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追いかけっこ  作者:
6/17

05

 二人連れの旅になったが、実際、シュッダは足手まといどころか、野宿が多いこの旅では非常に役に立っていた。まず、獲物を見つけるのがうまい。そして、捕らえるのも非常にうまい。さらに料理の腕は最高である。固いパンと干し肉の食事が当たり前だった以前の旅とは違い、シュッダが獲ったウサギの肉をあぶり、塩を振り掛けるという温かい食事や、食べられる薬草やきのこ類などを採ってきては、井戸が近くにある場合に限って、スープを作ったりする。まず、食の面において、シュッダは花丸の働きをしている。そして、彼はその細い外見に惑われやすいが、武術をたしなんでいるようだ。以前、熊に遭遇したとき、ティンクスの剣よりも早くシュッダのとび蹴りが効いた。武術は得意だという。ティンクスは目を見張るおもいだった。

 こうして、旅は順調に進んで行った。マーサの村もダズナの町も、皇子と見られる人物はいなかった。

「まったく…本当にどこにいるのやら」

「ティンクスが探している人物って、度々行方不明になるんだ」

 久しぶりの寝台の感触を確かめてから、シュッダは尋ねた。

「ああ、以前にもふらりと姿を消したことがあるのだが、一年ぐらい経ってからかな、俺が見つけた」

「へえ、すごい」

「しかし、一年探してようやく見つけたんだぞ? 今回はなんとしても、あと二十日のうちに見つけ出したいんだが…」

「何かあるの?」

「……」

 ティンクスはその問いには答えなかった。子供相手にまさか、婚礼が二十日後にあるから、とは言いにくかったのだ。

「ああ、なにか大事な用があるんだね。一族が集まらなければいけないとか、誰かの結婚式とか…」

 何気ないシュッダの一言だったが、ティンクスは十分に驚いた。

 時々、シュッダの勘の良さには舌を巻くおもいである。

 ティンクスの動揺には気づかず、シュッダはおもいっきり伸びをした。その間にティンクスは心を鎮めて言った。

「飯でも食いに行くか?」

「うん」

 二人は部屋を出て行って、食堂へと向かった。

 一緒に旅をし始めて十日ほどたったが、二人は互いに詳しい身の上を話し合ってはいない。お互い、なんとなく話題からそらしている。

 シュッダの作る料理もおいしいが、なんといっても材料の量が違うので、やはり宿の料理はおいしかった。鶏を丸々一羽、腹に香草を詰め込んで焼いたものと、コーンスープ、焼きたてのパンはあっという間に二人の胃袋に納まった。

「ところで、次は港町、ディパーンに行くんだよね?」

「ああ、あそこは人の出入りが激しいからな、手がかりがあるとは思えないが、まあ念のためにな」

 久しぶりに飲む酒とつまみに舌鼓を打ちながら、ティンクスは答えた。

「ふーん、僕、海って見たことがないなあ」

「へえ、じゃあ、明日初見ってことか?」

「うん」

「そうか、時間があれば、船にも乗せてやりたいが…」

「そんなっ! ただでさえ、お金、出してもらっているのに、これ以上出してもらったら悪いよ」

 あわててシュッダは手を振った。

「まあ、この金は俺のじゃないからな。節約は必要だが、ちょっと精神的傷害分として、多めに使わせてもらっているのさ」

 片目を瞑りながら、ティンクスは言った。

 その言い方に、シュッダは思わずふきだした。

「あははは。かわいそう、その人!」

「かわいそうなのは俺のほうさ。婚礼ひと月前に人探ししろと命じられたんだから…」

 しまった、とティンクスは思ったが、もう後の祭り。ばっちり急いでいる理由がばれてしまった。

「……それで、一生懸命だったんだ」

 シュッダはなるほど、と深く頷いた。

「……そうなんだ」

 酒のせいだけでなく、顔を赤くしたティンクスは言った。

「じゃあさ、もっと急がないと。かわいそうだよ、お嫁さんが。相手に待たされるのって」

 そこまで言って、シュッダは唐突に黙り込んだ。

「……どうした?」

 ティンクスはシュッダの顔を覗き込んだ。

「うん? べつに」

 シュッダは立ち上がり、言った。

「先に風呂に入って寝てるね。ほどほどにしなよ? かわいい花嫁さんが、首を長くして待っているんだから」

 にんまり笑いながら、シュッダは歩いていった。

 一人残されたティンクスは、手にしていた杯を置いて、つまみを一口、口に入れた。

「……子供に説教されるとは…」

 面白がるように、ティンクスは微かに笑った。


(20110924)

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