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第3話 シルフィード

<<Downtown>>


「大丈夫、…やれるさ。」


気を取り直して顔を上げて周りを見渡した。やはりこの新製品ブースが一番人気のようだ。どう見ても7割以上マテリアルステート達成してる人もいる。


…あるところにはあるんだなぁ。もういいだろ?これ以上どこをアップグレードしたいんだ?


あ、あの人はアルミボディだ、

その隣の人は背面プラスチックボディだ、あのまま宇宙に行くのはちょっとお勧めしないな…。


いや、人の事はいい。


とにかく僕には資金が必要だ。


夕食を食べて帰りたかったが、もっと倹約しないといけないことがわかったし、食料と必需品だけを買って帰ることにした。野菜なんかはやっぱり街のが新鮮で安い。


…しかしくたびれた。今日1日で足はだいぶ鍛えられたんじゃないか?


タンパク質ベースの身体というのはやはり磨いて使うもんなんだ。


もう少しでストリートから繁華街に抜けて…と、なんか急に物々しさが増したな。


貼り紙(VRフライヤー)の数もハンパじゃない。


”犬とホログラムお断り”…中華料理店。映像が飯食うかよ。


”#SLM”…あぁ、シルフィードライヴズマターね。ホログラム(情報人格)も人間だ…と。


”メタマート --ミラバース内でGETしたコードをお持ちの方は20%ディスカウント!”

…ここで言われてもなぁ。


今から入る雑貨屋は”SF”を掲げていた。


そしてドアは開けっぱなしだ。


「なぜだろう…不用心すぎる。」


僕は入店後にドアを閉めようとした。


「あ!そのままで。」


そう言いながら店員が出て来てドアを戻した。


「あっ、すみません。でもなんで…?」


店員はさっきの”SF”を指しながら言った。


「ーああ、知らないんですね。それは”シルフィード(S)フレンドリー(F)”って意味なんです。ドアが閉まってたら彼らはお店に入れないでしょ?だから開けてあるんです。」


そうか。映像はドアノブを掴めない。


そういえば店内にはごくたまにノイズが走る人がいる。話し声はというと…聞こえる!そうか。スピーカーがオンラインなんだな。


『これと…いや、こっちの色のほうが廊下には合うな。あと先週頼んどいたやつ。』


シルフィードの客がそう言って指差す商品を店員がかごに入れていく。


『うん。これもいいデザインだね。一つ貰おう。よし、こんなもんだろう。じゃぁまた、これ届けといてくれる?』


かしこまりました、と店員はシルフの手首のQRコードを読み取り、支払いを終えた彼は満足して帰っていった。


「いったい何を…?」


僕は近くにいた店長っぽい人に聞いた。


「あぁ…あんたは人間か。あれは連中の”儀 式”ってやつさ。…儲かるから付き合ってやってるがね。あぁやって毎週自分が現実の身体を持っていた時と同じように振る舞って正気を保つのさ。郊外に”ジャンプ”してみろよ。連中がとっくに引き払った空き家のリビングに山のように商品が積み上がってるぜ。」


店長は笑いながら語った。


「…あぁ、そうか、ど、どうも。勉強になったよ。」


少し店内に視線を移す。

あの中の数人はそういう事を何度も繰り返しているんだろう。


…そしてきっと来週も。


買物する気が失せた。僕の仕事も同じなんじゃないのか?


僕は店を出た。


家に帰る気分でもない。


…ラーメンでも食おう。


しかし飲食店街まで、また歩くのか。


「…もう1年分は歩いたよな。」


文句の一つも言いたくなる。


そのとき長蛇の列に出くわした。

目を凝らしてみると皆シルフィードだった。日が落ちてくると彼らの姿は濃く見えるのでリアルの人との見分けがつかない。


「なんだここ…”メタマート”?…さっきの貼り紙の店か。」


メタバース用アイテムショップなのか。


入る気はなかったけど気になって調べると、ここは”メタマート”なんて名前なのにメタバース内には1店舗もないらしい。


…わざわざシルフィードを現実に呼んでデータを販売か。


彼らの現実への執着を利用したビジネス。


なんか胸がムカつく。


――もう帰ろう!


そう思ってスクロールを開いたが、ジャンプフィールドの圏外だ。

そうかこのあたりは歩行者優先ージャンプ禁止区域だったな。

最寄りのポータルスポットまで、来た道をかなり引き返さなければならない。


…これで店が流行るんだな。なにが歩行者天国だ。ここはジャンパー地獄だよ。


あぁ、引き返すことなんて、まったく考えていなかった。


困ったなぁ。


”ジャンプ”がなかった時代ってこんな感じだったっけ?


「なにがASI(超知能)社会だよ…」


愚痴りたくもなる…いや待てよ…そうだ!


バス、バス停だ! CITY内はポータルスポットの代わりにシャトルバスがあるはずだ!


スクロールでバスの位置を確認すると、僕を見つけてすでにこちらに向かっている。


(こういう事はさすがです!ARGO様!!)


2分程度でバスが到着し、僕は座席に着いた。


「ふぅ、助かった…。」


その時どこからか声がしてきた。


「すみませーん!それ乗ります!待ってくださーい!」


バスがドアを閉める瞬間、滑り込むようにその声の主は乗り込んできた。


それは僕が今まで生きてきて見たことがないような、妖精のように美しい女の子だった。


(続く)



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