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第52話 クエスト:鉱脈洞窟(中)-3-


 断ち切られた骸の骨組みが外郭から浮遊色素体まで、上から下へとボロボロ崩れ落ちていく。


「……朋斗! 怪我、してない!?」

 存在が霧散して消えていく巨大ゴーストの下、茅峨が朋斗に駆け寄る。

 朋斗の近くで、リィは無数に落ちてくる魔力の光を吸収するように跳ねていた。


「おー。でも焦った、斬ってるそばから毒噴射してきやがったし」

「そ、そうだった? また速すぎて分からなかったけど……」

 やれやれといった風に朋斗は持っていた毒消しの瓶を割って解毒効果を浴びる。


「でも朋斗すごかった、あっという間だったね……!」

 そう茅峨はほっとした様に笑うが、朋斗は少し思案する。


 聖水を掛けたとはいえ巨大ゴーストタイプに物理攻撃がしっかり通ったのは、茅峨の気化爆発と火炎のスフィアで骸の外郭半分が剥がれていたからだと思う。……それに。


(あの炎の威力なら、村を全部焼けそうではあるんだよなぁ……)


「朋斗」

「! はい?」

「俺、他の人達も見てくるね! まだポーション余ってるから!」

「お、おう……」

 茅峨はいそいそと冒険者達の方へ向かっていく。

 その様子を見ていると、茅峨に声を掛けてきたあの男達二人のこともきちんと見てやっているようだった。


 朋斗の足元でリィが鳴く。



「……そうなんだよな。あいつ優しいよな」


 茅峨と居るのは朋斗の意思だ。監視する、という意味も込めて。

 しかしやはり本人が持っている異能はどうであれ、報道されたように村を焼いたという性格上の片鱗は見えない。


 それこそ最初に朋斗が考えたように、事件も指名手配も誰かの身代わりで嘉神も一枚噛んでいて……

 茅峨の場合クリストファーの噂の事実と違い、別人格が有るという事が本人の空想や妄言の症状だったりしないのだろうか。


(でも、もし茅峨が抱えてるものが本当だとしたら、空想じゃね? って茅峨に簡単に言っちまうのは、きっと駄目だよな……)




「はい、これでほとんど回復したと思うけど……立てそう?」

 手持ちのポーションを砕きながら、茅峨は先程の男達の具合を伺う。

「ああ助かったぜ……回復薬も底ついちまってたからさ」


 様子を見に合流した朋斗が呆れて口を開いた。

「あんたら、そんな甘い見積もりでよくやって来れたな?」

「だ、だってこの依頼ランクCだったから、そんなに準備もいらないかな〜って……」

「俺ら体力と防御にはすげー自信あったからさぁ……」

「それでも(スリップ)持ちのモンスターに真っ向から挑むなんてアホですわね」

 隣に居たクリストファーも溜め息を吐くと、男達は何故か朋斗を睨んだ。


「キミなんなの!? 子どものクセに両手に女の子とかいいご身分すぎない!?」

「はぁ? 両手に女子?」

 言われて朋斗が顔をしかめ、一拍置いて茅峨も女子に入ってることに気付いて天を仰いだ。


「全然いいご身分じゃねえし。てかあんたら二人とも物理タイプだろ。なんでサポーター入れてねぇの?」

「俺らだってこの間まではパーティ組んでたのよ!? 術師の女の子と!」

「あともう一人男が居たんだけどさ〜ソイツと術師が恋人同士になっちゃって、二人で抜けちゃったワケ」

「そ、そうなんだ……」

「ねぇこの話聞く必要あります?」

 茅峨が若干眉尻を下げている横でクリストファーがバッサリと切った。


「ま〜わかった仕方ねぇよな、冷たい地面に寝そべって見てたけど、キミすげえ強かったもんな。おれらくらいに。はは」

「そんじゃー俺らは依頼の宝石採って帰るから。助けてくれて感謝してるぜ。おまえ、彼女候補にいいトコ見せれて良かったな」

 朋斗の肩に何故か手をポンと置き、無駄に片目をつむって男達は行ってしまった。


「なんだよ彼女候補って……だからダチだっつーのに」

「朋斗、ともと」

「なに?」

 茅峨が朋斗の服の袖を引っ張った。


「あのお兄さん達には俺達のこと友達って言ったけど、クリストファー様は兄妹だと思ってるみたいで……」

「おー……あれ? 矛盾してんな」

「だ、だからクリストファー様がすごい目でこっち見てる……!」

 どうもクリストファー目線だとややこしいことになっているようだ。


「貴方達……兄妹なのに友達感覚で彼女候補(?)なんですの……?」

「ちッげーよ恐ろしいわそれ! 待って一旦その辺の情報リセットして」

 朋斗は流石に頭を抱える。

(俺のこと、女子じゃないって言った方がいいのかな?)

