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第41話 断るということ-1-



 元炭鉱地である町、アルルザーク。その町に住む通称鉱物教授、サイモンの自宅兼講堂。

 茅峨と朋斗がここに辿り着いた経緯は単純に、ギルドのクエストを受注した為だ。


 ――レイライムズから乗り込んだ馬車。

 去り際に嘉神が掛けてくれた光源屈折魔法……一日は効果があるらしい……もあり、御者はなんの疑いもなく二人を乗せて揺れながら車中で一泊した。


 茅峨はレイライムズでは一日中走り回っていたようなものなのと、相変わらず妙に長く眠くなる傾向があって、朋斗が言うには馬車では爆睡していたのだとか。


 御者には待機賃を払い、眠っている茅峨をそのまま車内に待たせ、朋斗は近くの街まで変装用の品物を購入しに行く。


 その街は周辺の冒険拠点にもなっているようで、運良くカテゴリーの幅が広い商業店が多く並んでおり、冒険用の装備品と並んでビジュアル変更用の商品も色々と扱っていた。

 朋斗的にはこんなん装備する奴いんの……? みたいな奇抜なものも沢山あった。


 その後更にそのまま馬車で王都に近い町へと向かう。


「金を稼いどきたいんだよなぁ……」

 と、車中で目を覚ました茅峨に朋斗が渋い顔で言った。


 昨日のココからの報酬額を考えても、装備や医療やアイテムでも、何か工面する必要が出た時に手持ちがギリギリだと不安だ。普通に食費でも減っていくわけだし。

 王都に徒歩だけで行くのには何十日とかかってしまうので、出来れば馬車も使いたい。そして馬車代も安いわけではない。


 という流れでアルルザークに降り立ち、用意した物で茅峨の変装……身なりを整え、町のギルドで二人が行えそうな依頼を選別して受注した。


「とっ朋斗の実績すごいね!?」

 ギルドに行った際に登録者としての朋斗のログインページを見させて貰った。

 種別討伐のアルバムの埋まり具合やアイテム発見数、ダンジョン踏破数も凄いが、何よりも討伐数が桁違いで茅峨はひっくり返りそうになる。


 それを朋斗は「不可抗力だから。その辺のスライムも含まれてるから」などと言う。

 何をどうしたら不可抗力でXXXXXなどという桁の討伐になるのか。


「この地下迷宮っていうのは?」

「ああ、ギルド登録者の固定クエストな。おまえのページにもあるはず」


 茅峨は嘉神に貰った端末で自分のページを開いてみると、確かに別タブに『地下迷宮:未』とある。朋斗は四十九階だった。


「冒険者の間じゃギャグで無限地獄(インフィニティインフェルノ)とか言われてんだけど……冗談なのにその通りすぎて、とにかく終わらねえ先がねえ見通し立たねえっつって」


 先の戦争の後、某所に突然現れた縦穴式ダンジョンらしい。

 全てが未知の状態なので、固定クエストとしてギルドの冒険者を募って調べさせているのだとか。参加は任意だ。


「そうなんだ……モンスターも強そうだね」

「二十階まではどうとでもなるけどその後がたぶんキツイんだろうなあ。SSパーティは八十階くらいまで行ったらしいけど」

「え、朋斗はそこまで行かなかったんだ」


 茅峨の目は「行けそうなのに……」と言っているが、朋斗は首を横に振った。


「なんつーか途中からコストと旨みが合わなくなってさ……行った奴の話聞いたらすげーレアなアイテムや金脈もあったらしいけど、俺には関係ないし」

「ふうん……?」

 そういえば朋斗の冒険の目的はどういったものなんだろうか。ただマイペースに旅をしているだけ……?


「よし、そんじゃ依頼主のとこ行きますか。丁度もうすぐ合同説明会の時間だし」

「合同、説明会?」



 そうして現在――講堂でクエストを受注した十数名ほどのギルド登録者が集められ、サイモンという初老の依頼主からやたらと長い鉱物談義を聞いている。

 とにかく話が延々長い。鉱物オタクである。


「……大人数で受けるのっていつもこんな感じ……?」

 小声で話しかける。人々が集められて説明を受けるのは茅峨とって慣れない雰囲気だ。


「ものによるけど合同依頼なら大体こんなだな。依頼者から内容の詳細聞いて、各自散らばる。ソロの奴もいるしパーティもいるし色々」

「へえ……朋斗って、パーティは組んだりしなかったの?」

 その問いにこくりと肯定する。


 壇上のサイモンは自分の語りに浸っているのか、こちらの参加者何人かが講義に飽きてボソボソ私語をしていたり眠そうに船を漕いでいても気にせず話を続けている。


「EXってソロが多いんだよなぁ。俺はずっと一人だけど、パーティにいた奴って仲間と実力が合わなくて足並み揃わないとか、突然追放されたりさ、関係性が面倒だったらしいぜ」

