第42話 断るということ-2-
「え、なに、連れ?」
「ほらやっぱ組んでただろ、説明会の時もこの二人話してた」
男達のやりとりを見ながら朋斗はこっそり茅峨を下がらせる。
「……なんなんすか、俺達もう行きますけど」
「待ってまって」
男達は何故か朋斗の肩を組んできて、定位置を追いやられたリィが抗議の鳴き声を上げている。
「ね、キミら恋人? 兄妹パーティ?」
「ダチだけど。マジでなに?」
「な、な、俺らと組んだ方が良くね? 探索クエは人海戦術って相場決まってんじゃん」
そう言われ朋斗はあからさまに面倒臭そうな顔をした。
「……お兄さん達、ランクは?」
「A。キミは?」
「言いたくないっす」
「はあ!? な、なんでだよ!」
「低くっても恥ずかしがることねえぜ? みんなが通る道だからさ!」
一人は朋斗の態度に怪訝に驚き、一人はキラリと寛容さを広げている。
そんなやりとりを見ていると、茅峨の気持ちは幾分落ち着いてきた。
(……そう、だよね)
この人達は……
(この人達は、村の人じゃない……)
「つかお兄さん達ランクAなのに、なんでこの依頼やってんの? これCからで低めのクエストだったと思うんだけど」
「そっそれは〜」
問いかけに男二人はどう言うわけか目を泳がせる。
茅峨から見てもこの二人の体格や肩口の傷跡、携える武器も本物で、ランクAは嘘じゃなさそうに思えるのだが……
朋斗が自分の腰に手を当て、何かを察したのか溜め息を吐いた。
「あんた達、あれだろ。ランクの低い弱そうな女子引っ掛けて尊敬されていい目見ようってヤツだろ」
「え!? そっそんなことは……!」
「そんな不純なこと考えてねーし!」
明らかに二人して声が上擦っているのでどうやら正解らしい。とても分かりやすい。
「……尊敬?」
「う……!」
茅峨が少しだけ二人を見上げると、男達は据わりが悪そうに更に目線を外した。
「とりあえず、許可なく手ぇ握るのは印象悪いしハラスメントだからやめとけ?」
「は、ハラ……? うるさいなくそ、わ、わかったよ……」
意外にも男達は朋斗の忠告を素直に受け取って退散していった。
サイモン宅の敷地から離れた所で、茅峨は口を開く。
「うう……ごめん」
「いやそこまで女装が効果あるとは思わなかったわ……あいつらがアホってのもあるけど」
やれやれと朋斗は呆れている。それと茅峨を一瞥して更に加えた。
「……あのさ、なんかおまえ変じゃなかった?」
「…………えっと」
その言葉に、茅峨は前髪をくしゃりと握って肩を落とす。
「……うん。俺だめ……かも。あれくらいの年齢や身長の人……村で身近だったから、言われたことが、うまく断れない……」
それは癖のようで、縛りであるなにか。
物心ついた時からの境遇は、脳内で簡単に切り替えられない。
「……うまく、とか考えなくても嫌ならばっさり断っていいんだぜ?」
「違う、断り方が出てこないんだ」
「……」
朋斗は腕を組んで思案する。
「あー……そうだなぁ。断る言い方分からなかったら、もう逃げちまえよ。おまえの足ならすぐには捕まらないだろ」
「……え?」
「もし何か言えるなら口八丁で巻いたら良いんだろうけど、そんなの玄人だし。でもとにかく、その場に居る方が危ないだろうからさ。てめーらお呼びじゃねえくらいの勢いで逃げたらいいって」
「…………」
茅峨がぽかんとしていると、朋斗は少し渋い顔をしながら、それこそ俺もおまえにどう言ったらいいか分かんねーけど、と続けた。
「今までやったことないとか……考えてすらなかったことを無理矢理するのって、難しいと思うよ。けど選択肢には入れとけ。入れていいし、やっていいから」
「……朋斗は?」
……不意に口をついた。それは己の意思で言ったのだろうか。
「それでもまた、茅峨が動けなくなった時、朋斗はどうする?」
目元から茅峨の甘さが消えた、どこか芝居のような言い回し。
朋斗はそれには気に留めず問いかけに首を傾げている。
「それって茅峨は困ってる前提なの?」
「…………」
困ってる。困ってるのだろうか。
嫌がってる、ということなのだろうか。
そんなこと思ったことないのに。
けど今の男性二人には、確かに困ってしまったのだ。
「…………うん」
茅峨の頷きに、朋斗はなんとでもないという風に口を開く。
「おまえが困ってんならそりゃほっとかないけど。おまえだってそうじゃん。レイライムズでもさ」
「……」
そう言うが、普通に困ってる人と面倒臭い状況の指名手配が困っているのとでは、そもそも違うだろう。
出会いを無かったことにして捨て置けばいいのに、お人好しにも程がある。
「……ふ」
朋斗の答えにそう笑ったのはたぶん、自分じゃなかった。
「……逃げることもだけど、上手く断れるようになれたらいいんだけどなぁ」
「でかい街の待ち合わせ場所見てたらいんじゃね? ナンパとかキャッチあしらってるのよくあるじゃん」
「キャッ……チ?」
大きな街。レイライムズよりも大きな地域がまだまだあるのだろうか。
そういえばリディアと初めて会った時、彼女も男性から声をかけられていた。
「前にお姫様がナンパされてたんだけど、男の人達とケンカみたいになっちゃって。面と向かって断るのって難しいんだね……」
「まぁそうかも…………ひめ?」
苦笑しながら話す茅峨だが、朋斗はなんか日常には出てこない単語を耳にした気がする。
「あとはそうだな、ナンパされたら男の家族を出すのが効果的だって、前に女子から聞いたことあるわ。“父と一緒に来てて”とか“兄に聞いてみます”とか有りなんじゃね」
ふむふむと記憶する。
朋斗の女子の人脈が少し気になるが、聞くのも野暮かな?と思って茅峨は黙っていた。
「……朋斗、ありがと」
「えぇ? そんな大したこと言ってねぇけど」
「そうじゃなくて。あの、さっき友達って言ってくれたのが……嘘でも嬉しかったから」
そう言って眉尻を下げて笑う茅峨に、朋斗はなんとも言えない顔をする。
「…………いやべつに嘘じゃねえし? ンなことで礼とか言うな!」
やめろやめろ、と顔を背け払うように手を振る朋斗に、茅峨は内心暫く驚いてから、もう一度笑った。




