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追いかけっこ  作者:
5/17

04

 ぱちぱちと、焚き火の火が燃えている。そのすぐそばに座って、ティンクスは考え事をしていた。

 その日のうちに、隣町であるクルドリネの町には着いた。しかし、ヴァジェスタらしき人物は、ここ数ヶ月、見た覚えはない、というのが大方の町人達の証言だった。

「くそっ、これは国中探し回る覚悟でないと…」

 クルドリネの町の宿に泊まらずに、彼は先を急いだ。日が落ちたので野宿となったのだ。ここからクルドリネに戻るには、離れすぎていた。

「日が昇ったら、このままマーサの村に行って、そこにいなかったら、ダズナの町に行くか」

 はあ、と大きなため息をついて、手にしていた地図をおろした。焚き火の火だけでは、地図を見るのはつらかった。


 寝床の用意をして火に木の枝をくべようとした時、背後で音がした。

 反射的に置いてあった剣をつかみ、切っ先を物音へと向けた。

「何者だっ!?」

 相手が人か獣か分からなかったが、とりあえず、ティンクスは怒鳴った。

「……人?」

 少女のような声が聞こえた。

 すると、茂みから、一つの影が現れた。

「……!」

 剣を振るったが、寸前で動きを止めた。

 現れたのは十三になるかならないかの少年だったからだ。

「よかった、明かりが見えたから誰かいるんだと思って…」

 声変わりもしていないその少年は、安堵の顔をした。

「おい、坊主、こんなところで何をしている?」

「ぼ……」

 何かを言いかけたが、少年は言葉を呑んだ。そして、ティンクスの目を見据えて答えた。

「僕は……しつこいやつから逃げてきたんだ」

「しつこいやつ?」

「ああ、とってもしつこいやつ」

 よくよく見てみると、少年は少女ともいえる整った顔立ちをしている。髪の色は太陽の光を紡いだような金。そして、瞳は珍しい紅の色彩。

(なるほど。…人買いが狙いそうな上玉ってわけだな)

 貧しい農村では娘や息子を人買いに売る親がいると聞く。少年もそうようだ、とティンクスは思った。

「それならば、クルドリネの町に行って役所に言うがいい。保護してくれるさ」

「役人は何もできないよ。あんなやつ、止めることなどできないさ」

 少年は肩をすくめながらそう言った。

「しかし…」

「僕は一生逃げ回るさ。そうだな、アキドレの村でも行って、暮らそうかなって思ってる」

「アキドレって……ここからお前のような子供の足だと半年はかかるぞ?」

「それでも、僕はがんばるさ」

 ティンクスはため息をついた。何を言っても無駄のようだ。少年の瞳には固い決心が宿っている。

 騎士である自分は、本来なら早急にクルドリネの町にこの少年を連れて行って、役所に預けるのが一番である。しかし、騎士でありながら、彼はそうしようとは思わなかった。少年は絶対に役所には行かないし、そしてなにより、ティンクスは時間を惜しんだ。

(そのうち、アキドレへも寄るかもしれないしな)

「坊主、俺と一緒に旅するか?」

「えっ?」

「俺は理由(わけ)あってこれから色々な町や村に寄るつもりだ。おそらくアキドレにも行くだろう。そこまで連れてってやる。どうだ、くるか?」

「でも……」

「本当はな、お前を今すぐにでも役所に出したいよ。しかし、俺には時間がない。お前一人、このライに乗せたって、そう変わりはしない」

「……いいの?」

「ああ、そのかわり、揉め事は起こすなよ? 余計な時間はとりたくないんだ」

「うん! ありがとう」

「よし、俺はティンクスだ。お前は?」

「僕はシュ…シュッダ、シュッダだ」

「もし、途中でその、しつこいやつが現れたら、俺に言えよな。とっつかまえてやる」

「あはは、ティンクスは…お兄さんに捕まえられるかな?」

「ティンクスでいい。捕まえられるさ。俺はこう見えても強いからな」

「じゃあ、頼りにさせてもらいます」

「まあ、今晩はさっさと寝ろ。明日は早いからな」

「はい」

 ティンクスは自分のマントをシュッダに貸した。シュッダはティンクスのマントと、自分のそれと枯葉で、上手に寝床を作った。


 こうして、奇妙な縁で知り合った二人は、そうそうに眠りに付いた。


(20110918)

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