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第44話 イスラの森-2-


「もう即行で倒すから!!いいよな!!」

「う、うん! あ!」

「なに!?」

「こっちにもう一体いる!」

「え゛!!もー!!そっちは頼んだ!!」

 言うが早いか朋斗の双剣の刃は発光し、その光はまばたきの間に目の前の魔物を斬り裂く。


「ええと風は重いし森の中じゃ火は危ないし……こ、氷!!」

 ロッドで呼応の流れを指し示す。もう一体の屍馬の周り、水分量の多い湿った空気が氷結し、冷気と氷の粒が一斉に対象に向かって攻撃する。

 すぐさま凍らされた屍馬は、大きく音を立てて砕け散った。


 キラキラと舞う氷と、朋斗に斬られた所から黒い灰になっていく屍馬から、内包していた魔力の光が溢れて漏れていく。


 モンスターが倒されると普通ならその光はただ消滅していくのだが、朋斗の足元にいたリィがぴょんぴょんと飛び跳ねると、光はリィに集まって吸収されるように消えた。


「た、倒せた……あれ? これは……」

 胸を撫で下ろした茅峨は、足元にコロリと転がってきた角ばった角に気づいて拾い上げる。


「素材のドロップじゃん。それ高く売れるから二本とも茅峨持っとけよ。俺はいらねえ、臭ぇし」

「う、うん……」

 朋斗の渋い顔に苦笑しながら、茅峨は屍馬の角をバッグにしまった。


「リィ、いけたか?」

 朋斗が呼びかけると、リィは満足そうに一言鳴いて朋斗の肩に飛び乗る。



「え……?」


 不意に茅峨は自分達のすぐ側に、森には見かけづらいものを目にした。

 警戒しながら近くに寄っていくと、それはここから見える範囲に隔たりを作っている。


 ……背の高いウッドフェンスだ、

 森の先まで続いていて、向こう側は見えない。


「これってもしかして私有地の?」

「え、マジか。じゃあ森の東側に来ちまったのか……」


 その時、目の前のウッドフェンスに組み込まれていた木の扉がゆっくりと開く。


 扉の奥から悠然と現れたのは、黒い貴族服に身を包んだ老婆だった。


「「「……!?」」」


 茅峨も朋斗も、なんなら老婆も目を丸くして驚き固まる。

 鬱蒼とした森に貴族のフォーマルドレスはあまりにも似つかわしくない。


「……あらあら、まぁ……」


 口元に手を当てて老婆はそんな呟きをした。

 彼女はすぐ落ち着きを取り戻していたが、対して茅峨と朋斗は互いに目を合わせて挙動不審のままだ。


「こんなとこにばーさんって……!!」

「しかも黒い服だよ……!?」


 これは噂の魔女なのでは!? と二人の心の声がリンクする。

 魔女なのだとしたらかなり性格に難ありの人物だった気がするし、そうでなくてもこの夜の暗い森に貴族風の老婆がいるだなんて、怪しさがドレスを着て歩いているようなものだ。


「まだ子どもじゃないですか。冒険者の方? 帰り道は分かりますか?」


 話しかけられた。丁寧だが温和とも冷淡とも言えない口調だ。


 流石に二人が警戒して一歩身を引くと、老婆はこちらに一歩詰め寄った。


「この森の夜のモンスターはゴーストやアンデットが主流です。幻惑など見せられれば森から出られませんよ」


 その淡々としつつも圧のある剣幕に茅峨と朋斗は少し気圧されてしまう。


「さぁ、こちらへどうぞ」

「……え!?」


 それはまさかの行動だったのだが、老婆は今自分が出てきた扉の方へと二人を促した。


「……いやいや絶対怪しいじゃん!! てかなんで!?」

「なんでと申されても、この森は迷いやすいので当屋敷にて一晩泊まっていかれたらと。警戒なさらずとも、以前にも何名かお泊めしたことはありますよ」

「屋敷……!? ほ、他の冒険者は森の外に出されたって聞いたけど……!」


 そう言うと老婆は「ああ……」と手のひらを自分の頬に添えた。


「あの方々も深い霧の中迷っておられたので、屋敷にお通ししようとしたのです。だというのに嫌だと駄々を捏ねますから、仕方なく外に転移させました」


「……!」


 転移の術式はかなり高度で、一般の術師がそう簡単に使用出来るものではない。

 となるとこの老婆はやはり……?


「私は森の見回りをしなくてはなりません。今回もまたサイモン様が冒険者を募っておられるようだし……すぐに戻りますので、少しの間ほとりのベンチでお休みになっていらして」

「え、」

「ちょ……」


 二人は老婆にグイグイと私有地に押し込まれ、木の扉はパタリと閉められてしまう。


「……マジかよ、どうするこれ!」

「ま、魔女の敷地に入れられちゃった……!?」


 焦りながら顔を上げると、二人はその光景に目を丸くした。


 フェンスの中は開けていて視界の悪い木々も無く、地面には苔が一面に生えている。


 ――そして、湖だ。

 と言っても向こう岸は見えるのでけして大きくはない。とても広い池……のようでもあるが、夜のため暗く分かりにくい。深さがかなりあるのかもしれない。


 ウッドフェンスの扉から湖までは石畳が敷かれた道になっていて、遠間隔でガス灯のような物が立っており、黄色い光が周囲を照らしている。

 ふと見ると岸には小舟が二隻携えられていた。


 岸の近くには東屋が立っており、屋根の下にはテーブルとベンチ。


「……お屋敷があるね」

「あるなぁ……」


 二人の目線の先、湖の真ん中には小島が浮かんでいて、そこに二階建ての小さな屋敷が佇んでいる。


 貴族が幽閉されているという噂の私有地。

 先程の老婆は森の見回りをすると言っていたので、そうなると幽閉対象とは考えにくい。


 つまり今、あの屋敷の中に件の貴族が存在している可能性が高い。

「……まぁ、取って食われるなんてことはないだろうけど……たぶん」


「朋斗って、冒険でこういう経験したことある?」

「ねーーよ。魔女に拉致られるなんて……でもあのばーさんは夜の森にいる俺らを心配してたんだよな?」

 茅峨はこくりと頷く。


「……うん。あのお婆さんからは悪意みたいなのが無かったから……怖い人じゃないと思うんだ」

「つっても、例のお貴族様が怖い奴ってのは充分ありえるんだよなあ」


 茅峨と朋斗は悩みながら顔を見合わせる。

 正直ここから出てまた夜の森を出歩くのが有りかというとそうでもない。


 とりあえず言われた通り、東屋のベンチで老婆を待つことにした。





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