「つ、追放」

「そー。はは、傑作だからまた今度覚えてたら話してやるよ」



「……さて。石の話はここまでにして本題に移りましょう。皆様も既に聞き及びとは思いますが、イスラの森は大変不可解と言われるものの……」

 ようやくかよ、ちょっと寝てたわ、などと小声が聞こえる。


「先日募集をかけた冒険者達が、数週間かけ森を探索しました。ですがさほど危険なモンスターは出ませんでしたし、魔女の目撃もありませんでした。ただ霧の濃さ故に目的の鉱物の発見は少なく……」

 魔女、という単語に少しだけ講堂内がざわめいた。


「先日から霧も薄まった為、再度ギルドへ依頼を発注した次第です。冒険者の方々でその森の中にある洞窟で……先程もご説明しました石の発見・発掘作業をして頂きたい。そしてこちらが対象の石の実物です」


 サイモンがスピーチ台に置かれてあった布を取ると、布の下……ガラスケースの中にこぶし大ほどの灰色の石が入っていた。

 サイモンの背後のスクリーンにはその石が拡大して投影されている。

 灰色の石……岩石。それは所々小さく光を発していた。


「ん? あの光ってる粒がナントカって石なのか……」

「水色にも紫色にも見える……綺麗な石だね」


 ハンター達が口々に感想を言う中、サイモンが補足説明をする。

「この石に散在しているものが菫青石(キンセイセキ)、通名スミレ石です。淡い青や紫、角度によっては透明にも見える多色性の素晴らしい石なで、宝石言葉は――」

「透明にも見えるって、文言として破綻してるよな……」

 後ろで誰かが呟いた。


「スミレ石は母岩とほぼ一体化しております故、母岩ごと持ち帰ってください。報酬は用紙に記載してある前金の他、採取された石の量と質からこちらで割り振り致します。なお石の分布は……」




 説明が終わり解散となった後、朋斗は気になることがあるからとサイモンの所に聞きに行ってしまったので、茅峨はひとり講堂の外で佇む。


「説明、長かったな……俺の見た目大丈夫だったよね……?」


 講堂から解放された安堵と、少し不安が混じる。

 今回の説明会、人は多く集まっていたが自分の顔は見られていないはず。

 前髪で目元を少し隠してるし、青とは全然違う髪色になっているしで、一見分からない、と思いたい。


(俺も屈折魔法みたいなスフィア出来ないかな? 光の加減だよね、あれって……)

 思案しながら毛先を摘む。


 朋斗の買ってきた変装用品。

 渡された時、茅峨は爆睡していた上に買い物を全て任せてごめん……と眉を下げたら、「おまえが大きな街でウロウロする方が危ないわ、めっちゃ冒険者居たし」と言われた。


 ウィッグは鎖骨ほどの長さで濃いめのミルクティー色だ。

 毛先に向かってふわりとしていて、片方の横髪は緩く編み込み小さな花のバレッタで留めてある。

 ボトムスは今までと同じスキニーパンツとショートブーツだが、上着はくすみピンクのAラインマウンテンパーカー。


 着替えた時にこれは朋斗の趣味なのかと聞くと怒られた。

「知ってる女子が、こういう感じ好き〜っつってたの! 男の趣味に合わせて女装させちゃマズいだろ!」

 とかなり複雑そうな顔で口を尖らせていた。



「ねえキミ」


 ふと目の前に影が掛かって見上げる。

 男が二人、茅峨に笑顔を向けていた。


「さっきの説明会、女の子が一人だけいるなぁって思ってたんだ。良かったら俺らと一緒に洞窟行かない?」


 茅峨は驚いて吹き出しそうになった。

(おっ女の子!?)


 一応茅峨はきょろきょろと周りを見てみたが、近くに女の子はいない。


(お、俺、かな……!?)


「森も洞窟もモンスター出るしさ、俺ら守ってあげられるよ?」

 二人はどこか得意げだが、そう言われても、と茅峨はとにかく首を横に振った。

(しゃ、喋るとまずいよね。あきらか女の子、みたいな声でもないと思うし……!)

 口元を押さえつつ焦る茅峨は横目で朋斗を探すが、まだこちらには来ていないようだ。


(それに、こういうのって、俺……)


 ――気分が、なんだか



「おまえ〜この子黙っちゃったじゃん! 大丈夫だって、おれらその辺の適当な冒険者じゃねえからさー」

「えっ俺のせい? ははっまいったな、こう見えてランクAなんだよ? 心配しないでくれよ〜」


「……、」


 どこか砕けつつコミカルに話しかけてくるが、茅峨はそんな男達を見上げたまま。

 反応も鈍くなり、立ち尽くしてしまった。


「ほら……な? 行こうぜ」


(あ、これ……まずい……、かも)



 ――背格好、年齢、性別。



 言葉遣い、会話を、思い出す。


 頼み事、仕事、てをつかまれる 


 ――。



 ずっと自分には、選択権がなかったのだ。




「茅……ッ!」


 呼びかけて朋斗は思わず口を押さえ、茅峨の方へ駆け寄る。


「あ?」

「ちょ……! あのー、こいつになにか?」


 そう言いながら、茅峨の手首を握っていた男の手を朋斗は軽く掴む。

 抵抗されないよう力加減を誤魔化しつつ、そろりと外させた。




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