一
「お前はろくでなしの馬鹿者だ」
俺はこの言葉を何度も親父から聞いたかわからない。俺は昔から乱暴者で、何か問題を起こした時には必ずこの言葉を父から聞いたといってよい。
俺がまだ小学生の時に、家の近くに芋畑があった。その芋畑に悪童達と共に畑の芋を盗みにいった事が昔よくあった。そこの芋畑の地主が根っからの頑固親父で、畑に少年達が悪戯をしたりすると、烈火の如く怒った。雷が落ちたかと思わせるくらい大きな声で怒鳴りつけるので、俺達の間では「雷じじい」と呼んでいた。今日も雷じじいの芋畑に馴染みの悪童達と共にひっそりと忍びこんだ。仲間の一人の大輔が畑の芋を誰が一番多く取れるか競ってみよう、そんな提案をした。競うか競わないか多数決をとった所、賛成という意見が大多数だった。多数決の結果に沿って、皆で競ってみる事にした。
「レディー、ゴー!」
この合図で勝負が始まった。正直最初俺は馬鹿馬鹿しいと思っていたが、以外とおもしろく、夢中になった。いつも慎重に芋を掘り出していく俺だが、今日はなんだか楽しくなって、いつもより荒々しく掘り出していた。突如、雷が落ちたかと思うくらいの轟音が芋畑に鳴り響いた。
「ゴラァァァァ!」
「でたー、雷じじいがでたぞ!」
心臓がばくばく鳴った。このスリルがたまらなく快感なのだ。土を思いっきり蹴って俺は走りだした。俺はいっぱいの芋を抱えながら猛ダッシュ、力の限り突っ走った。体力がつきはじめ、息も荒くなってきた。もう駄目だ、そう思った時体が宙に浮いた。はっ、と思って後ろを振り向こうとしたが、力に抑えられて振り向けない。俺は悟った。雷じじいに捕まってしまったんだと。その後俺の親父がきて、こっぴとく叱られた上に、親父の鉄拳を喰らってしまった。生涯忘れる事のできない痛みだった。しかし、俺は芋を一気に15個も盗り、異例の新記録を出す事に成功した。この新記録は自慢するのに大いに役立った。学校の悪童達の間で、この俺の新記録は一時期話題となった。言い出しっぺの大輔は逃げ出す事には成功したものの、自分の悪事が親に露見し、大輔は親父さんから大目玉をくらった。大輔は声をあげて泣いた。大輔はこれに懲りたらしく、芋畑を荒らす事は二度となかった。
他にも俺は悪い事をたくさんしてきたが、雷じじいの芋畑を荒らすのは格別面白かった。万引きなど小学生がよくやりがちな悪い遊びなどよりも面白かった。芋畑荒らしは、学校で一時期ブームを巻き起こした。この事で親父に何度殴られたかはわからない。ただ、あまりの痛みに泣いた事もあった。親父は恐かった。父は世界の中で一番恐い存在だ。父が怒ると俺の体は縮みあがり、ぶるぶると震えてしまう。そんな恐ろしい父の威厳よりも、遊び心の方がきまって勝つのだ。
そんな馬鹿な俺も大学を卒業し、教員免許を取得し、教師になる。
近藤勇希、二十五歳独身──。俺は学生の頃、学問はあまりできる方でなかったため浪人し、気がつけば二十五歳になっていた。この春、俺の採用が決まった。昔、俺は小学校の教師にまさか自分がなろうとは思ってもいなかった。俺は俺ばかり目のかたきにして怒る教師が大嫌いだった。しかし不思議なもので、俺は地元広島で小学校の教師となるのである。説教する側とされる側とでは千差万別である。
