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第48話 湖畔の魔女-4-


「さぁ、もう遅い時間ですわ。貴方達も明日またすぐ森へ行くのでしょう? 早く寝ないと体力が削がれますわよ!」

「てかあんたも早く寝ねーと肌とかに悪いんじゃねえ?」

 貴族相手にもう礼儀などお構いなしの朋斗だったが、クリストファーは何故か得意げに目を伏せて笑った。


「ふふふ……わたくし、美肌用のポーションも精製済みだったりしちゃったりするのですわ!! 夜更かしなんて敵じゃありませんことよ!」

「そ、そうなんだ……」

「ふーん……」

 十五歳少年二人、興味ゼロである。


「もう! 無関心極まりないですわね。貴女ももう少ししたら……あら? 貴女のお顔、そういえばどこかで……」


 クリストファーが茅峨に近づきまじまじと顔を覗き込みかけたので、やべ、と朋斗は茅峨を引っ張る。


 しかし茅峨はその場に留まり、ぽつりと口を開いた。


「クリストファー様もしかして……眠れてない?」


「!」


 彼女が少し身を引いて驚いたので確信する。


「な……んで、そう思ったんですの?」

「えっと、クリストファー様って振る舞いも丁寧で生活をきちんとしてそうだから、趣味も研究も時間を押してまでしなさそうだなって……なのにこんな夜中まで起きててテンションも高いから、なんとなく……」


 そう言われてクリストファーは渋い顔をする。

 朋斗の方を見ると彼も黙ってこちらを見ていたので、少しだけ溜め息を吐きつつ近くのソファに座り込んだ。


「……確かにそうですけど、今日はたまたま薬を飲んでいなかっただけで普段は寝てますわよ」


「たまたま飲んでない、って?」


「睡眠薬。そのストックも材料もうっかり切らしてしまったのです」


 こんな風に自分のことを言っても仕方ないのに、とクリストファーは思う。

 久しぶりの訪問者が子どもで、こうして夜中にはしゃいでしまい気が緩んだのかもしれない。


 これまでも森で迷った冒険者を保護することは稀にあったが、お互い警戒してほとんどランムデールに対応を任せきりだった。

 今回匿ったのは少年少女だと伝えられたので、クリストファーは気が向いて顔を見せたのだ。


 元来世話焼き気質のあったクリストファーは、貴族慣れしていない二人にどこか可愛げを感じていたのかもしれない。


「……もしかして、あんたがここでずっと錬金術やってたのって眠れないから?」

「趣味だったのは本当ですけど、何かしてないと鬱屈してしまいますから。それに眠れなかったおかげで余計に研究に凝ってしまって。それだけのことですわ」

 なんの気無しに笑う。


「ふふ、それに今日は貴方達と話していると猜疑心(さいぎしん)抜きになんだか久しぶりに楽しくなって、気が晴れて眠れるかと思ったのですけどね」

 幽閉されている身で、クリストファー自身が思うことは色々あるのだろう。

 からりとした口調は空元気のようにも感じた。


「……眠れないっつったら、おまえは逆に寝てるよな。おまえの状況って普通眠れなくなりそう……」

「お、俺のはたぶん、体力が持っていかれてるんだと思う……」


(おれ……?)

 少女の言葉をクリストファーは一瞬気に留める。気のせいか、と一応思ったが。


「……クリストファー様、魔女や妄言の噂のこと、聞いてもいいですか? 魔法が使えるなら噂は全部本当のことなの……?」

「……その噂、一通りお聞きしても?」


「ええと、メイドさんに酷いことして、婚約者を誰かが誑かしたって言ったりして」

「空想病で、異端の魔法が使える」


 茅峨と朋斗の話に、クリストファーは指先を額に触れつつ溜め息を吐いた。


「……いいでしょう。わたくしも『コイツ全部妄想で喋ってるんじゃ』なんて思われるのは心外ですし、お話しますわ。あまりいい話でもないですけどね」


 向かいのソファに掛けるよう二人を促し、クリストファーは続ける。


「まず魔法が使えるのは見て頂いた通りですわ。メイドに酷いことというのは……おそらくファビディアナンドの屋敷で、一番信用していた侍女への態度が厳しかったことが言われているのかも。わたくしとしてはそこまで辛辣にしたつもりは無かったのですけど……と言っても後の祭りで」


 やれやれと諦めているような態度でクリストファーは首を横に振る。


「この侍女がファビディアナンド、これがわたくしの元婚約者ですが、この男と恋仲になっていたのです。なので誑かしたと(わめ)いた、という噂に仕上がっているのでは。そのファビディアナンドが、わたくしの侍女への過ぎた対応と異端の力を皆に公表し幽閉した、という訳です」


「……」


 噂の元へと至る話を聞いた二人は、なんとも言えない顔と気分になってボソボソと口を開く。


「なんか、結構キツいな?」

「貴族ってこんな感じなの……?」


 そう言うとクリストファーはいつの間にか手にしていた扇子を茅峨達に向けた。


「そう、貴族って面倒臭いのですわよ! でも何よりファビディアナンドが……」

「そのファビって長くね?」

「ファビが!! 別にまだ大して権力もないのに嫡子だからって威厳を振り翳してくることに腹が立つんですわ……三十路越えのくせに若い女子が好きですし! それを踏まえて色々あり、このわたくしも凹んで不眠症というわけです!」

「もう慰謝料取れば?」

「取れるなら取りたいですわよ……!」


 補足を聞きつつ、茅峨は疑問に思う。

 同じ魔法が使える嘉神とクリストファーで、何故待遇がここまで違うのだろうか。

(国の外の人と、国内の貴族の違い? でもそれって……)


「まぁ確かに侍女に裏切られてほぼ言いがかりで婚約破棄されたら不眠にもなるわな……」


「…………それだけではないのですけどね」



「……クリストファー様?」


 少し黙り込んだ彼女に、茅峨は小さく声を掛ける。

 その無言はすぐに解かれ、クリストファーは二人に顔を向けた。


「貴方達に、お願いがあるのですけれど」

「え、ファビの野郎を殴ってこいとかそういう……?」

「違いますわよ! お二人はサイモン様の依頼で鉱脈洞窟へ向かうのですよね? ついでにわたくしからの依頼も受けてくださいませんこと?」



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