(それだと余計ややこしくなるだろーが……!)


「どこまでリセットすればいいんですのよ」

「まず彼女候補から外してくれ」

「そういえばこの格好は朋斗の趣味じゃないって言ってたもんね」

「は? そんなこと言うなんて失礼すぎませんこと?」

「もー喋んな!! 話を広げんな!!」



.

.

.

.




 巨大ゴーストの居た空間の奥の岩場から、スミレ石の母岩を採取する。

 クリストファーが鉱物の扱いに慣れていたのでその辺りはスムーズだった。


「それでは、苔の生えている方へ向かってもよろしいかしら?」


 クリストファーの睡眠薬の材料である苔を採るために、今度は別の方向へ歩みを進める。

 すると奥へ行くにつれて不思議と明るくなってきた。


「え? 出口……?」

「この先は外に出ますわ。そこが最深部になっていますの」



 洞窟最深部……そこは青空が広がる、森の延長のような場所だった。

 霧は晴れている。


 そのひと区域一面が、足元を覆うほどの背丈で小さく白い花が咲いている花畑。

 その花の合間からは所々薄灰色の岩肌が見えていて、岩には淡い緑色の苔が生えていた。


「苔っていうからジメジメした場所なのかと思ってたな」

「まぁこの崖の下が川なので、空気は湿ってはいますわ、ね……」


 話しながらクリストファーは不意に固まる。

 朋斗は元々気付いていたようであり、茅峨もなんとなく気配は感じていた。


 この場所の周囲は切り落とされた崖になっているようで、確かにダンジョン最深部……行き止まりではある。

 崖の下からは結構な勢いの水音が聴こえるので、川の流れが速いのだろう。


 崖の縁取りにはイスラの森と同じ種類の鬱蒼とした木々が囲っていて、悠長に足を崖から踏み外すなんてことはなさそうだが……


 その崖に沿う木々の一部が大きく崩壊していた。まるで踏み倒されたように。


「…………」

「この洞窟はあれなの? デカいボスが主流なのか?」


 花畑の奥、崖側。

 白い花を荒らすように、巨大な蟹の魔物(ばけもの)がいる。


「ええと、あれは……?」

「レッドクラブ、ですわね……」

 クリストファー呟いた。

 レッド、というが蟹の色は黒めかしく、それほど赤くは無い。

 巨大蟹はこちらに気が付いたようで、体を向けてじりじりと様子を伺っているようだ。


「たまに下の川から上がって来て洞窟内をうろついたりするんですけど……普段はあんなに木々を薙ぎ倒したりなんかしません、嫌な予感がしますわ。あの蟹の顔周り、あれ、霧じゃなくて?」


 顔……蟹の動体から突き出した二本の黒い目の周辺に、白い(もや)が掛かっている。


「レッドクラブって、危険なの……?」

 茅峨の問いにクリストファーは曖昧に頷く。


「……何事もなければ温和で大人しい魔物ですわ。けどテリトリーで害をなす敵と判断した場合、己よりも大きい魔物ですらあの巨大な重い(ハサミ)で殴り殺す……だからレッドという名前らしいですわよ」

「最悪な豆知識じゃん……」


「それに霧が何故か魔物について回っている。ポテンシャルのある魔物の凶暴化というのは、不味いですわね」


「……」

 魔物も怖いと思うのだが、茅峨はそれに加えて妙な気配を感じていた。


「朋斗……あの大きいレッドクラブ以外にも、もっと小さいのもいるよね……?」

「ああ。それに人もいる」


 二人は少し前に出て、クリストファーを下がらせる。


(なんだろうこの感じ、なんか……ざわざわする)


 茅峨がそう感じていると、レッドクラブの後ろから一人の人影がのそりと現れた。


 ……それは妙にこの場に似つかわしく無い、長いローブを纏った壮年後期の男性だった。

 肩口まで伸びた髪は、やや灰色がかってはいるものの……青い。


「おいあの色……おまえと同じか……!?」

「……!!」


 くすんだ青色の髪に、よく見れば茅峨と類似したベーゼルの瞳の色。

 男はブツブツと何か言っている。


「洞窟を歩かせてアルルザークまで進ませようかと思ったが、直接川を登った方が早かったか……?」


 レッドクラブは大きな鋏を小刻みに鳴らし明らかに興奮している様子だが、しかし近くに居るその男のことは攻撃対象に見ていないようだ。


「む、人か……」


 男が茅峨達を視認した。




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