俺は採用先の学校に向かうために電車に乗り込んだ。色んなことを考えているうちに、電車は目的地に着き、無心で歩いていると採用先の学校に着いた。採用された「近藤勇希」だと名乗ると、すぐ校長室へ通してくれた。校長は頭髪が白く、丸く太ったおなかを持っている。経済力のある人は大抵この校長の様な体格をしているもんだ。校長の話しによると、明日の始業式から勤務してくれとの事だ。俺は6−3組の担任として、この鴨坂小学校(フィクションです。こんな学校存在しません)に勤める事になった。校長の話しというのは俺の昔からの経験からか、絶対長い話しになるという先入観がある。しかし、存外この校長の話しは短かった。校長は俺に用件を伝えると、もう帰っていいですよと俺にいった。この校長は勤勉な雰囲気を持っているが、意外と話しやすい人かもしれない。
俺は校長の言葉に甘えてアパートに帰る事にした。俺は今のアパートに少しばかり不満がある。アパート自体に不満があるわけではなく、隣人に不満がある。隣人の下坂謙一はセールスマンで、俺にこの商品はどうですとかしつこく聞いてくる。正直迷惑だ。今日就職したばかりの俺に経済的に余裕があるはずがない。しかも下坂が薦める商品は生活には不必要な物ばかりで、ほとんど需要性がない。全くもって迷惑だ。俺は隣人の坂下だけに不満があるわけではない。俺が借りている部屋の真上の住人、黒田誠人にも俺は大変迷惑している。ここのアパートには風呂がないため、大概の人は銭湯を使用する。しかし、黒田は予想だにもしない行動をとる。黒田は洗面所で体を洗うのだ。このアパートはあまり耐久性はないので、俺の部屋は黒田のせいで雨漏りをしている。本当に黒田だけにはこのアパートから出て行って欲しい。大家に俺は黒田の愚行を訴えた事があるが、実は黒田は大家の甥なので、なんの対処もされていない。ここのアパートの住人はどいつもこいつも能無しばかりだ。本当に嫌気がさす。
アパートに帰ったのはいいが、この住人達のせいで俺の疲れは取れず、疲れは一向に増すばかりだ。まだ午後の八時だが、俺は明日に備えて早く寝る事にした。布団にしばらく入ってくると、心地よい眠りが誘ってきた。ああ、今日はぐっすり寝れそうだ、そう思っていた矢先にインターホンが鳴った。せっかくねつけていたのにと、俺は不快に思ったが、ドアを開けた。ドアを開けたまえには、髪は当分切ってないと思われて、不潔さをただよわせており、げっそりとした貧相な男がたっている。俺はその男をみるなりうんざりした。
「こんばんわ、下坂です。今日はこんな商品をお持ちしました」
このうざったい下坂の言葉が終わらないうちに、俺はドアを思いっきり閉めた。その後も下坂は何か言っているが、俺は下坂と全く取り合わなかった。俺は再び床に着いた。再び寝つけていたが、顔に何か落ちてきている。なんだろうと思って電気をつけたら、雨漏りしている。俺は大きくため息をついた。
(今度は黒田か……。)
しゃくに障ったので、黒田の部屋に怒鳴り込んだ。インターホンを押すと、黒田がでてきた。黒田は金髪で、周囲があまり関わりたくないような雰囲気をもっている。背は高く、がたいもよく、見るからに強そうだ。俺は背もがたいも圧倒的に黒田に劣っているが、そんな事は関係ない。
「おい、あんた。室内で体を洗うのは控えてもらいたい。はっきり言うがこっちは迷惑だ」
「あ? うるせんだよ、カス! しばきまわすぞ!」
黒田の巻き舌での罵倒にも動じず、俺は反問したが、小柄な俺が力でかなうはずもなく、つまみだされた。俺は業を煮やして、ドアを叩きに叩いたが相手にもされず、怒りを抱えたまま自分の部屋に戻った。
結局俺はこのアパートの住人のせいで、心地よく眠ることができずに朝を迎えた。
未熟な作品を読んでくださり、誠に感謝しています。もし、お暇であれば評価をお願いします^^ どんどん更新していきますね^^