第38話 メンバーチェンジ-1-
下水道を辿り、下水処理施設から川原へと出る。
森を抜けた先に深夜帯まで運営のある馬車の停留所があるらしく、そこを目指すことになった。
馬車を使うのは顔がバレる恐れがあるのでは? と茅峨が伺うと、夜も更けていて更に茅峨の髪色が違うこと、茅峨に光源屈折の魔法を一時的に掛けるので顔の作りの詳細はぼかせるだろう、と嘉神は言う。
「え!? 髪の色が違うって、どっどういうこと……!?」
「おまえさっきから黒髪なんだよな。嘉神サンのその、魔法っつーので」
傍を歩く朋斗が説明する。
茅峨は夜の暗がり且つ自分の髪の長さ的にも上手く確認出来ず、前髪を摘んで頑張って見ようとしている。
とりあえず馬車まで、ということで、朋斗は二人に同行していた。
移動の間に茅峨は、朋斗に自分の人格……分裂した精神症状をどうにかしたくて王都を目指していることを話した。
「んー確かにあっちは色んな職の人も研究者もいるしな。おまえとセレキが分離したら指名手配の中身も変わるかもしんねえけど……」
「俺思ったんだけど」
茅峨は口元に指先を添え、至極真面目に呟く。
「捕まった方が早く王都に行けるんじゃ……!?」
「いやそれ牢屋直行案件だから!」
「ならやっぱり指名手配犯だってバレない様に王都まで行って分裂を治すしか……」
「俺が言うのもなんだけどさぁかなり無理ゲーじゃね……?」
どのみちこの状態で捕まるのも、セレキと精神的にひとつに纏まるのも、セレキが犯したネハラの罪は主人格の茅峨が受けることになる。
自分の気持ちにも身体にも、更には環境にも頓着は無かったはずなのだが……
セレキのあの上からの物言いと腹に一物あるような笑みを思い出すと、不思議となかなか素直に納得出来ない。
「……やっぱり出来るならベリッと引き剥がすしか……」
「なんか恐いこと言ってんな……そういや茅峨、忘れてたけどおまえ俺に頼みたいことあるとか言ってなかった?」
朋斗の問いに茅峨は目を瞬かせる。
「え……なんだっけ、明日のこと? あの報道が無かったら朋斗にウェアウルフの集落に着いてきてほしいなぁって思ってたんだけど……」
この辺りに長居出来なくなった事に肩を落としていると、朋斗はそうじゃなくて、と続けた。
「洞窟か川原かで、確か鑑定の話した時に言ってただろ」
「鑑定……あ!」
未族の事が鑑定で少しでも分かれば、とあの時思ったのだった。
「朋斗、俺のステータスっていうの、見れるんだよね? なんか種族のこととか出てなかった?」
「茅峨の種族? って未族とかいうやつだよな。見慣れねえ単語はあったけどほぼ詳細不明だったぜ……もっかい見る?」
そう言われてコクコクと頷き鑑定スキルを使ってもらう。
スキル発動の当人にしか見えない何かが出ているようで朋斗は目線を走らせてみるが、うーんと眉を顰める。
「やっぱ詳しくは出てこねえな。異能を使用する未族、アノマリアホルダーってなってる。なにそれ?」
「俺も知らない……嘉神は?」
先を歩く嘉神に問いかける。
「その単語はライブラリーの本で目にはしたが、恐らく学名だろう、という事以外は私も分からない」
「学名……?」
「つかさ、俺の鑑定スキルがノーマルだからあんまり細かい内容が出てこないんだと思う。なにか調べたかったんだろ? 使えなくて悪いな」
そう申し訳無さそうに言われて首を横に振る。そして嘉神には聞こえないよう、朋斗に小声で話しかけた。
「……あのさ、さっき嘉神のことも鑑定した?」
「ああ流石にな。攻撃系の術とか撃たれたらやばいし、とりあえず得意属性調べようと思ったんだけど……」
「か……嘉神ってどんな結果が出たの?」
「それが」
それはほぼ興味本位だった。魔法が使える理由や出身の国も分かるかもしれなかったのだが。
朋斗は、茅峨よりも声を潜めた。
「……出なかったんだわ。これも俺のスキルが高くねえからだとは思うけど、にしたってあの表示は初めてだった」
「出なかった……?」
「NO DATE……ステータスがねえの」
――先程の下水道での対峙。朋斗は嘉神の能力値を確かに鑑定した。
したのだが、通常朋斗が視える範囲の中に何も含まれていなかったのだ。
今まで鑑定してきた経験の中で、人間でもモンスターでも基本ステータスラインの種族名称は必ず表れたのに、それさえ無かった。
あの時対峙しながら朋斗は内心焦っていた。
(『人間』すら表示されねぇとか、バグ……? あ、目をちゃんと見れてないからか!? にしたって完全データ無しなんてことあり得ねえだろ……!)
