイケメンで、台詞がいちいち気障なのね。


「マスター。キラで良いですよ?」


「キラ。ね?僕から“気の補充”をしても良い?」

「///////まっ…マスターたら何を……って!んっ…んん…//////」


今まで私の背中に回していた大きな手で私の頬を優しく挟むと、マスターはいきなり唇を押し付けてきた。


「//////ん……っふ…まっ…マスター!ここじゃイヤデスっ!//////」

「僕はマスターじゃないよ。佑太。ふふ…それならベッドまで連れて行ってあげるね」


そう言うとマスター…佑太さんは私の背中と膝裏に手をあて、そのまま持ち上げる…巷で言うところの“お姫様抱っこ”とか言う…と嬉々とした様子で寝室に向かったのだった。



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