第46話 湖畔の魔女-2-
「……めッッッちゃくちゃ、良い素材と薬草が採れるんですのよ!!」
「そ、素材や薬草が好きなの……です?」
クリストファーのテンションに、茅峨は変な聞き方になる。
「わたくし、趣味で錬金術をしていますの」
クリストファーは自分の胸に指先を添えて答えた。
錬金術は端的に言えば石と石を掛け合わせて独自の宝石を作り出したり、多種類の薬草を煎じて薬などを精製するものだ。
職人になると冒険の補助をする品物……自身の強化や敵への弱体化を図るアイテム、体力や状態異常を回復するオリジナルポーションも作れるのだとか。
「この屋敷は地下に部屋があって、気温や湿度が鉱物加工や薬品精製に丁度良かったのですわ。幽閉されたわたくしは兎に角ヒマだったので、錬金術の研究に没頭したのです」
「え、それで金を作ったのか?」
「まさか! 金を作ることは偽札作りと同義でしてよ?」
茅峨と朋斗は「そうなの?」と顔を見合わせる。
「わたくし、ここで研究し精製したアイテムを、伯父様の名義で冒険者ギルドに卸しましたの。お陰様で評判がとても良くって、わたくし一人の精製だけでは追いつけなくなってしまって。なので、男爵家の領地内をお借りしインクを立ち上げたのです」
「インク……?」
「おいまさか」
「法人事業商会、ですわ!」
……クリストファーの場合は、錬金術での道具精製と卸しを担う組織団体……である。
「そうしたら半年くらいでもの凄く儲かってしまったので、侯爵家管理だったこの屋敷と周辺の土地を、ファビディアナンドからブン取っ……買い取ったのですわ。商品はクレオリアと懇意にしてる国へも輸出していますのよ」
「半年て。やり手の実業家すぎんだろ」
「そんなに凄いアイテムなの? お……自分、だと買えないくらい高いのかな」
茅峨の言葉にクリストファーは嬉しそうに胸を張った。
「そんなことはありませんわ! 初心者ランクにも優しいリーズナブルなポーションも勿論用意しています!」
「茅……ミヨ、やめとけ、興味持ったら絶対売りつけられるぞ」
朋斗に横腹を肘で小突かれる。
「失礼ですわね、そんなせこいことしませんわよ……ところでずっと気になっていたのですが、なんだか妙な匂いがしませんこと? 強烈な粉薬みたいな」
「匂い……? もしかしてこれかな」
ワンショルダーの鞄を茅峨が開けユニコーンゾンビの角を取り出すと、一瞬で周りに酷い異臭が広がった。
朋斗は顔をクシャクシャにさせたが、クリストファーは逆に前のめりになる。
「ちょ……ちょっと見せてくださる!? これって……!」
茅峨が差し出す角を見て、クリストファーが驚きと共に目を輝かせた。
「六角柱の角、しかも二本!? この素材を落とすモンスター、イスラじゃレアですのよ! ランムデールも滅多に出遭わないと言っていて……日没前後の少しの時間しか現れなくて、しかも強かったんじゃありませんこと?」
「強かった……?」
茅峨は少し目を丸くしていて、朋斗はまだ顔が戻っていない。
「毒や麻痺にさせる息を吐きますし、そもそも近づくだけで屍体の緑の光が、こちらの体力を継続低下させますもの」
「あー……速攻で斬ったからなぁ」
「凍らせて砕いたから分からなかった……」
二人の態度に今度はクリストファーが目を丸くした。
亜麻色髪の少年がギルド最高ランクというのが事実なら納得せざるを得ないが、こちらの少女はランク初心者だというのに、あのレアアンデットを即時倒せたというのだろうか。
そうであれば、攻撃力だけでもランクAに近い。
「……この角二本、よければわたくしに売ってくださらない?」
「あ、売るというか、それなら宿代として……渡してもいい?」
「おまえがそれでいいなら全然どーぞ」
「宿代にしたってまだ余る金額のレア素材ですわよ……とりあえずその割合はプールしておきますわね」
プールの意味はよく分からないまま茅峨は曖昧に返事をし、角をクリストファーに手渡した。
「うぇ〜茅峨もだけど、すげえニオイすんのによく普通に持てるよな」
「希少ハーブや高級薬品の素材なんてこんなものですわ。でも流石にそのバッグは消臭しておいてあげますわね」
そう言ってクリストファーはドレスのポケットから綺麗なスプレー小瓶を取り出し、茅峨のバッグを差し出すように促す。
「それにしても、兄妹で冒険してるだなんて仲がよろしいんですのね」
「きょうだい?」
「こちら妹様でしょう?」
「は、はぁ……」
(朋斗がお兄さんなんだ)
(おまえが姉ではねえだろさすがに)
クリストファーがバッグをスプレーしている間にコソコソと話す。
(なんでもいいけど、おまえのことはバレてないっぽいな……ここ辺鄙だからそもそも指名手配のニュースを知らない可能性もある)
(知らないといいんだけどなぁ、俺あんまり誤魔化せる自信ない、かも……)
茅峨は自分のことをそこまで男らしい態度の人間ではないとは思っているが、それでも女性らしさを咄嗟に振る舞えるわけでもない。
それにうっかり一人称もいつも通り口をついてしまいそうなので気をつけないといけない。
(あんまり喋らない方がいいとは思ってるんだけど、俺、黙ってたら何か話せって言われてきた村の弊害が……)
(おまえ色んな弊害持ってんのな……)
この後すぐ侍女が呼びに来て、部屋を移動して夕食となった。
侍女以外の四人でテーブルを囲うことになり、貴族の食事や形式をほとんど知らない少年二人に、クリストファーはあれやこれやと口を出して世話を焼いたのだった。