――そんな感じで嘉神に関しては余計に謎が深まってしまった。
「でさ、俺あの一瞬思ったんだよな……人間じゃないデータ無しって……」
「お、俺も、今思っちゃった……」
朋斗と茅峨は顔を突き合わせて小声で話す。
「嘉神って、ゴーストなんじゃねえ……!?」
「それ……!!!」
二人して互いに指差し青ざめる。もうなんか怖い。未知すぎて。
「ででででも確かにそうは思ったけどでもたぶんそれは無いよ!! 嘉神が誰かに見えてないなんてこと……みんな会話出来てたし、っていうか嘉神ってコクヒンなんだよ!」
「国賓!!? どの辺が!?」
軽く失礼な驚き方をしながら、更に朋斗は続ける。
「しかも余計こえーのはさ、俺テンパってゴーストだとか思ったけど、ゴーストはしっかり鑑定に出るんだよ。『ゴースト』って。モンスターかゆるい霊体かは度合いによるけど、それでもこの世界じゃ一応種族扱いなんだよな」
「じゃ、じゃあほんとに嘉神って何者!?」
身振り手振りが大きくなりそうなのをなんとか抑えて小声でワァワァと言い合う。
「その前に魔法が使えるってのも意味不明なんだけど? 確かに術にしちゃヘンだなーと思ったんだよな……けどそんな、まさかじゃん」
「そ、そうだね……」
「…………魔法が使えるってことは、魔力があるってことだよな」
朋斗の言葉に茅峨は首を傾げる。
「え? まりょくって、モンスターの……」
魔力は魔物や魔獣の原動力の一部である。
それは妖怪や幻獣にも通じるものがあり、例えば火を吹くドラゴンには特大の魔力が内包されているという。
「……ウン、これ深掘りしたら絶対ろくでもねーだろ。あのヒト、信用しすぎても危なくねーか……?」
「けど俺、嘉神に未族の情報提供の協力することになってて……」
「おま……どうせそれ目的聞かされてねぇんだろ」
こくりと頷いた茅峨に「属性善人か?」と朋斗は半ば呆れる。肩口でリィが困ったように鳴いた。
(……やっぱりあのヒト、リィが分析出来る魔力形態じゃないんだな……そんなこと初めてだけど……つまり嘉神が仮にすげえ魔力持ってても頼れないってわけか)
朋斗は嘉神の後ろ姿を見つめて顔色を変えずに思案していたが、茅峨はそれを不審に考えていると感じたようだった。
「と、朋斗。嘉神は俺に色々教えてくれたり助けてくれた人で、この国のお姫様とも仲良いし、悪い人じゃないと思うんだ……!」
「姫って!? 待ってもう情報を出すな多いんだよ持ってる項目が!」
茅峨は嘉神のプレゼンをしたかったが、キャパがしんどくなってきた朋斗にめちゃめちゃ拒否られた。




